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第一話 ハイファンタジーでドラゴン寿司

初投稿です、よろしくお願いします。

 イギリスの作家、ギルバート・ケイス・チェスタートンはこう言っている。

 お伽話はドラゴンの存在を教えるものではない。そんな事、子供たちは知っている。ドラゴンを殺すことが出来るとお伽話は教えるのだ。

 俺の目の前の看板に貼られた羊皮紙の【ドラゴン寿司】という文字を眺めているとまさにその通りだと思わされるのだ。


 【異世界のグルメ】 -第一話 ドラゴン寿司-


 俺が今居るこの場所はフェスタリット大陸北東にある港町シードラポートランド。語源はその名の通り水竜が住んでいた場所である。勇者と呼ばれる部類の人間がこのドラゴンを退治し、栄養豊富な入江を確保した人類がここで漁業を行うようになり、交通の便が悪かった大陸北部において重要な食料供給源となった。

 そうしてこの辺りの文化が発展したわけだが、だからといって生食文化どころか米食文化すら無かったはずなのだ、目の前にあるドラゴン寿司という看板から察するに俺の仲間である異世界商人の誰かが入れ知恵したのであろう。


 そう、ドラゴン寿司である。建物の壁に飾られた羊皮紙のポスターには、本当にドラゴンの肉が食べられます!と堂々と大きなMSゴシックで描かれた赤い文字。文字の裏にはドラゴンに巨大なフォークが刺されたコミカルなイラストが描かれている。明らかにこの世界の住民のものじゃあない。


 しかしながら、俺はこのドラゴンの寿司というモノに心が惹かれていた。俺の住む現代世界にはドラゴンなんて存在しない。ドラゴンステーキならもう何度も食べたことがある。だけど、ドラゴンの寿司は食べたことがない。一体どんな味何だ。


 俺はもう無心でポスターに書かれた地図の誘導に従って歩き、5分程度でその店へとたどり着いた。ドラゴン寿司、建物入り口には対になったマジック篝火が炊かれ、潰えることの無い緑色の火がもさもさと萌えていた。


「ドラゴンを食べるな!ドラゴンを食べるな!」

「ドラゴンを自然に返せ!」

「ドラゴンは消費していいものじゃない!」


 そのような大声を張り上げているのは見た目ですぐわかる耳長エルフの集団。そして彼らの横をすり抜けるようにオークと人間のグループが店へと入っていった。ドアをくぐり抜ける際、のれんと呼ばれる奇妙な布に引っかかって不快そうな顔をしているのが俺の目には印象的に残る。


「ハイファンタジーで寿司は無いよな、寿司は。」


俺はそう自嘲気味に呟き、やはりエルフ達のすき間を通り───エルフ達には侮蔑の表情で迎えられながら───のれんを片手で抑えながらくぐり抜け、敷居をまたいだのだ。


「いらっしゃいませー!」

 声を張り上げた女性店員を軽く流し見、俺は勝手にカウンター席へと向かう。店の中は血肉とソースの香り、どこか親しみのある香りが俺を迎え入れてくれた。中は外のエルフ以上に混んでおり、軽く見渡した感じではヒューマンが6割、オークが3割、ダークエルフが1割好き勝手に食べていた。


 石製のカウンターテーブルに備え付けられた木製の椅子。そこにやっと俺の尻を落ち着かせると横からメニューが差し込まれた。


「当店はメニューの中から好きな物を注文出来ますのでごゆっくりお選びください、何か飲み物は飲まれますか?」

「あー……、茶、Teaの類はありますか?」

「無いですねー、エールとワイン、後は水と山羊のミルクに挽きたてコーヒー。海のミルクも取り扱っていますよ!」

 こっちの世界で牡蠣のことをそんな呼び方していたっけな?そして寿司を食うのにミルクとコーヒーは無いんじゃないかな……。


 俺は少し逡巡した後、とりあえず水を注文してメニューに目を落とした。羊皮紙には文字しか書かれていないが、この手の世界の飯にしてはメニューの数が多い。といってもよく読むとセットメニューで数を誤魔化している様子であった。


