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1:プロローグ

初めましての方は初めまして。

久しぶりの方はお久しぶりです。

栗木下です。

新作です、今回は宇宙ものです。

とは言え、一般的な宇宙作品とは色々と異なる点もあると思いますので、予めご了承くださいませ。


初日は宣伝も兼ねて複数話更新で行きます!

「……」

 意識の覚醒と共に感じたのは、けたたましい音だった。

 いや、このけたたましい音によって起こされたと言う方が正しいのかもしれない。


「ーーーーー」

「~~~~~」

「……」

 視界が少しずつはっきりとしてくる。

 真っ赤な光が目に差し込んでくる。

 人型の生物が集まって来ていて、何かをしている。

 けれど、具体的に何をしているのか分からない。

 液体、それに透明な壁があるために、細かいところは滲んでよく分からないからだ。


「?」

 香りがする。

 最初はいい香りだったが、直ぐに不快な臭いに変わった。

 これはどういう事だろうか?


「ーーーーー!」

「!?」

 いや、そもそもとして俺は誰だ?

 此処は何処だ?

 今は何時だ?

 今、意識の中で行き交っている言葉は何処からやってきた?


「……!」

「~~~~~!!」

 ああ、どうしてか甘じょっぱい味が指先からする。

 体は浮かびも沈みもしない。

 何か細い紐のようなものが幾つもくっついている。

 壁の向こうで人型の生物たちが慌てている。


「……」

 俺はどうすればいいかを考えて……。


「ごばぁぼごぢば(こんにちは)」

 たぶん、挨拶のようなものをした。


「! ーーーーー! kikimashitaka! カレハイマ! あきらかに!」

 世界が啓けていくとでも言えばいいのだろうか?

 急激に視界がはっきりしていく。

 音がただの音ではなく、声として聞こえ始める。

 まるでラジオのチューニングが合ったかのようだ。


「わかっている。きょういくモッドのじょうたいは?」

「ふくすうのエラーをだしていますが、おおむねじゅんちょうです」

「ゆうちせいそんざいであることをかくにんできました」

 頭の中に知識が流れ込んでくる。

 俺が知りたいと望んだことが、流し込む知識の中にあれば優先的に入ってくる。

 嫌がればそれ以上には入ってこない。

 どちらでもない話も少しずつ入ってくる。


「これは……オービタルセッターが違いますね」

「なるほど。つまり彼は分類上は■■■■になるわけか」

「正にイレギュラーって奴ですか」

 此処はどうやら人造人間の製造プラントであるらしい。

 今は帝国歴の2581年のようだ。


「再現は可能っすかね? 一応、アラート発生時点から600秒程度ならば遡れますけど?」

「無理だろ。再現できないからこそのイレギュラーって奴なんだしな。観測範囲外事象まで整えることは現生人類には不可能だ」

「残念。それが出来れば帝国叡智賞総舐めだったでしょうに」

「そいつは間違いない。彼にはそれだけの価値はある」

 俺が今居るのは製造プラントの一角、無数にある培養槽の一つ。

 よく見れば周囲には俺が入っているのと同じような培養槽が幾つも存在していて、段階に多少の差はあれど、どれにも人影のようなものが見えている。

 どうやら俺は此処で発生し、成長し、必要な知識をインストールされて、それから外に出される予定だったのだが……どうやら、製造過程の何処かでエラーが発生したらしい。

 それで担当の人間たちが集まってきたようだ。


「コホン。そろそろ良いかね? 確認だ。事象破綻は?」

「小規模なのが続いていて、独特の臭いを発生させていますが、これくらいなら環境安定modで対応可能な範囲です」

「知性及び意識レベルは?」

「どちらもグリーンっす。知識には一部欠けがあるかもしれませんが、後の教育でどうにか出来る範疇だと思われます」

「生命維持の状態は?」

「オールグリーン……ああいえ、規定よりも溶液の消費が激しいですね。まるで何処かに流れ込んでいるようだ」

「予備から回してやりなさい。数か月分はあっただろう? 貴重なイレギュラーであるし、知的生命体とは助け合うものだ」

 白い立派な髭をたくわえた、白衣の男性が周囲に指示を出しつつ俺へと近づいてくる。


「さて、儂の声は聞こえているね」

 俺はゆっくりとうなずく。


「念のために確認を。儂の声が聞こえ、理解できているのなら、首を傾げてみてくれ」

 俺はゆっくりと首を傾げる。

 傾げるが、なんだか少し曲がりすぎた気がする。


「ふむ……名前はあるかね?」

 ゆっくりと横方向へ首を動かす。

 インストールされた知識通りなら、「はい」と「いいえ」はこれで合っているはずだ。


「そうか。まあ、名前については培養槽の外でも生存できるようになればこちらでも与えるし、君自身が考えてもいいだろう。今はそれよりも重要なことがある」

 白衣の男性、それに周囲の人々も興味深そうにこちらの事を見ている。


「我々セイリョーコロニー人造人間製造部門の面々は君と言う存在の誕生を歓迎する。おめでとう。産まれて来てくれてありがとう。どうか、君の健やかな成長を手助けさせてほしい。それが君を生み出した我々の義務であると同時に喜びでもある」

 そこに嫌悪、恐怖、不安の感情はない。

 あるのは喜び、安堵、期待の感情ばかりだ。


「ようこそ、バニラ宇宙帝国へ。今日は祝賀会だ」

 その事に俺も喜び、安堵し、これからの生活に対する期待で胸を膨らませる。

 俺は彼らに誕生を祝福されているのだと理解できたから。





 そして時は流れて……六年後。

 俺はヒラトラツグミ星系のプライマルコロニー、その宇宙港に立っていた。

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