17:宇宙怪獣
「「「ーーーーー!?」」」
無重力、ゼロ気圧、極低温、放射線、その他諸々。
どれをとっても人が生存するためには対策必須のものに満ち溢れているのが、宇宙と言う何もない空間の特徴だ。
あまりにも何もないのだから、帝国の人々の殆どが利用している環境安定modにしても維持できるのはほんの数秒から数十秒程度であり、その時間を過ぎれば待っているのは圧倒的な環境からの殺意に生身で晒されることになる。
おまけに宙賊の奴は通路がある衝角を自分の船から引き離す際に、僅かにだが宙賊の船が向かう方向とも、『ツメバケイ号』が向かう方向とも違う、別方向へのベクトルを与えていた。
宇宙空間では一見静止しているように見えても、実際には凄まじい速さで動いていると言うのはよくある事。
つまり、引き離された通路も、引き離される際に通路に居た人造人間たちと俺も、急速に『ツメバケイ号』から遠く離された空間へと流されつつあった。
この時点で、普通の人間の生存は不可能であると断言していい。
仮に何かしらの方法で宇宙空間での長時間生存を可能にしていても、何処かへ辿り着く方法が無ければ、最終的には『そうして、○○は考える事を止めた』と言う状態にならざるを得ず、助かるためには奇跡的な偶然に頼る他ないからだ。
「ま、普通の人間なら、なんだけど」
さて、そんな状況に自ら嵌ったのだから、俺には当然対策がある。
まず宇宙空間。
俺は諸事情から宇宙空間で普通に生存可能なので、何も問題はない。
そして移動手段。
俺の脳裏には幾つかの座標がある。
俺の生まれ故郷、慣れ親しんだヒラトラツグミ星系、それに先ほど人造人間たちの血を舐めた際に獲得した彼らが生成された場所。
俺が認識しているこの座標は絶対的な座標と言ってよく、戦闘中に利用できるようなものではないが、今のようにある程度落ち着いていられる環境ならば利用できる。
『はははははっ! ざまあみやがれ! 人造人間の分際で英雄ごっこなんてしているからこうなるんだよ! ばあああぁぁぁぁぁかっ!!』
「はいよっと」
そう、例えば、通常空間に居る俺の体を一度引っ込めて、それから新しい体を通常空間へ出す際に取得した座標を利用して、疑似的な転移を行う、と言った具合にだ。
「うーん……」
と言うわけで、俺は宙賊の船の中に侵入成功。
それも人造人間を製造している、船の中でも中枢に近い部分にだ。
そして周囲だが……一言で言えば胸糞悪い。
人造人間の製造装置と言ってしまえば、普通は俺の生まれ故郷のように人造子宮・胎盤や培養槽と言った、非生物の器機を利用するものである。
これはコスト面や安定性の面から言って当然のことと言っていい。
だが、この船とあの人造人間たちの所有者は宙賊と言う、正規の手段を利用できず、倫理観の類にも期待できない連中である。
「分かってはいたが胸糞悪いな」
「「「……」」」
であるならば、生きている人間を改造あるいはパーツ取りに利用して、人造人間を製造するのは当然の帰結と言えるだろう。
なにせ、生物の製造そのものはだいたいの生物の基本機能と言って差し支えないのだから。
使えない部分にしても原材料にはなるわけだし……くそったれなほどに効率的で非人道的である。
しかも、他にも色々と使っていた形跡も見えるし……本当にクソの極みだな。
こう言うのがあるから、宙賊相手は死んだ方がマシと言われるのだ。
「とりあえず全部壊すか」
さて、こうなった人間を助ける方法は残念ながら無い。
馬鹿でも使えるほどに極まった科学技術があれども、どうにもならない事はある。
故に俺は棒を限界まで伸ばすと、全力で振り回して片っ端から叩き壊していく。
『なんだ!? 何が起きて……はあっ!!? なんでテメエが!? テメエはさっき間違いなく……!?』
「さてなんでだろうなぁ?」
船の主であろう宙賊の男の声が響く。
俺はそれに応えつつ棒を振り回し続け、製造装置も、待機中の人造人間も、ついでに人造人間の原材料である炭素などの塊なども破壊。
最後のそれについては、この場にあった適当な薬剤もかけておいて、即時の再利用が出来ないようにもしておく。
『ぶち殺せええっ!』
「「「侵入者を発見。排じ……」」」
「悪いが力のセーブは無しだ」
宙賊の男の声と共に人造人間たちが部屋に入ってくる。
そして、入ってきた瞬間に棒を叩きつけ、拳を振るい、蹴りをかまし、全ての人造人間の全身を爆散させて始末する。
『俺のおもちゃを台無しにしやがったそいつを……は?』
「おいおいどうした? 俺がお前の人造人間たちよりも強いのは、もう分かってる事だろ?」
『ば、馬鹿な。あり得ない。さっき見た時は……』
「ああでもそうだな。一つだけ明言しておくとだ」
俺は宙賊の船の中を進んでいく。
隔壁を蹴破り、人造人間を叩き殺し、船員と思しき宙賊の首を掴んでへし折って、考えなしの増築によって作られた壁や配管を叩き壊しながら、真っすぐに船の主であろう男がいる場所へと突き進んでいく。
「今の俺は滅茶苦茶に機嫌が悪いぞ。普段抑えている力を少し開放している程度にはな」
『……!?』
船の中に悪臭が立ち込めていく。
中度の事象破綻に伴う独特の臭いが、元々汚い宙賊の船の中を銀色にヘドロを混ぜ込んだようなこの世ならざる領域へと変化させていく。
船の床が溶け落ち、壁が腐敗し、船の環境を維持するためのmodたちが悲鳴を上げる。
「ふ、ふざけんな……そんな化け物が……」
「さて到着だな」
そんな状況で俺は宙賊の船の船橋に到着。
出迎えに違法改造によって出力を上げたらしいブラスターを撃ち込まれたので、船長と思しき宙賊以外の全員を即殺。
棒と体に付いた血や肉片を消した上で、船長の前に俺は立つ。
「なんで人型の宇宙怪獣なんて化け物がこんなところに居やがるんだ、畜生があああぁぁぁぁっ!」
「文字通りに偶々だ」
船長はブラスターでは効果がないと見たのか、刀のような鋭利な刃物を振りかぶってくる。
「ーーーーー!?」
が、当たってやる理由もないので、普通に避けると、シールドが反応しない程度の速さで相手の手首を握りつぶす。
そして、そのまま、同様の手段でもって四肢を潰していき……。
「ま、散々、善き人々を身勝手な理由で唐突に襲い、自分の腹を満たしてきたんだろ? だったらこれは因果応報、あるべき沙汰が下っただけの事って奴だ。むしろ、お前がやってきたことに比べればはるかに楽に逝ける分だけ、俺に感謝をして欲しいぐらいだな」
首を踏み潰して殺した。
船内に生物の気配はないし、これでこの船は制圧完了と言っていいだろう。
船長の首も残してあるので、後の確認作業もだいぶ楽になるはずだ。
「さて、もう一隻はどうなっている?」
俺は『ツメバケイ号』、それにもう一隻の宙賊の船……引きずり出しの船がどうなっているのかを見た。
宙賊たちの捕らえた人間の扱いは何処かの毬栗が執筆した「天沢館・人狼ゲーム」(18歳未満の子は読んじゃダメだよ)を数段酷くしたものとお考え下さい。
つまり迂闊かつ安易に具体的な事は書けません。