「すいません、ドラゴン握り寿司とドラゴン巻き寿司、それにドラゴンスープとドラゴン卵焼き、後は生牡蠣を一皿。」

 俺は先ほど来たダークエルフのウェイトレスが水のジョッキを置きに来たのを見計らい注文した。ウェイストレスはあたふたとした様子で伝票を取り出して書き込み、調理場のほうへと引っ込んでいった。それにしてもこんなにドラゴンドラゴンと連呼する日も無いだろう。


 やや磯の香りがする水を飲みながら、注文の品が来るまで周囲を見渡してみる。面白いもので、ほとんどの客が皆テーブルの上に牡蠣の殻を乗っけている。あまりこの港町の産業には詳しくないが、生牡蠣を食べる習慣があるようでゴクゴクと男も女もダークエルフもオークも楽しく食べている。


「生牡蠣一皿お待ちー!」

「……すごいな。」

 つい、言葉が出てしまった。何せウェイトレスが持ってきた皿には生牡蠣が8粒。この数はさすがに想定外だ。せいぜい2粒か3粒だと思っていたが量も、そして質もデカい。


「あぁ、ウチはオーナーの知り合いがツテで半魚達と提携してて、格安で大量に手に入るんですよー。」

 あぁ、そいつか、俺と同じ異世界商人は。一言ウェイトレスに礼を告げると、俺はさっさとミルクで喉を潤そうと思った。


【生牡蠣】-スクイール銅貨4枚-

・すでに殻が半分外された牡蠣が大皿に殻つきで8粒も並んでいる。牡蠣の生食文化は現代世界でも古く、日本には明治時代に海外から生食文化が輸入されてきたという珍しいものでもある。すぐ隣にはレモンの切り身が乗っているため、この世界でも生でレモン汁と共に頂くのが普通なのかもしれない。


「いただきます。」


 まずは一粒。片手にギリギリ収まるほどの殻を持ち上げて下品に中身をずぞっとすすって頂く。美味い。口に磯の香りを迎え入れ、一噛みするごとに牡蠣独特の臭みが口の中に広がり、ゴクンと喉を鳴らして飲み込んだ。良い牡蠣だ。取れたての良い牡蠣だ。


 次の粒、なるべく他の牡蠣に飛び散らないよう上品に半分に切られたレモンをやりすぎか!というぐらいかけた。レモンを置き、殻に持ち替えて口元へ運ぶとレモンと磯の混じった香りが鼻をくすぐり、俺の食欲を沸き起こしてくれる。


 ずずっとすすって頂いた。レモンの香りが牡蠣の生臭さを打ち消すも牡蠣の味を邪魔すること無く引き上げてくれたようだ。俺個人としては生牡蠣は素のままで、が基本である。だけど今回に限ってはレモンつきのほうが美味しいかもしれない。


 残りは6粒、左手でずぞっと牡蠣を啜りながら3粒にレモン汁をベシャベシャとかけて食用にしてやった。これはドラゴンの前哨戦、いわば中ボス。ならばと俺は生牡蠣を味わいながらも本命を最大限味わうためにゴクゴクと牡蠣を食べていった。


「はーい、ドラゴン握り寿司、ドラゴン巻き寿司、ドラゴンスープにドラゴン卵焼きおまちー!伝票ここに置いときますねー!」


 さぁ、ドラゴン退治だ。


【ドラゴン握り寿司】-スクイール銅貨5枚-

・水で炊いた米を一口サイズの長方形に成形しこれまたその米から溢れるかどうかギリギリの大きさであるドラゴンの生肉の切り身が乗っかった物。数は全部で5個で奇数なので5貫と呼ぶのが正しいのだろう。ソースは醤油、チリ、マヨネーズがついている。


【ドラゴン巻き寿司】-スクイール銅貨2枚-

・レタスの葉で水で炊いた米と蒸し焼きにしたドラゴン肉が包まれており、すでにドラゴンの肉汁から作られたグレイビーソースがかかっている。


【ドラゴンスープ】-スクイール銅貨1枚-

・ドラゴンの肉で出汁を取った濃厚なスープにドラゴン肉団子、ついでに謎のクタクタに煮こまれた葉物が入っている。熱々で油が浮いており、寿司には合わないかも。


【ドラゴン玉子焼き】-スクイール銅貨2枚-

・何の変哲も無い卵焼き。やや黄色が強いような気がするが定番の鶏卵で作られた厚焼き玉子にそっくり。皿の上には縦2cm横10cmほど、高さは4cmに成形された長方形で二口サイズの玉子焼きが4つ並んでいる。



