16:戦闘開始
「獲物への侵入に成功」
声がする。
人間の、けれど感情と言うものを一切感じさせない無機質な声がする。
「周囲に敵影は無し」
数は三人。
全員が同じ顔をしていて、右腕が生体ブラスターに改造されている。
体の他の部分も硬質な甲殻に覆われており、生体パワードスーツを着込んでいると言えるような状態だ。
「了解。これより内部の制圧を開始する」
これは……人間を改造したものではなく人造人間だな。
それも俺のように一体一体が丁寧に作られたタイプではなく、使い捨てに出来るように粗製乱造されたタイプ。
此処までくると生物兵器あるいは有機ドローンと評する方が正しいだろう。
「行動……」
では、様子見はここまで。
俺は『ツメバケイ号』のカメラにも、相手の目やカメラにも映らない、完全に死角となる位置から新しい体を出す。
身なりは潰される直前と同一のもの。
俺の手には総チタン製の棒が握られており、棒は俺が振り下ろす勢いと位置に合わせて仕込まれたmodを起動して伸長。
3メートルの長さに達した棒は宙賊の人造人間の後頭部へと正確に振り下ろされて……。
「かぎょ!?」
「「!?」」
「シールドブレイク」
宙賊の人造人間が張っていたシールドmodに許容量以上の衝撃を与えて破壊。
シールドが破壊されたことで生じる衝撃波によって棒は弾かれるが……。
「からのくたばれ」
「「!?」」
棒が『ツメバケイ号』通路の天井に触れる前に縮め、手首を返し、シールドを打った側と逆側が前方へ向けられたタイミングで再び伸ばして、宙賊の人造人間の頭部を粉砕する。
「敵を確認」
「撃破す……」
「遅い」
一人が殺されたことで、残りの二人がこちらにブラスターの銃口を向ける。
が、その前に俺は二人の間に飛び込むと、俺を中心点として二人の位置が線対称になる場所で回転、正確かつ同時に二人のシールドを棒で打ち砕く。
そして、直後にシールドを粉砕した勢いで回転方向を反転。
どちらの頭部も木っ端みじんに砕く。
「さて、お代わりは……」
『ツメバケイ号』の通路は人造人間の血肉と瓦礫で見るも無残な姿になっている。
小市民の俺としてはこれの修理と清掃に幾らかかるのかと青ざめてしまうところではあるが……今はそれどころではないので、俺は殺した人造人間の血に手で触れつつ、宙賊が乗り込んできた通路を影から窺う。
「先行した三人の死亡を確認」
「敵が一体であることを確認。身体能力化から人造人間であると思われる」
「武装は金属製の伸縮する棒を所有しているのを確認」
「はいはい、当然居ますよねっと」
通路には既に次の人造人間が三人居て、盾を構えながらゆっくりと前進している。
その背後にはさらに複数人の人造人間。
合わせれば10人以上は確実に居そうだ。
「ペロッと」
俺は手に付いた人造人間の血を舐める。
手で触れた時点でこいつらの構成modが碌なものではないのは分かっていたが、少しでも情報を集めるためだ。
で、俺の舌で探った限り……。
環境安定mod、シールドmod、言語翻訳mod、身体強化mod、ブラスターmod、この辺の定番に加えて、生成の段階で皮膚の甲殻化、精神活動の制限、思考能力の制限、生成から72時間での自壊、通信と言ったmodが入っているようだな。
そして、その大半が正規品ではなく違法品、宙賊同士の間で融通されている安定性や安全性よりもコストの安さや火力を優先したもののようだ。
後、甲殻の影響なのか、なんとなくだが味がカニとかエビっぽい感じがある。
で、俺の知識に無いものとなると……とりあえず目に付いたところだと、ギガロク宙賊団固有のタグ付けと識別用のmodが含まれているな。
精査すれば他にも独自のはあるかもだが、目立つのはこれだ。
という事は、こいつらはギガロク宙賊団と言う事になるが……妙だな。
「流れ? いや、俺でも知っている規模の大規模宙賊団だ。足抜けなんぞそうそう出来るもんじゃないし、足抜け出来たとしても超光速空間への干渉が出来る艦と鹵獲狙いの乗り込み戦闘が出来る艦なんて持ち出せるものじゃないだろ。どこかへの移動途中ならもっと船の数が居るはず。いったい何が起きてる?」
ギガロク宙賊団と言うのは、もっと帝国の外れの方で活動している宙賊団であり、俺が知る限りでも十数隻の宇宙船からなる大規模な宙賊団だ。
間違っても、こんな場所で、たった二隻で活動しているような宙賊団ではない。
だが、識別タグのmodは間違いなく本物だし、外に流出させていいようなものでもない。
「攻撃開始」
「ちっ」
気になる事はあるが、悠長に考えている暇はないようだ。
こちらを射程に収めたらしい人造人間たちがグレネードを投げ込んでくる。
使い捨てのmod兵器であり、爆発した場所を中心に衝撃波と高温をまき散らす兵器で、生身や俺が使っているような民生低グレードのシールドmodで防げるような代物ではない。
なので俺は即座に潜んでいた影から飛び出すと、人造人間たちの方に向かって駆け出す。
「「「斉射」」」
「当たるかよ」
俺の行動は人造人間たちには想定通りの行動だったのだろう。
直ぐに人造人間たちのブラスターになった右腕が向けられ、光線が一斉に放たれる。
が、所詮は点だ。
ブラスターmodの起動と高まりを感知し、銃口が向けられている方向を正確に認識できるならば、その隙間を飛びぬける事はそう難しくなく、俺は人造人間たちのブラスターを回避しつつ、飛び込んで、そのまま敵中で暴れ出す。
「粗製濫造品で俺に勝てると思うなよぉ! おらぁ! 次はどいつだ! お前らの飼い主は何処だ! その空っぽの頭でいい音を響かせてやるよ!!」
暴れて、暴れて、叫んで、衝角持ちの艦を制御している宙賊へと声を届ける。
対処しなければ、このまま船に乗り込んで、その頭をカチ割ってやるぞ、と。
「っ!?」
そして俺の目論見通りに相手は対処してくれた。
通路を『ツメバケイ号』から引き抜くと共に、衝角を自分の船から切り離したのだ。
それはつまり、通路に居た俺と人造人間たちが宇宙空間に生身のまま放り出される事を示していた。
前回完全に叩き潰されたはずの状態から復帰している時点で色々とお察しください。