Saltr Gravity
「君も知っての通り、私は恋をすると塩を生み出してしまうのだが」
「何言ってんのお前」
放課後の教室にカーテンが揺れて、その隙間からオレンジ色の光が差し込んでくる。
異性の同級生と教室で二人っきりともいえば、なんかしらの邪推をされることもあるかもしれないが、こいつ相手に限ってそういう理由ではないと断言することだって、やぶさかではなかった。だからまあ、今二人っきりなのは単に今日が日直だからなんてあんまり面白みもない理由なのだ。
「私は恋をすると──塩を生み出してしまう」
「わざわざタメを作って、繰り返すな」
「聞いてきたのは君じゃないか」
唇をとがらして、上目遣いになる彼女。同時に、パラパラと白い粉が床に落ちていく。さっきから、まったく掃除が進まなかった原因はこれかよ。
「何を隠そう特異体質ってやつだ」
変にドヤ顔を決めやがる塩出し女。だから、掃除が進まなくなるからやめろよ。
「夏になれば、誰でも塩をふくからそう珍しくもねえぞ。生徒指導の谷沢なんて、しょっちゅう塩を生み出してる」
「歳頃のレディを、あのハゲデブと一緒にするのは失礼すぎやしないか?」
でもあのハゲデブ、健康診断は引っかかったことないらしいぞ。
「中年男性の健康診断と、私みたいな美形を等価値にするのは、さすがに裁判沙汰になってもしょうがないと思う」
「うっせえよ、死海」
「地名呼び!?」
冗談は置いておいて、実のところこの特異体質ってのは、そう珍しいものでもなかったりする。まあ、ざっと言えば30人に1人くらいは持ってるものだから。
現に、俺達と同クラスの山本(丸坊主がトレードマークの卓球部員)は、くしゃみをするとバラが周囲に咲き乱れる体質だし。ちなみにあだ名は、宝の持ち腐れである。
「まあ、君との付き合いも長い私だから、君が照れ隠しのために話をそらそうとしていることくらい、分かって当然だが」
「まだ、高校に入学して2ヶ月だろうが」
「照れているということは否定しないのだね」
しまった。
「うん、辞書に載せたいくらいに、目が躍りまくってるね」
楽しそうに、けらけら笑いながら、俺の目を覗き込んできやがるクラスメイト。距離が近い。
「さて、どうする?」
これはあれだ。この女、告白を強要してきやがる。今確実に、立場は俺が弱い。
だが──。
俺は不敵に笑い。
「よろしくお願いします」
「うん…………う………ま、まて、君は今何を…………くぅ…………この重圧は!」
「お前も知っての通り──俺の愛は重さを伴う」
「何を言ってるんだ君は」