 俺はまず、違和感を感じた。灰色の石で出来たカウンターをぐるんと狩猟者の目で見渡し、改めて握り寿司についてきた小皿のソースを確認する。黒いものは店内に充満する醤油の匂いで間違いないだろう、赤いのはおそらくアメリカ式寿司定番のチリソースかその辺り、白くてなんだかホイップクリームをケーキにのせるような形で整えられている物はおそらくマヨネーズ。それは良いとして。


 ワサビが無い。


「あのー、すいません。ワサビありますか?」

「ワサビ……?」


 ダークエルフのウェイトレスが首をクイッとかしげた。嫌な予感しかしない。


「あー……ホースラディッシュ?クレソン?ちょっと待てよ、ニンニク、ガーリックはあります?」

「ごめんなさい、どれも聞いたことが無いです。」

「あ、あぁ、どうも。」


 頭を抱えそうになる。薬味として重要なワサビが無いのだ。生肉を食べるのには定番のおろしニンニクもこの世界ではまだ存在が確認されていないらしい。なんてこった、唐辛子のチリソースはあるのに何でそっちは無いんだ。この世界はどういう文化の発達の仕方をしたらそうなるんだよ!


 嘆いても仕方がない、俺は右手でドラゴンの握り寿司を1貫つかむと、シャリとネタを両方醤油に軽くつけてから口の中へと運んだ。やはりというか、酢飯じゃなかった。マヨネーズは酢で作るのだからビネガーの類は存在するだろうに、どうしてそこを手抜きしたんだよ同業者!

 そして、生肉。面白いもので味がある。この手の生肉は味があるようでないようなタンパクな血肉の味というのが相場だが、臭みがある。それも奇妙な感じで、なんといえばいいのだろうか。葉野菜に近い不思議な青みがあるのだ。透き通る青臭さだが、根底には生肉の味。パンチは弱いが悪くない。グリーンドラゴンだろうか?もしくは観測したことがないが、フルーツドラゴンやベジタブルドラゴンの肉かもしれない。

 これは、醤油よりチリソースが良いんじゃないか?握りの2貫目は赤い刺激臭のするチリソースを選択し、先ほどと同じようにちょいと小粋な感じでソースをネタにつけ、口の中に運ぶ。

 悪くない、辛味で生肉の臭みが相殺されて肉の味が楽しめるような気がしなくもない。ただ、これなら米じゃなくてパンのほうが良かったかな?むしろ少し炒めたライスバーガーとならより良い気がする。


 まぁ美味いからこれでいいや、少し箸休めとして厚焼き玉子一切れをフォークで刺して口に運んだ。ジュワリ、そしてパリっとした刺激が口の中に玉子の風味が広がる。だし巻き玉子というわけでも無いのだが肉汁ならぬ玉子汁が口の中に広がり、そしてまた刺激も広がる。なんだこれは?

 そういえばこんな刺激のある駄菓子が……、もう一口。いや違う、これは静電気だ。どうやらイエロードラゴンの卵だったらしい。このイエロードラゴンの電気的な刺激が優しい玉子にアクセントをつけてくれている。


 軽く磯の味がする水を飲み込み、次はドラゴン巻き寿司だ。瑞々しいレタスで米とローストビーフならぬローストドラゴンを巻いた物、せめて海苔だったらなぁ、と思いながら大きく口を開けて一口、ドラゴンのように噛み付いた。

 シャキリとレタスの風味、現代のそれより青臭く苦味がある。グレイビーソースの染みこんだ米が鼻腔をくすぐり、ローストドラゴンは生肉とはまた違う香ばしい……ピリ辛肉。レッドドラゴンの肉だこれ。


 もう一口、シャキリ、ジワリ、ピリッ。いい味、トルティーヤを外に一枚巻きたいぐらいだけど、これは内側のライスで十分か。これはさっきのチリソース寿司の完成形だな。この店はこのレタス巻きに生牡蠣だけで十分じゃないのか?それほどこのレタス巻きは完成されてる、現代に持って行っても十分通用する味だ、もうドラゴン関係無いな。


 そして、ドラゴンスープ。竜骨で出汁を取ればいいのに肉とはね。骨は、いくつかのファンタジー世界で見られるように金属と同じぐらい硬くて武器として加工用に出荷されてるのだろうか。俺は木製で外側にはドワーフ式の飾りが施された無骨なお椀を両手で包み込み、おごそかにドラゴンスープを口の中へと流しこんだ。


 これは……本当に肉のスープか?


