21:事後処理-報告
「はぁ……今回の件はボツにするしかないな……」
「そうですね。宙賊との戦闘があったなんて話、記事には出来ません」
さて、ギガロク宙賊団の一部と思しき宙賊たちによる『ツメバケイ号』襲撃事件は色々と予期せぬものもあったが、何とか終息した。
その後については事前の予定通り。
『ツメバケイ号』は応急修理を終えたら、護衛を伴って移動。
『ツメバケイ号』の客だった俺たち三人は警邏部隊の船に乗ってグログロベータ星系側のガイドコロニーへ一足先へ移動。
宙賊たち自身とその船も警邏部隊の船によって曳航され、グログロベータ星系のガイドコロニー近くの宙域で詳しい見分が行われることとなる。
「本来の予定では星系間移動がどんなものなのかーと言う記事を書くつもりだったんだが……ぐぬぬ、唐突にグログロベータ星系編の記事を始めるしかないのか?」
「悩ましい話ですね」
そんなわけで、俺、ヴィリジアニラ、メモクシの三人は現在グログロベータ星系のガイドコロニーに存在している高級ホテルにて缶詰め中。
事情聴取やら何やらで、少なくとも数日は移動できない事になっている。
まあ、移動できない事は特に問題はない。
滞在にかかる費用は全額警邏部隊が持ってくれているし、待遇は皇室所属であるヴィリジアニラが居るからかロイヤルスイートと呼ばれるようなこれまでの俺には縁がなかったレベルのもの。
滞在中にやる事にしても、事情聴取で話す内容のすり合わせ、ヴィリジアニラが所属している帝国軍の諜報部隊との正式な契約、お互いの能力や事情の開示、これからの予定の打ち合わせ、と言った具合に幾らでもあるので、暇を持て余すことはないだろう。
それはそれとして、これからも表向きの仕事としてやるフリーライターとしてのネタが一つ潰れたので、ぐぬぬぬぬとしか言いようがない状態なのだが。
あー、でも、流石はロイヤルスイート。
グログロベータ星系産の最高級茶葉とヒラトラツグミ星系の最高級モーモーダックの乳卵によって淹れられたミルクティーは、紅茶の香りも乳の甘味も素晴らしく、調和がとれた、正に逸品って感じだ。
おかげで心が落ち着いていく。
「ヴィー様。サタ様。メモ宛てに捜査情報の第一報が届きました」
「聞かせて。メモ」
「はぁ……聞く。どういう事情だったんだ?」
と、ここで部屋の中で待機していたメモクシが口を開く。
どうやら何かしらの情報が入ったらしい。
「では順番に説明いたします」
そうしてメモクシが説明してくれたのだが……その内容は驚くべきものだった。
「壊滅? ギガロク宙賊団が!?」
「はい」
まずギガロク宙賊団は二週間ほど前に全く別の宙域で壊滅と言ってもいい状態になっていたらしい。
しかも壊滅の理由は宇宙怪獣に襲われたとか、帝国軍に討伐されたとか、凄腕の傭兵に蹴散らされたとかではなく……内部崩壊。
それも、未だに……当人たちから話を聞いても要領を得ない、事情不明の内部崩壊が起きたらしい。
「……。精神操作系の違法mod、あるいは麻薬やドラッグの違法modが暴走したのでしょうか?」
「無くはないが……いや、この件は今は置いておこう。それよりも、『ツメバケイ号』を襲った奴らは何でここに?」
「そちらについては単純な話です」
で、内部崩壊の結果、酷い同士討ちも起きて、それを生き延びた連中は帝国各地方々へと散っていった。
その一部が、『ツメバケイ号』を襲ってきた連中だったらしい。
襲った理由については、宙賊らしく都合のいい獲物に見えたからと言う単純な理由で、裏はなさそうとのこと。
「例の蟹については?」
「不明です。ただ、人造人間製造装置に異常なmodの痕跡は見られませんし、もう一隻の船に乗っていた宙賊たちも何も知らなさそうだと言う話が出ていますね」
「不気味ですね。そうなると、あの蟹の出元こそが内部崩壊の元凶であることも考えるべきでしょうか?」
「かもな。まあ、決めつけをせず、あらゆる可能性を考えた方がよさそうな話だ」
人造人間製造装置の船から出てきたあの蟹については不明。
現物が残っていればもっと調査が進んだと言う恨み言もあるようだが……警邏部隊の宙賊船に突入する人員が数で押さなければ一方的に狩られるような相手だからな。
安全性を考えたら始末するほかない。
それが俺を含めて現場一同の判断だ。
それでも何か言うなら……まあ、言った奴は周囲から締め上げられておしまいか。
「現状上がってきた話は以上となります。ヴィー様」
「ありがとう。メモ。続報があり次第教えて」
「かしこまりました」
メモクシが一礼をして待機状態に戻る。
「サタ」
「なんだ?」
「貴方の能力については事情聴取で訊かれても、全て所属の都合で話せない。訊きたいのなら主であるヴィリジアニラに尋ねて欲しいと答えてください」
「分かった」
どうやら折角なので、このまま事情聴取の際のすり合わせに移行するようだ。
ただ、俺の能力については全面的にヴィリジアニラが答えることにする、と。
確かに今の俺の主はヴィリジアニラなので、それで問題はなさそうだな。
「代わりに、貴方の能力について出来る限り話していただけますか? セイリョー社から帝国に送られた貴方についての資料の開示請求はまだ通っていないので」
「分かった。じゃあ……そうだな、俺がどういう経緯で生まれたかから話していくか」
「お願いします。メモ、記録を」
では、俺について、俺自身が把握している限りで話していくとしよう。