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100:フラレタンボ伯爵との事後処理 ※

本話はヴィー視点となっております。

「お待たせして申し訳ありません。フラレタンボ伯爵」

『いや、時間通りだから問題ない。ヴィリジアニラ殿』

 レストルームにレポート相手に唸っているサタを置いた私、メモ、ジョハリスさんの三人は『パンプキンウィッチ』のコクピットに移動すると、惑星フラレタンボ1に居るフラレタンボ伯爵との通信を始めました。


「まずはこちらの観測状況をお送りします。予測通りに推移すれば、明日には影響がなくなるようです」

『それは吉報ですな。『ブランクOS』の領域など無いに越したことはない』

 この通信は定時連絡のようなもので、『パンプキンウィッチ』が問題なく任務を果たしている事をデータ付きで示します。

 また、こちらに隠し事ややましい事がない事を示すためにも、出来る限り誠実に対応する事が求められる場になっています。


『ではこちらからも。単刀直入に申し上げますが、ヴィリジアニラ殿たちのフラレタンボ星系からの退去を求める申し出は退けました』

「よいのですか?」

『よいも何も、退去を求める方がどうかしている。ヴィリジアニラ殿も、その配下たちも、私たちでは対処できなかった事態に対処しただけで、しかもその成果は称えるものではあっても、蔑むものではない。これで理解できない力を持っているから退去しろなど……帝国中に恥を晒すようなものではありませんか』

「ありがとうございます。フラレタンボ伯爵。ですが、私たちの退去を求める方々の恐れも分からなくはないのです。下手をすれば星系全体に被害が及んでいたのも事実ですから」

『お気遣いありがとうございます。その言葉があるだけでも、彼らの大半は安心する事でしょう。彼らは分からぬが故に恐れるのでしょうから』

 退去はしなくていい。

 となれば、『ブランクOS』領域の消滅さえ確認できれば、観光と監査に移れるでしょう。


『ん? どうした?』

『……』

『分かった。少し待て』

「どうかされましたか?」

 フラレタンボ伯爵が画面外からの言葉に対応します。

 そしてこちらに向きます。

 どうやら何か質問があるようです。


『部下から質問がありました。『ブランクOS』の領域が廃棄ガイドコロニーにあったガイドビーコンによって示されるであろうハイパースペースの空間に沿うように伸びていたことについてどう思うかだそうです。それも出来ればサタ殿の見解を求めているようです』

「ああ、その点ですか。その点については私も気になったので、サタに尋ねました。なので、その時の返答でよければお答えします」

『お願いします』

 私は質問に答えます。

 サタ曰く、事象破綻砲が発射された時点でガイドビーコンが起動しており、ビーコン経由でハイパースペースに繋がるための空間に事象破綻が及んだことで、ハイパースペースに沿うように事象破綻が生じたのではないか、とのこと。

 それはつまり。


「つまり、大昔に廃棄され、放置されていたはずのガイドコロニーなのに、ガイドビーコンがたった数分かつそこまで知識がない者であろうとも容易に再起動できるような状態になっていた、という事でもあります」

『頭が痛い話ですな……。おまけに、本当にそうなっていたかを調べる事はもう出来ない、と』

「ええそうです。ただ、サタ曰く、仮にメーグリニアが事象破綻砲発射時点でハイパースペースに潜り込んでいたとしても、確実に仕留めているそうです。そのようにmodを構築したそうですから」

『そうですか。その点は本当に幸いですな……ガイドビーコンを使っていた誰かはこちらで対処できるでしょうが、宇宙怪獣に真正面から対処するのは莫大なコストがかかるのが分かりましたからな……』

 なお、サタはこうも言っていました。

 仮にあの状況からメーグリニアが生き残るとしたら、物理的に体を切り離すだけでなく、全く別の存在と認識できるほどにOSを変質させる必要がある。

 との事でした。

 そして、知識があるサタでもそれは無理との事なので、メーグリニアが生存している可能性は考えなくてもいいでしょう。


「ところでフラレタンボ伯爵。破壊されたガイドビーコンで繋がっていたであろう星系には何が?」

『超光速望遠鏡で観察した限りでは宇宙怪獣の巣が広がっているようです。惑星サイズの宇宙怪獣が複数体映っているのを見た時には、私も肝を冷やしました……』

「宇宙怪獣の巣……もしかしてお茶会の時の……」

『ええ、ヴィリジアニラ殿が見つけてくださった彼が観察し続けていた星系なのです。立地の関係なのか、他に要因があるのか……一つ確かなのは、人間が踏み込んでいい星系ではないという事です。なので、そんな星系に踏み入っていた人間が居たかもしれないという意味でも、先ほどの話は頭が痛くなる話なわけですな』

「なるほど。もしかしたら、かなり根が深い話なのかもしれませんね」

 どうやらあのガイドコロニーから繋がっている星系は極めて危険な星系のようです。

 そんな星系と密かに行き来をしていた何者か……密輸か、ショートカットか、単純に命知らずか、『宇宙怪獣教』か……いずれにせよ、碌でもない気配がしますね。


「このこと陛下には?」

『既にヴィリジアニラ殿以外の諜報部隊を通じて連絡はしています。宇宙怪獣の事となれば陛下にお伝えしない方が問題ですからな。ですので、万が一、陛下に伝わっていないようでしたら、その時はお願いいたします』

「分かりました」

 まあ、情報伝達については大丈夫でしょう。

 こんな情報を隠して得する者も居ないでしょうから。


『ではヴィリジアニラ殿。次は『ブランクOS』領域の消失を確認したらという事で』

「分かりました。では、消滅を確認次第、お伝えいたします」

 そうして、私とフラレタンボ伯爵の通信は終わりました。


「うっうっうっ。データの提供だけで許してくれよー、改善案じゃなくて改善要望だけで済ませてくれよー、確かに現場でしか計測できない解析できない案件かもだけどさー、終わりが見えたけれど遠いよー……」

「サタ様、幼児退行してませんか?」

「何が書いてあるかまるで分からないっす」

「とりあえず茶と甘いものでも用意しましょうか。メモ」

 余談ですが、レストルームに戻って来た私たちを待っていたのは、ブツブツと呟き、虚空を眺めながらも、キーボードを打つ手だけは止まらず淀みなく動かしているサタの姿でした。

 どうやらセイリョー社が求めるレポートのレベルと言うのはかなり高く、また、提出する先がサタにとって頭の上がらない方のようで、中々の苦戦を強いられているようです。

 ただ残念ながら、私たちに手伝えるのはデータの整理と気晴らしくらいなので……サタ、頑張ってください。

 さっきよりも前進しているのは確かなようですから。

11/19誤字訂正

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