 椀には油がわかるように浮いていたのだがこれがくどくない、舌に絡みつくことなくサラサラと食道へと流れこんでいく。味は臭みがあり肉食の爬虫類っぽい感じなのだが……そうか、アイスドラゴンの肉なんだ。極寒の地に好んで住み着くアイスドラゴンの脂肪は融点が魚並に低いと言われている。それは人肌でも液体を維持出来るほどであり、口の中に残らない理由だ。

 

 ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らし、たまに唇へとキスをしてくる肉団子やクタクタにくたびれるほど煮こまれた葉物を舌で迎え入れ、ついスープを飲み干してしまった。椀の中にはまだ肉団子と菜っ葉が残っているのでスプーンで救って、もとい掬ってさっさと腹に収めてしまおう。汁を多めに含んだ肉団子はポロポロと崩れ、くたびれた菜っ葉は案外悪くない。


 あまりの美味さについ、まだ寿司が残っているというのに飲み干してしまった。汁物にはよくあることだ。俺は磯くさい水で喉を潤すとレタス巻きを一口シャキリ。これやっぱ美味いよ、レタス巻き2本に生牡蠣とスープで良かったな。ついでにチーズもあると良かった。バッチリ焼き目のついた焼きチーズがあると完璧だった。グリルドチーズ……。


 さて、握り寿司にマヨネーズはつけるかどうか迷うな。まだ3貫残っているが、全部チリソースで食べても問題無い気がする。だが、おろしにんにく醤油で生肉を食べたことはあってもマヨネーズをつけるという発想は俺にはちょっと無かったな……。

 俺は決心した。ドラゴン生肉の乗ったライスをマヨネーズの丘に衝突させると丘から掬いあげた。そして慎重に口の中へと放り込んだ。……咀嚼し、生肉とマヨネーズとライスを混ぜあわせる。

 案外、美味い。マヨネーズの酸味が肉の臭みを覆い隠している。だがチリソースや醤油にまさるものじゃあない気がする。


「このマヨネーズってのはほんとうめーな!」

「だな、さすが港町!俺らんところの集落よかうまいもんが揃ってるぜ。」

「オークの味付けってのは雑だからなぁ、胡椒に唐辛子つけときゃ良いと思ってるんだからよ。マヨネーズ持って帰ろうぜ。」


 後ろのテーブル席に座っているオークの集団からはそんな会話が聞こえるが、マヨネーズを食べ慣れてる俺の場合はそこまででもない。スプーンでチリソースをすくいとると、口の中に含みチリマヨネーズドラゴン寿司を楽しんだ。残りは全部チリソースで食べきってしまった。


 どうせだし、余ったソースの類は玉子焼きにつけて食べる。マヨネーズは玉子と玉子なので案外悪くない。醤油は合わない食べ物が存在しない。もにゅもにゅと俺は玉子焼きもすぐに食べきった。




「ごちそうさま。」


 両手を合わせ軽く呟き、磯くさい水を飲み干すと伝票を持って会計所へと向かう。



「全部でスクイール銅貨15枚となります。」

 あれ、14枚じゃないっけかな、と伝票を確認すると水が銅貨1枚だった。寿司は少々割高だが生牡蠣はお得もお得だったな。そう思いながら財布からドワーブ銅貨を……間違えた、この世界はスクイール銅貨が標準だ。スクイール銅貨を15枚取り出し支払いを終えた。


