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第九話 ファンタジー世界でケバブとデーツ

よろしくお願いします

 俺は駱駝に揺られ、砂漠を進んでいた。岩石砂漠ならマシだったろうが、本日の仕事は砂まみれの砂漠のほう。地下牢から脱走するのに本田の奴に連絡をする羽目になったおかげだよ。おかげで俺は今から超めんどくさいお使いさ。


 俺の状態はターバンに口は布で覆って顔中ぐるぐる巻きのミイラみたいなもん。さらに毛布並のサイズの布で全身も覆って砂漠スタイルで駱駝に乗って交易だ。


 レンタル駱駝なので俺の隣には同じような砂漠式で同行する女性らしき何かが1名。汗1つかいてないどころか水を飲んだ様子すら無し。俺はすでに1リットルの水筒を飲み干して2つ目に手を付けたところだっていうのにね。


 異世界のグルメ -第九話 ファンタジー世界でケバブとデーツ-


 高速道路よりも単調でとことんつまらないこのタグト大陸のユニャ砂漠を移動し始めて1時間が経過した。どこまでも広がる青い空、地平線の先にまで広がる黄色い砂漠。本田の奴が俺に振るわけだ……。


 さらに移動して10分、やっと地平線に変化が見られた。遠目に見える青い水たまり、緑の葉。あそこが砂漠に住む、デザートエルフ、ンガラ族の居留地だ。



 20分後、砂岩で作られたブロックに囲まれた駱駝1頭はすっぽり頭まで浸かるほど深い空堀と、腰ほどの高さの城壁に囲まれた集落へとたどり着いた。


「止まれ、名と割符を。」

「多部田源太郎だ。本田の使いの者で、これが割符と委任状だ。」


「……よし、通っていいぞ、ンタロー・タベタゲ。」

「…………あぁ。」


 本田の奴はンダ・モリミチホと呼ばれているらしい。ンガラ族はちょっと、特殊だ。駱駝をゆったりと歩かせると、砂岩や土で作られた四角の建造物が見えて──元から見えていたが──きた。俺は入り口で駱駝を止めると、ひときわ大きな建物の中へと入り、控えていたエルフに要件を告げ、相手が来るのを椅子に座って待った。現れたのは7人のエルフ達。皆髪の毛は黄色で耳が長く、肌はあさ黒く焼けている。 


「やぁ初めまして、ンダの使いの方よ。私はンウコ・スベラセタ。」

「……ンホン、初めまして。多部田源太郎です。本日は本田の代わりにあなた方のマジックスクロールの買い付けに参りました。」


 なんて名前だ。黄色の髪の毛を散らした老エルフは側に控えていたエルフに促すと彼らは石で作られた箱を石テーブルの前へと置いた。俺が座ってるのも石の椅子でケツが痛い。


「これが我らの品だ。確認してくれ。」


 中には名刺サイズに切り取られた内側が黒い……いや米粒のような文字がびっしりと描かれたマジックスクロールが束で存在した。彼らは普通よりも細かい文字が書けるほど目が良く、器用なのだ。普通のマジックスクロールはA4サイズであることを考えると持ち運びに便利である。


「……マジックアロー200枚、確かに。ムナツ銀貨10枚とムナツ銅貨400枚です。ご確認を。」


 数が多いので6人のエルフがコインを数え始めた。これがこの大陸やポータル港へ運ばれると最低で3倍以上の値段で取引される。


「確認した、良い取引だったとンダに伝えてくれ。」

「わかりました。どうもありがとう。」


 俺はマジックスクロールを革袋で包み、もう一度別れの挨拶をしてからエルフの長老の家を出た。そしてふぅ、とため息をつき腰をセクシーな感じで一回し、ケツが痛いのよ、ケツが。


 軽く背伸びもすると、近くからいい匂いが漂ってきた。エルフの町とは思えない肉のいい匂い。


「なんか食うか。」


 砂を踏みしめながら俺は匂いのするほうへと歩いて行った。どこの世界でもエルフって奴は極端な菜食主義者なんだが、まさか肉を食べるエルフが居るとはね……。


 少し歩いた先で見つかったのはエルフが経営する屋台。砂の上に石の丸いテーブルがいくつか置かれており、4つの石の丸く背もたれの無い椅子が置かれている。


「おばちゃーん!駱駝のケバブ8つにデーツ12個ちょうだい!」

「はいよ、おつかいかい?ンデベナルタ。すぐ焼けるから待っててね~。」


 おばちゃんというには見た目だけはあまりにも若すぎるエルフ──300歳から中年と言われるらしい──と子供のエルフが買い物をしていた。駱駝のケバブは良いとして、デーツって何だろう?翻訳回路は真面目に動作しているようなのでおそらく俺の世界にもある食べ物だと思われるが……。


