逃げ出したプレゼント

作者: 佐澤 会

「おまえさんは何もいらんのかい?」


あるイブの日、ニコラウスは僕にそういった。


僕は足下のプレゼントの山を見ながら

「僕はプレゼントを守るのが仕事。僕は何もいらないよ。いつも子供達の分をありがとう。」

それにもうぼくは貰っている。

色とりどりのアクセサリーに、毎年変わらない賞賛の言葉。僕はこれで充分だ。

「そうかいそうかい」

顔をクシャっとさせて笑った彼は煙突の中へ消えて行った。


シャンシャンシャン・・・

トナカイの鈴の音が遠ざかって行く。


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ニコラウスが去って

ほっと一息ついた僕はプレゼントを眺めた。綺麗に包装された箱。毎年うっとりする。

(あれ?!ひとつない?)

さっきまであった黄と赤の縞々の箱が無くなっている。

視線をあげると少し離れた場所に縞々の箱。

(ああよかった。)


ガササ

ニョキ

トコトコ


プレゼントに足が生えた。

(え!)

「ま、まって!?」

プレゼントが走り出した。

そのままドアの向こうへ消えた。

(これは不味い。捕まえなくちゃ!)

僕は、

キラキラに輝くモールのマフラーをコート掛けに、

ベルと天使のイヤリングをだんろの上に、

ニコラウスや雪だるまたちのブレスレットを椅子の上へ、

リボンのアンクレットをだんろの前に、

レンガの鉢のスリッパを脱いで、

(おおっと、わすれちゃいけない)

金色の星の冠を慎重にテーブルの上へ、


そして、プレゼントを追いかけた!!


どうやら、裏の勝手口の建て付けが悪かったらしい。

足跡は外へと続いていた。

屈んで外に出ると、

(あ!)

家の裏の丘の上にプレゼントが見えた。


ウォンウォン!


嬉しそうに鳴いている。

急いで丘にかけ登った。

「ああ!」

ふと振り返ると

家を見下ろす懐かしい景色。

(そう、僕はここを通って家に来たんだ。

あの頃はベスとケビンはまだ生まれていなかったなあ。あ!きっとあれはケビンへのプレゼントだ!)

やんちゃ盛りのケビンの遊び相手に違いない。

踵を返して、プレゼントを追った。


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ウォンウォン!


「バシン!!」

プレゼントに更に穴が空いて

ふさふさした尻尾が飛び出していた。


プレゼントは絶好調だ。


気付くと森の中

月明かりが見えない。

(ああ、急がないと朝になっちゃう。)

「ひさしぶりだね」

頭上から声がした。

「おや、何年ぶりだろう」

(懐かしい声がする!!)


ウォンウォン!!!


(ああ、ここは)

僕の故郷だ。ここは樅の木の森だ。

全身の枝がぶるりと揺れた。

プレゼントは一際大きな樅の木の根元に居た。

「おや元気でやってるかい?」

その木の隣にはくぼみがかすかに残っている。

僕が植わっていたあとだ。

震えながら、ゆっくりそこに腰を落ち着けた。

その時に僕の鼻の先に今夜の初雪が落ちた。


『お帰り、メリークリスマス!!』


遠くの街から鐘の音が聞こえる。

「ただいま、みんな!!」


ウォンウォン!!


プレゼントも嬉しそうだ。

僕は暫く久しぶりの雪につかって

森の空気を楽しんだ。


家では毎年綿の雪だったからね。


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プレゼントに声をかけて、勝手口をくぐった。

リビングに2人で戻った。


僕は、

レンガ鉢のスリッパを履き、

雪だるまやニコラウスのブレスレットを嵌め、

キラキラのモールのマフラーを巻き、

ベルと天使のイヤリングを着けて

そっと、星の冠を被った。

そして、プレゼントは僕の足下に。


それにしてもプレゼントが逃げ出すなんて初めてだ。でも、久しぶりの故郷の仲間に会えた。

プレゼントはただ初めての雪に興奮しただけだったのだろうか?

僕は疲れてそのまま眠ってしまった。


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「メリークリスマス!!」

子供達が起きて来て僕の足下のプレゼントを勢いよく空けた。

「うわーかわいい犬」

「抱かせて!!」

プレゼントは犬という生き物らしい。

無事戻って良かった。

「あれれ?ねえ、プレゼントが一つ多いよ?」

「あれ?誰のだろう?」

ベスはお人形、ケビンは飛行機。

あれ?じゃあその犬は?


ウォンウォン


犬は僕にすり寄って来た。


(おしまい)