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13:粗悪品のシリアル

本日は五話更新です。

こちらは四話目です。

「さて朝だな」

 帝国共通時間で朝の6時になった。

 『ツメバケイ号』の外は変わらずハイパースペース特有の光景である、宇宙には昼も夜を分けるようなものもないが、時刻的には朝食の時間だ。


 ちなみに帝国の一日は24時間になっている。

 また、一年は420日だが、これは一週間が7日、一か月が5週間、一年が12か月であるためである。

 これはバニラ宇宙帝国の中心である帝星バニラシドに合わせた数字だ。


 で、宇宙船内やコロニーでは自然現象によって昼夜が代わるわけではないので、だいたいのコロニーは帝国共通日時に従って動いている。

 逆に各星系の惑星だと、帝国共通時間に加えて惑星独自時間もあるので……まあ、複雑だ。

 少なくとも、日時の確認をする時はどっちの数字でなのかを明確にしておくのがマナーとは言っておこう。


「さて、朝食は何だろうな~♪ ん?」

 俺は客室を出ると食堂へと向かうのだが……どうにも船員さんたちの表情が暗い。

 何かあったのだろうか?


「何かあったんで?」

「大ありだ。どうやら仕入れ担当がしくじったらしい」

「?」

 俺は適当に近くに居た船員さんに話しかける。

 で、一通りの情報を確認したところ、今はこんな状況らしい。


・『ツメバケイ号』の朝食は基本的にシリアル、モーモーダックの乳卵、温野菜のサラダになっている。

・『ツメバケイ号』の仕入れ担当が、ヒラトラツグミ星系に居る間にスデニバンクラ社のシリアルを安いからと食堂の食事用に大量購入。

・が、そのシリアルはクソ不味いものだった。

・なお、不味いだけで直接的な健康被害が生じるようなものではない。

・余談だが、スデニバンクラ社は『ツメバケイ号』がガイドコロニーに着いた頃、倒産を表明したらしい。


「それはまた、見事にしてやられましたね」

「ああ。粗悪品を掴まされたと言ってもいい。って、まさか、食べてみる気なのか!?」

「ええ」

 一通りの情報を確認したところで、俺は朝食を受け取る。

 そんな俺の行為に朝食を食べに来ていたらしいヴィリジアニラ含めて、誰もが驚きの顔を向ける。


「毒物でもないのに食べずに評価を下すのは、記者としてあるまじき姿だと思っていますので」

 見た目は普通のシリアル……つまりは穀物を押し潰し、砕き、成形し、加熱し、と言った加工を施して、簡単に食べれるようにしたものだな。

 シリアル本体の味を少しでも誤魔化そうとしたのか、同様の加工が施されたベリー類や、砂糖の類も少量混ぜられているようだ。


「……。一応言っておくが、食べるなら自己責任で頼むぞ。マジで酷い味がしたからな。それ」

「もちろんですとも」

 スプーンで一匙すくい、嗅ぐ。

 シリアル自体の匂いはしない。

 シリアルだけを一つ摘まんでみる。

 あ、うーん、確かにヤバいなこりゃあ。

 毒物ではないが、確かにこれを食いたい人間はそう多くないだろうなぁ。


「ふむふむ」

 まあ、それでも口に含み、咀嚼する。

 感じるのはアルコールに似た薬品臭に、鉄の棒を直接噛んでいるような金属臭。

 それもかなり濃い。

 俺は理解した上で口に含んでいるから吐き出さずに済んでいるが、そうでなければ即座に吐き捨てても文句は言われないだろう。

 少なくとも食べ物からしていい臭いではないなぁ。


「これは保存や加工に使われているmodの暴走っぽいかなぁ」

「modの暴走ですか。よく分かりますね」

「まあ、俺は良い舌を持っていますんで」

 だが、食べてみたことで原因は分かった。

 シリアルに加工してからか、加工する前の穀物を対象にしたものなのかまでは分からないが、長期保存するためのmodか加工を円滑に行うためのmod、その一部の終了条件がおかしくなっていて、暴走か競合か不具合を起こしているんだな。

 んー、これだったら……。


「それは?」

「ちょっとした改善案。食堂の担当者さん! 少量で構わないですから、これ、試してもらっていいですか? たぶん、もう少しまともな味にはなると思うんで」

 俺は食堂を運営しているらしいおば様の情報端末に情報を送り、その通りにシリアルを加工してもらう。

 で、物は試しだと、食堂のおばさまは怪訝な顔をしつつも、俺の要望通りにやってくれた。


「「「……」」」

「さて、これで……」

 そして出てきたのが、食欲をそそるとは言い難い真っ黒なソースがかかったシリアルなわけだが……。


「あ、うん。食える味にはなったな」

「「「!?」」」

 まあ、食えない味から、食えなくもない味にはなったな。


「食ってみる?」

「ええい、ままよ! !? 食える……だと……」

「マジかよ……」

「魔法使いか何かか……」

「嘘だろおい……」

 他の船員さんたちの評価としても、食べられないから、ぎりぎり食べられるくらいにはなったようだ。


「一体何をどうやったら……」

「企業秘密です。後、今回限りの対処法なんで、次に同じようなことがあった時にはと言うか、残りのシリアルは素直に廃棄することを俺はオススメします」

 なお、この場で俺が何をやったのかを理解しているとしたら……俺の方へ明らかに睨みつけるような視線を向けているメモクシくらいなものだろう。

 流石はガイノイドと言うべきか、そちら方面の知識もきちんとあるらしい。

 ただ、危険がないことも理解しているのだろう。

 後でヴィリジアニラに話すことはあり得るが、この場で明かす気はないようだ。


「まあでも、マシになったとは言え、流し込めるレベルになっただけだな」

「見た目はある意味悪化してるしな」

「そういう意味でも今回限りの対処法なんですよ。これ」

「とりあえず仕入れ担当は後で処す」

「それな。元のを一杯分食うぐらいはさせておけ」

「しかし、ソースだけなら妙にいい臭いがしてんな、これ」

 余談だが、食えない味を食える味にしただけなので、気分としては食事をしていると言うよりは燃料を胃に流し込んでいる感じである。

 まあ、こういう外れを引くのも旅の醍醐味……ではないが、時々ある事として、受け入れておく方が、精神的に楽になる事だろう。


 なお、ヴィリジアニラは俺の手が入った後のでも一匙でギブアップしていて、顔を渋いものにした後、手を付けることはなかった。

 どうやら貴族の舌と胃には耐えがたいものであったらしい。

 うん、ヴィリジアニラは悪くない。

 この件で悪い奴がいるとしたら、恐らくはわざと粗悪品を流通に乗せたスデニバンクラ社だ。

 もう倒産しているが、関係者各位には色々と手を打っていただきたいものである。


「ごちそうさまでした」

 食事を終えた俺は食堂を後にした。


「ヴィー様。少し失礼します」

「分かったわ」

 そして、俺の後を追うようにメモクシも食堂の外に出てきた。

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