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第二十一話 現代っぽい世界で焼き芋

よろしくお願いします。


 現代世界、魔法も無く、人種は肌の色が違うだけ。ここはアオエスマブロ。南にあるズオエスマブロとは戦争中で有る以外は俺の生まれ育った世界と地形も国もそっくりだ。ただ1つだけ大きく違うことはある。


「みてーおとーさん!あの人肌が黄色いよ!?病気!?」

「指をささない、最近は映画のせいで流行ってるからな。」


 第二十一話 -焼き芋-


 そんなことを話しながら俺の前を青色の肌をした親子が通った。彼らは決して病気ではない。青人なだけである。他にも赤、紫、緑色などが存在する。そんな中に居る黄色い色の俺は明らかに浮いていそうなものだが、最近はとある映画のせいで全身を乳白色に染め上げるファッションが流行っており、俺もこうして世界を偵察に来れることになったわけだ。


 異世界は文字通り星の数ほどある。しかし俺のように姿が決まっている人種は移動可能なポータルが決められている。ケンタウロスだけで構成された世界に俺が行けるわけも無く、同じようにラミアが俺の母世界へ移動するのはポータル側でハネられる。しかしファッションで色を変えるのが流行ったからって渡航可能になるのも随分と雑な判定だよな……。


 俺はアメリカらしき都市を歩いて行く。ファストフード店や露店が売っている食べ物はなぜか焼き芋だ。焼き芋とタンドリーチキン、ついでにドライマンゴー。このチョイスは本当によくわからない。彼らが俺の世界に来たらハンバーガーやホットドッグが親しまれているのを見て困惑するのだろうか。


 バナナ色の車が道路を走り、俺が歩く歩道はドライマンゴーを食べ歩きしている人達でいっぱいだ。誰もタバコなんて吸いやしない。老若男女がドライフルーツを食べ歩いている光景はなんだか恐ろしい。


 繁華街の街頭モニターには動物園から逃げ出したライオンが人を襲う映画の予告編が映されている……シリーズ6、人気作品らしい。ちょっと見てみたいな……。


 今回は仕事ではなく観光だ。たまには映画館で映画を見るのも悪くないだろう。繁華街を歩き続け、先ほどのライオン映画の看板がかかっている映画館らしき建物を見つけ、入る。


 中はグレーを基調に落ち着いた雰囲気だった。背もたれの椅子がいくつか置かれ、レディース・メンズの半額日の広告がでかでかと壁に張られ、他には映画のポスターがいくつも貼ってある。ライオン映画、ダチョウが自分の卵を求めて氷河を渡るアニメ映画、戦車兵の映画にラブコメ、白人を殺すだけの映画まで存在する。人間を殺す代替として別の生物を使うのはよくある手法らしいが、肌が白いだけの人間ってただの人間にしか見えない。


 残念ながら本日はレディースデイのようだ。割引は無いが、自動販売機とポップコーン代わりの焼き芋等が置かれている。これでも買って食うか。そんなことを考えながら俺は映画のチケットを買いにカウンターまで近づいた。売店はすぐ近くだ。


「いらっしゃいませー。」

「アタック・ザ・ライオン6のチケットを1枚。」

「22ピルになります。」


 長い黒財布から丸、そしてそして平たくカットされた青く輝く宝石と緑色に輝く宝石を2つずつ女性店員に手渡した。この世界、全ての宝石に類するものが金属と同じように加工が出来るんだ。今手渡した通貨もパッと見はただのコインめいた宝石だが、光に照らすとこの国の初代大統領が、暗い所ではこの国の国猫である耳が曲がったスコティッシュフォールドの姿が映されるように出来ている。


 ついでだし、帰るときにはサンプルとしてこのジェム通貨を全種類持って帰るとしようか。何かに使えそうだ。


「こちら、チケットです。上映は15分後、楽しんでいってくださいね。」

「どうも。」


 長方形のチケットを受け取ったので次は売店、焼き芋とタンドリーチキンでいいかな。さっきからニオイがプンプン香ってきて我慢できん。


「いらっしゃーせー。」

「焼き芋とチキン1つずつ。」

「5ピルですまいどー。」


 俺が財布から黄色の宝石を1つ取り出す間に店員は保温器からタンドリーチキンを取り出し、紙の器へと入れた。別の保温器から焼き芋も取り出すと、紙の器に入れ、トングで焼き芋の真ん中を潰して割った。そして店員はサラダスプーンを取り出すと金属の缶に突っ込み、中から茶色の半固体の何かをべチャリと焼き芋の割れ目にぶちまけた。


