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2:ヒラトラツグミの港

本日二話目となります。

 帝国歴2587年。

 ヒラトラツグミ星系、プライマルコロニー。


 ヒラトラツグミ星系のプライマルコロニーはネジ型と呼ばれる形をしており、半球形の平面部分に円柱がくっついている。

 そして、その半球形の部分にはコロニー外部と出入りするための宇宙船が集まる宇宙港が設置されていて、何十、何百の大小様々、形状多様な宇宙船がそれぞれのドックに並んでいる。

 で、そんなドックの一つに俺は今立っていた。


「さて、書き出しはどうしたものだろうなぁ……。誕生から六年。セイリョーコロニーでの勤めを終えて、フリーライターのサタ・セーテクスによる記事書き生活が始まって一年。慣れ親しみ、色々と書いたヒラトラツグミ星系を旅立ち、公的には初めて別の星系に赴くとなれば、その過程も含めて書きたいところではあるんだよなぁ……」

 俺は自分の情報端末を取り出すと、タブレット型の情報端末の表面を指でなぞって、幾つかの情報を出す。

 その情報の一つは俺が普段記事を寄稿しているサイト。

 記者の名前はサタ・コモン・セーテクス・L・セイリョーと言う俺の名前。

 名前にカーソルを合わせれば、黒髪黒目の若干体を鍛えていることと首にバンダナを巻いている事を除けば、何処にでも居そうな風貌をした青年……つまりは俺の写真が出てくる。


 なお、製造から6年経っても、俺の姿は製造当時のまま、帝国の標準的なヒューマンで言うところの20歳前後の姿をしているのだが……まあ、俺が人造人間であることは名前からして明らかなので、特に疑問に持たれることはないか。


「うーん、俺の立ち位置と言うか、記事の評価から考えるに、一から順番にやっていくのがよさそうか。となれば、目標は生まれ育った惑星やコロニーから出たことがない人にも楽しめて、機会があれば行きたいと思わせるような記事。やっぱりこれだな」

 それはそれとして、名前の下に並ぶのは、これまでに俺が寄稿した記事とそれらに対する評価だ。


 これまでに寄稿した記事の内容は主に此処ヒラトラツグミ星系に存在している飲食店や観光地について。

 評価としては、事前知識がない人が読んだ時に面白いと感じるように書いた記事、あるいは素直に書いた記事の評価はおおむね高い。

 逆に自分でもちょっと微妙かなと思った記事は……まあ、そこそこだ。

 読者を大事にするのはライターの基本と最初の頃に教わった事であるし、俺自身もそう思うので、やはりそういう方向で行くのがよさそうではある。


「相変わらず、なんでこの辺の記事も読まれているのかが分からん」

 後、俺的にはよくない出来の記事なのだが、本当に危険を感じた時やヤバい飲食店に当たった時の記事も評価はともかくお金的にはいい感じになってる。

 危険な場所などについて事前に情報を知っておきたいとか、そう言う話なのだろうか。


「まあいいか、それより白紙の原稿を埋めていかないとな。記事を書かなければ食べるものがないのがフリーライターって奴なんだ。方針はさっき呟いた通りとして……」

 なお、独り言が出てしまうのは、一人で生活をしていて、周囲数メートルに人影がない状態であればよくある事なので、気にする必要はない。

 割とよくあることだし、挙動不審だったりしなければ、そこまで他人と言うのは気にしないものだ、


「ふうむ……。折角だし船の外観や名前からやっていくか」

 ドックに泊まっている俺が今回乗り込む宇宙船へと視線を向ける。

 そして、カメラアプリを起動して、その宇宙船を撮影。

 なお、最近のカメラアプリは便利なもので、撮影許可が出ていないものは一定の解像度以上で撮れないようになっていたり、そもそも起動しなかったりする。

 勿論、そんな規制をすり抜けて撮影する手段もあるわけだが……俺には無縁の話だな。


 さて、今回俺が乗り込む船の名前は『ツメバケイ号』。

 ヒラトラツグミ星系とグログロベータ星系を繋ぐ星系間定期船であり、人間よりも各種貨物を運ぶことをメインとした貨物船。

 外見としては色々なものを食べ過ぎて腹が膨れ、太った鳥のようにも見える。

 全長は1キロメートルほどで、幅と高さはそれぞれ数百メートル。

 それだけのサイズはあるが、だいたい4分の3程度は貨物スペースであり、残りが船員と乗客の為の居住スペースになっている。

 もう少し具体的に言えば、膨れた腹部分が貨物スペースで、腹以外の部分が居住スペースだ。


 カラーリングは概ね白。

 これは宇宙航行法において、民間の船が暗色系の色を外装に用いる場合、その割合に制限がかかっているので当然のことである。

 まあ、宇宙空間と言うのは基本的に黒一色の背景と考えてもいい空間であるし、後ろめたいことがないのであれば、その空間に紛れずに済む明るい色が主体となる事は当然と言えるだろう。


 『ツメバケイ号』の外見には素人の目で見て目立った傷は見当たらないし、推進力の噴出口周りも軽く見させてもらったが異常はない。

 どうやらきちんと整備が行われている船のようだ。

 まあ、裏話としては、そういうきちんとした整備が行われている船だと分かっているからこそ、俺は今回予約を入れたのだけど。

 ただ、明らかにヤバい船に乗ると本当に命の危機に見舞われることになるので、この辺の最低限の見極めについては記事にも書いておくべきだろう。


「乗り込み口は……あっちだな」

 俺は開放されている後部の貨物用搬入ハッチから内部へ、次から次へと大型のコンテナが詰め込まれていくの眺めつつ、『ツメバケイ号』の人間向け乗り込み口の方へと向かっていく。

 『ツメバケイ号』の乗り込み口は居住スペースの中でも上部の方についているらしく、そこに繋がるように半透明のチューブがドックにまで伸ばされている。

 そしてチューブの入り口には、船員と思しき男性の姿とコロニーの職員と思しき男性、職員のサポートを行うのであろうアンドロイドの姿があった。

 三人の様子からして、談笑中のようだ。


「おっと、仕事みたいだな」

「そうだな」

「では真面目に行きましょう」

「ははは、すみません。談笑中だったでしょうに」

 向こうが気付き、俺は少しばつが悪そうに三人へと近づいていった。

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