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14:事象破綻

本日は五話更新です。

こちらは五話目です。

「サタ・セーテクス様。少々お時間のほどよろしいでしょうか?」

「メモクシさんでしたか。構いませんよ。俺の部屋とそこら辺の通路、どちらのがお好みで?」

「部屋の方でお願いします。外に漏らしたい話ではありませんから」

 食堂の外に出てきたメモクシは俺に話しかけてくる。

 対する俺は内密な話かオープンにして問題ない話かを尋ねて……メモクシは前者だと答えた。

 やはりメモクシは先ほど俺がやった事を理解しているらしい。

 と言うわけで、俺とメモクシは二人で客室へと向かうわけだが……。


「ヴィリジアニラさんは放っておいて大丈夫なんで?」

「ご安心を。昨日一日で『ツメバケイ号』の船員に不心得者が居ない事は確認しています。長時間ならともかく、貴方と話をするぐらいの時間は取れます」

「なるほど」

 流石はガイノイド。

 いや、ここまでくると帝国基準では機械知性と呼ばれる存在になるんだったか?

 今もこうしてヴィリジアニラを一時的にとは言え放置して、独自行動をとっているわけだし……そういう風に考えた方が間違いがなさそうだ。

 そうなると迂闊にこちらの情報は出せないな。

 機械知性たちのネットワークは肉の体を持っているこちらにとっては把握しきれないものだ。


「それで、単刀直入に申し上げますが、貴方は先ほどご自身が何をやったのかを理解しているのですか?」

 客室に入って、ロックをかけたら、メモクシは直ぐに話しかけてきた。

 姿勢正しく立った状態で、こちらを真っすぐに見つめている。


「理解はしていますよ。ただ、詳細は明かせません」

 対する俺は椅子に腰かけて、メモクシに言葉を返す。

 こちらに非などないのは理解しているので、堂々とした態度でだ。


「……」

「……」

 俺もメモクシも黙る。

 俺は笑顔を浮かべて、この程度は何でもないと言わんばかりに。

 メモクシも笑顔を浮かべて、けれど人工物で構成された表情の下で何かを蠢かせつつだ。


「詳細、言わないと駄目か?」

「流石に今の説明では駄目ですね。理解せずにやっていたと思われても仕方がありませんよ。何も情報端末がどうやって動いているのか、基礎の理論から話せと言っているわけではないのですから、もう少し情報を出さなければ、相手によってはこの時点で制圧に動いているでしょう」

「はぁ……分かった。じゃあ言う。簡単に言えば軽度の事象破綻を引き起こした。『ツメバケイ号』に積まれている複数の調味料に使われているmodを利用してな。これでいいか?」

「なるほど。本当に理解して、そして狙ってやったのですね。お見それしました」

 まあ、相手も知識を持ってこちらに問いかけてきているのだから、誤魔化せる案件ではないな。

 と言うわけで話してしまう。


 なお、事象破綻とは、相性の悪い複数のmodが競合した際に起こる現象であり、一般には知られていない知識である。

 事象破綻にはいくつかの段階があり、最も軽度と言うか、普通ならば、相性の悪いmod同士が競合した場合には片方あるいは両方が強制停止するか、より高出力の方だけが残るのだが、この程度では事象破綻が起きたと一般人は認識しないだろう。

 今回俺が起こした事象破綻も、このレベルのだ。


「流石はセイリョー社製の人造人間ですね。昔取った杵柄と言う奴でしょうか」

「そう思ってもらって構わない。セイリョー社はmodの研究と検査の為に、星系間コロニーすら有する企業だからな。そこで五年も勤めたなら……まあ、個体にもよるが、こういう事くらいは出来る」

 では、事象破綻の段階が進めば何が起こる?

 最初は匂いがする程度だ。

 その匂いは少しずつきつくなって、悪臭になっていく。

 そして悪臭で留まらなければ爆発のような破壊的現象が発生するようになる。

 確か、帝国の歴史上で最も悲惨な事象破綻と言うと……起きた場所を中心に半径1光年程度が一瞬で消滅したんだったか。

 だからこそ、セイリョー社のような企業は安全なmodの研究をしつつ組み合わせてはいけないmodのパターンを探るのだし、帝国は違法なmodを血眼になって探り、一般的な知識しか有さない層には事象破綻と言う現象が存在する事すら明かされない訳だが。


 メモクシが俺をセイリョー社製の人造人間だって知っている件?

 そんなの相手が貴族付きの機械知性の時点で考えるだけ無駄である。

 なんなら、俺の隠し事だってしっかり理解していても、何もおかしくはない。


「しかしそうなると、あの事象破綻の組み合わせは有用になりますね。有毒化modの解毒などに……」

「あ、それは無理。『ツメバケイ号』の環境、あのシリアルに使われているmod、その辺諸々加味した結果、ギリギリでシリアルに使われているmodが停止するように組んだから」

「へぇ……それが狙って出来るなら……本当に有用ですね。貴方個人の技術が、ですが」

「理論までは完備してない、感覚的な話なので、上手くいかないのが普通だとも言っておきますよ。今回は偶々です。たまたま」

「たまたま……ですか。では、そういう事にしておきましょう」

「ええ、そうしておいてください」

 話し過ぎたか?

 でも、今回ので変な依頼が来ても困るからな。

 俺はフリーライターの仕事を優先したいので、そう言うのがお望みならセイリョー社に問い合わせてください。

 俺クラスのが他に居るとは思わないけどな。


「有意義な話が出来ました。サタ様。もしも貴方がお望みなら、今送ったアドレスにご連絡を。貴方の技術なら我々は歓迎します」

「我々、ねぇ」

 俺の情報端末にメッセージが受信される。

 どうやらメモクシが何かのアドレスを送ってきたらしい。

 うーん、この分だと……メモクシ……いや、その主であるヴィリジアニラもただの貴族のお嬢様ではなく、帝国で何かしらの役職を持っている要人。

 具体例は、治安維持、違法modの捜査、modの研究、諜報……なんでもあり得るか。

 とにかく、明確に帝国に仕えていると断言できる立場っぽいな。

 まあ、貰っておいて損になるものではないな。


「まあ、金に困ったとか、そういう感じで機会があれば……っ!?」

「これは!?」

 そして、話がそこまで進んだ時だった。

 俺とメモクシはそれを……ブラスターの照準を合わせられたような感覚に思わず顔を上げる。

 それから続けて『ツメバケイ号』の船内にアナウンスが響く。


『警告! 警告! 本船『ツメバケイ号』にハイパースペース外からの干渉が行われています! 干渉元の識別コード無し! 加えて、大規模重力異常及びOS異常なし! よって、宙賊からの干渉と思われる!! 総員配置に着け! 乗員以外は……』

「宙賊か……」

「メモはヴィー様の下に向かいます。では」

 どうやら『ツメバケイ号』は宙賊に狙われているらしい。

これにて連続更新は一時終了です。

明日からは毎日一話ずつ12時に投稿予定です。

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