 缶の側面にはピーナッツバターという意味の字が描かれていた。


 俺は無表情になりながら金を払って商品を受け取ると、自動販売機で青い飲み物を買って映画館の上映室へと足を運び、首が痛くならない中ほどの席へと座り込んだ。



・焼き芋withピーナッツバター -3ピル-

 500mlペットボトルサイズの芋。値段は添え物を考えても悪くはない。焼き芋に何かをつける文化は知っていたがピーナッツバターはちょっと想定外。ピーナッツバターのほうはピーナッツが気高く香るもさもさバターだと思われる。


・タンドリーチキン -2ピル-

 手のひらサイズのタンドリーチキン、ややチープな味付けだが肉自体は俺の母世界にあるコンビニチキンの2倍以上は分厚いし満足度は高い。


・キダル -1ピル-

 炭酸ジュース。この世界で一般的な飲み物らしい。紙コップに細かく砕かれた氷と共に入っている。味および見た目はブルーベリー由来の物。



「いただきます。」


 まずはホカホカの焼き芋の端を一口。ホカホカしていて、焼けた芋特有の香ばしさの甘みが口内に広がる。蒸かし芋には出来ない芸当である。そしてそのままもう一口、ピーナッツバターを巻き込んで口の中に放り込んでみる。


 ……ピーナッツの味しかしない。


 うあ……口の中がもっさもっさする。完全にピーナッツバターに芋が食われてしまっている。バターやマーガリン、マヨネーズなんかは一度使ったことがあるが、これらは大抵焼き芋のパサパサ感を補強し、二人三脚が出来ていたというのに、ピーナッツバターと来たら一緒に走ろうねと約束したマラソンをスタートからぶっちぎっているような物だ。


 これは別の物で口直しせざるを得ない、キダルのコップを傾け、口の中に流し込んだ。


 口蓋が浮き上がりそうな気分になる強炭酸、思わず息継ぎをするとブルーベリーの甘い香りが鼻に流れ込んでくる。母世界にあるコーラのようなものかな、爽快感がかなり強いが喉に流し込んだ後味は甘い。キダルなんて名前じゃなくてブルーベリーで良いじゃないか……いや、名詞だから翻訳されなかっただけか。


 悪くはない、目も良くなりそうな気がするし缶ジュースで売ってたら2~3個買って持って帰ってもいいな。知り合いに配っても良い。


 それはさておき焼き芋は膝の上へ、ジュースはカップホルダーへ戻しちょっとワクワク気味のタンドリーチキンである。分厚くてアツアツでスパイスの香りが漂う素敵なチキンだ。ハンガー・ストライキ中のインド人がジャンプして飛びついてきそう……それは言い過ぎかな?


 まずは一口、むしゃぶりつく。ぷりっとした食感にジューシー脂が口の中で跳ねた。強烈な胡椒が口の中で整列し前進し始める。肉が柔らかいのだ。柔らかいが俺に抗わんとする歯ごたえが満足感を上乗せする。


「こりゃ正解だったな。」


 もう一口噛み付こうとしたら骨にたどり着いた。骨付き肉だった。そういえばタンドリーチキンだもんな、骨はついてるよ。しゃぶるように食べたくなるが、ちょっと待つんだ。まだ映画が始まってすらいない。


 俺は思い直してキダルを飲み、映画が始まるのを待ちながらタンドリーチキンを全て食べきった。


 映画のほうはサファリパークに来た客が中身の入ったビールを捨てて行きそれを飲んだライオンが酔っ払って脱走して人々を噛み殺していくバカ映画だった。公園のライオンペイントがされた遊具に入った子供が噛み殺され、学校のHRでかみ殺した教師と一緒に入ってきて子供たちを大騒ぎさせ、ハンター達に射殺されそうになるも学校の屋上から跳躍して脱出などさすがネコ科である。バカ映画だった。


 エンドロールが流れ始める中、俺は大分冷めた焼き芋をピーナッツバターと共に口の中に放り込み、もさもさパサパサ感溢れる口の中に氷が溶けて薄くなったブルーベリージュースを流し込んで終わりにしたのだった。


「ごちそうさまでしたっと。キダルはどこで売ってるかな……。」


 スクリーンではライオンがラインダンスを始めていた、とりあえずエンドロールが終わるまではもう少しここにいよう……。

閲覧していただきありがとうございました。

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