「はいいらっしゃい、ヒューマンの人。うちはケバブとピタにデーツを扱ってるよ!」

「あの、デーツってなんですか?」

「ナツメヤシの実だよ!保存のために干してあるけどね!どーする?」

「じゃあ……。」



・駱駝のケバブ1セット -ムナツ銅貨1枚-

 1セットで3つの肉片が出てくる駱駝のケバブ。1つの大きさは人差し指・中指・薬指を束ねた物と同じ大きさと厚さである。ケバブとは中東系のローストした料理の総称である。ここのは串に刺さず陶器の皿に乗って出てくる。お持ち帰りはお鍋に入れて持って帰ろう。味付けはピリ辛香辛料。


・ピタ1枚 -ムナツ銅貨2枚-

 水と小麦に塩などを加えて発酵させた後高温のオーブンで焼き上げたパンのようなもの。大きさは手のひら1枚分と同等で厚さも同じぐらい。中が空洞のポケット状になっており、これにケバブを挟んで食べるのがンガラ流。ドネルケバブのアレ。


・デーツ3個セット -ムナツ銅貨1枚-

 熟したナツメヤシの実を干した物。要はドライフルーツである。大きさは親指一本分の長細い楕円状。現代ではこれを主食にするところも存在する。



「いただきます。」


 香ばしい匂いが付近一体に広がっているのがよくわかる。乾いた口内にも自然と唾が溢れてくる良い匂いだ。金属製のフォークで肉を突き刺し、まずは一口。口を開けた瞬間に広がる香辛料の匂いが口内に閉じ込められた。そしてガリッと肉が切れる音。


 おわっ、と思わず顔を上へ向かせてしまうほどむせ返るような胡椒の味。遅れて塩。シンプルな味付けだなぁ。遅れてやってくる肉の味は独特の獣臭がする。昔はこの手の獣臭はどうも臭すぎて慣れなかったが、最近じゃ牛は乳臭いし豚は甘いだけで物足りないと思うようになってしまった。


「こいつは、ピタと一緒が一番だな。」


 フォークで3つのケバブをひょいひょいと放り込むと、俺はフォークを置いた。そして両手でピタの両端を掴むとどら焼きを頬張るようにガブリと噛みちぎった。


 小麦の甘みでケバブの強い胡椒が中和され良い具合だ。半円状にかじられたピタを睨むと、もう一口。強い胡椒で口内が刺激され、唾が溢れてくる。ただ、量が足りない。もっぎゅもっぎゅとしっかり噛みながら、両足で挟んである手荷物の鞄から水筒を取り出してぐいっと一気飲み。


「ぷはっ。」


 持ち込みはどの世界でも普通は嫌がられるものだが、何せこの屋台、水が売っていない。自前でなんとかしろとのことですよ。ひどい砂漠の集落もあったものだ。オアシスから水を汲むのは自由だけどね。俺が浄水剤無しでそんな水を飲んだら間違いなく腹をこわす。


 もしゃり、もしゃりとピタの一欠片も残すことなく食べきった。量的には足りないような気がするが、硬めの肉をしっかり噛んで食べたからか満腹感は悪くない。


 もう一度水で胡椒を流し込むと、デーツとやらとの遭遇だ。デーツを手で触るとパリッと膜が張ってあるような感覚。ドライフルーツ特有の触感ですね。親指ほどのそれを口元へ持って行くと、半分を奥歯で噛みちぎる。


 甘くてずしゃりずしゃりとした食感。味は……甘い。干し柿をより甘くするとこんな感じだろうか。もう半分を口のへと放り込みもしゃりもしゃり……。おや、別の商人達が屋台で俺と同じ物に頼んだ様子。


「駱駝の肉か、それにしてもなんだってエルフなのに骨の槍と骨の弓で武装して、肉を食ってるんだろうな?他のエルフ族じゃ禁忌だろ。」

「ンガラ族はさ、森が大好きなんだよ。」

「他のエルフも同じだろ?病的なほどに。」

「だけど他のエルフは木を使って、植物を食べるだろ?彼らは大事にしたいんだよ。だから草が生えない砂漠に住んで草を踏まないように生きて、肉を食べて生活し、石で家を作って、服は毛皮を使い、骨で武器を作るんだとさ。」

「肉って禁忌じゃねえの?」

「フレキシブルに対応したんだろ。」

「んじゃ、このドライフルーツは植物じゃねえのかよ。」

「砂漠に生えるナツメヤシは森の植物じゃないからいいんだよ。あいつらが好きなのは森であって植物じゃないみたいだぜ。後、サボテンとかも食うらしいぞ。」


 へぇ、変なエルフが居たもんだ。だからこんな不便な所に住んでるのか。……胡椒って森の物じゃないかね?俺は最後の1つのデーツを口の中に放り込むと、皿を返し、自分の駱駝へと戻り帰路へついた。

閲覧ありがとうございました。

第十話は残虐的な表現が少々あるため下記のR-18Gのほうに投稿される予定です。

http://novel18.syosetu.com/n8353cx/

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