「ドラゴンを!殺すな!ドラゴンを!殺すな!」


 店を出ると余韻台無しの抗議団体をすり抜け、潮風で萎びた木製建造物が多い港町からやけに浮いているドラゴン寿司の看板を眺め、鼻で笑った。


「もう少し、どうにかならなかったのかってか?ゲンちゃんキビシイネー。」

「やっぱりお前かよ、ガキの頃からセンス無いな、カテキン。」


 俺の隣にゆったりと現れた男は幼なじみのカテキン(本名は守山耕太)。俺と同じように異世界を股にかける異世界商人で、専門は武器なはずなのだが、どうして店などに出資したのやら。


「お前、何やってんだよ。関わりすぎるなってのは俺達異世界商の基本だろ、現地民に牡蠣の養殖までやらせたりしてさ。」

「それがさ、シードラゴンを討伐する時に専用の銛を売ってやった勇者から持ちかけられた話でよ。断りきれなかったんだ。」

「ドラゴン寿司は無いだろ……。」

「それが、今まで食った動物の中で一番美味かったのがドラゴンなんだったと、俺も話を聞いた時は何の冗談かと思ったよ、もう帰るんだろ?」

「あぁ、そろそろ時間だ。」

「じゃ、行こうぜ、俺も一度ポータル港に帰らなきゃ。」


 スーツ姿の俺達は港町の路地裏も路地裏、どん詰まりへとやってきた。


「時間だ。」


 どちらかがなんとなしに呟くと、行き止まりだった路地裏に白い煙が溢れた。俺達はそこへ足を運び、この世界から痕跡を一つも残すこと無く消える。数瞬後に俺達の前へ現れたのは白と灰色のコンクリの世界。そこには老若男女、ヒューマン、リザードマン、エルフにオーク、火星人すらセコセコとスーツを着て歩き去る場所。

 

 ここはポータル港。全ての異世界と繋がる奇妙な港。

 

 俺達の前には紺色の制服を着た女性が1人。種族、顔の形を認識することが出来ないが制服を着た女性とだけわかる存在がいつも通り挨拶をしてくる。

「お帰りなさいませ。」

「どーも。」

「どーも。」


 正面には[←ポストアポカリプス方面][→ハイファンタジー方面][↑近代・宇宙方面]といった長細い小さな案内看板が吊られている。俺はカテキンがポストアポカリプス方面へ向かったので、別れの挨拶をして自分のオフィスへと戻ろうとしたが、ちょっと来てくんね?というハンドサインに釣られ一応同行した。


 ポータル港、この場所を表すなら現代日本の東京駅という表現ほど適切な物はあるだろうか。新宿駅かもしれない。無骨で通路は四角くて、通路のデジタル看板にはいくつもの公告と、本日の異世界通貨の交換レートが雑多に表示されている。2015年度の日本円とエルブン銅貨は現在1577:1のレートらしい。相変わらずエルブンは他の銅貨より高いな。


「で、なんだよ。」

「ここ3日ぐらい時間取れる?」

「出来るが、なんだってんだ?」

「バイトたのめっかなー実は予定がダブっちゃってさ。それも同じ世界で。それで俺、明日は崩壊後の日本でビワ湖を拠点にしてる水商人との取引に行くから、ゲンちゃんにゃ俺の代理で小さな集落に軍用高性能爆弾5kgとレーザーライフルを3つ、それと溶接機のスペアパーツ10kg分を運んで欲しいのよ。バイト代出すからさ。頼むよ!」

「崩壊後の日本……PA150年のあそこか?それもビワ湖の水商人とか……お前って奴はほんとポストアポカリプスに強いな……。」

「お前だってハイファンタジーにめっぽう強いだろ?水商人、なんだったら紹介するぜ?」

「紹介は保留でいいや、OKOK、わかった行くよ。」

「助かるよ。対応マニュアル持ってくるわ。」

「厄介な場所ってことか……。バイト代弾めよ。」

「ドラゴン寿司の割引チケットつけとくよ。」


 笑顔で無料ではなく割引チケットを懐から出してきたケチなカテキンにいらねーよ、と笑顔を見せる。だが、俺は新しい世界の扉を前にし心が弾んでいた。世紀末後の世界、モラルが崩壊してなお奇妙な世界。好んで行くことは少ないが、ちょっぴり楽しみだ。

閲覧いただきありがとうございました。

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