92.後処理
翌朝
何だか少し風が強いなぁ……。と思って目を覚ますと薄暗い森の中にいた。そう言えば昨日ユアの治療をしていたことを思い出した。横を見るとユアが寝ていたので、とりあえず起き上がろうとしたら後ろに引っ張られるような感覚がしたので振り返ると、ユアが私の服を掴んでいた。そっと離して毛布から出ようと思ったらユアに着せたローブがはだけて肌が見える。
「しまった。ユアに服を着せていない……」
昨日はユアの治療のことしか考えていなかったからローブを着せただけで寒そうだ。
「それにしても、ユアは服を1枚しか着てなかったけど寒くなかったのかな?」
と疑問に思った。今の体感的には10度を下回っていると思う。昼は暖かいぐらいだけど山はそれなりに温度が低くなる。
「もしかして寒いのとか我慢していたのかな?それとも身軽な方が探索しやすいとか?」
とそんなことを考えていた。ユアが起きたときに聞いてみようかな?今はユアが私の服を掴んだままなので、毛布から出ることはしないで、座ったままユアの服を直すことにした。そうして針でチクチクとユアの服を縫っていた。
服も縫い終わって少し休憩しようかな?と思ったらユアがもぞもぞし出した。もしかして起きるかな?と思ってユアの様子を見守っていたけど……。起きる気配は、なかった。
「あれ?まぁ、いいか、起きるまでの間に何かできることは……ユアの上着でも作ろうかな?ウルフの毛皮が少しあるし。でも一旦体を動かしてからにしようかな」
ちょっとした身支度を済ませてから先程の位置に戻りユアの上着を作り始めた。ユアの服を元にどれくらいの大きさにするのかを決めて、なるべく無駄のないようにウルフの毛皮をナイフで切ってから縫っていく。
それから日が昇り、大分明るくなった頃ユア用の上着が完成した。といっても手の込んだものじゃないから、ただ縫い合わせただけの上着だけど……。そろそろユアを起した方がいいかな?と思ってユアを見るとぶるぶると震えていた。もしかして寒いのかと思って今作った上着を掛けようと思ったら震えが止まっていた。
「?寒いから震えていたわけじゃないの?」
そんなことを思ったがとにかく服を着せようと思って地面に膝をついたとき『チャプン』と音がした。
「え?」
そう思って布を捲るとユアの股下あたりに液体が……。さっき動いたときは、なかったはずだけど?と思ったとき、あることを思い出した。
「さっき震えていたのって……」
とそんなことを思っているとユアが目を覚ましたようで、目を擦りながら起きようとして固まっていた。そしてゆっくりと私の方を向く。
「そ、その、ごめんなさい!」
と言いながら頭を下げて来た。
「す、すぐに片付けます!」
と言って動こうとしたので私がそれを止める。
「動かないで!」
「は、はい!」
と言って動こうとしていたユアは、動きを止める。とりあえず毛布類を退けるとユアの股下あたりに水溜りができていた。どうやらその辺りは少し窪んでいたようで他に被害はなさそうだ。
「とりあえず、ブーツと靴下を脱いで」
「は、はい!」
ユアがブーツと靴下を脱いでいる間に先程退かした毛布が濡れていないか確認したけど大丈夫そうだ。ユアの方をみるとちょうど脱ぎ終わったようで横に退けてあった。
「ちょっと毛皮から退いて。それから濡れているものは、脱いで地面に置いといて」
そう言うとユアが何度も頷いてそこを退いたので毛皮に溜まっていた液体を流して水で洗っているとユアが服を脱ぎ終えて裸になっていたので鍋に水を出してコップを渡す。
「とりあえずこれで綺麗に流しておきなさい」
そう言ってユアの濡れたものを水魔法で作った水の中に入れる。それから体を洗い終えていたユアがいたのでタオルを渡してユアの服と私のスカート、それとさっき作った上着を地面に置いた。
「綺麗に拭き終わったらそれを着て待っていなさい」
「は、はい」
そう言って私は、ユアの服と毛皮を洗っていた。それにしてもユアがお漏らしするとは思っていなくて少し驚いたけど、そういえば昨日の昼頃からお手洗いに行っていないという事に気がついた。私とずっと一緒にいたのに何も言わなかったけど、もしかして気にして我慢していたのかな?でも、裸にローブを着ている状態だったし、寒かったことも原因かもしれない。そんなことを思いながら洗っていた。
それらの洗いものが終わって後ろを振り向くと、ユアは着替え終えていたけど凄くオロオロしていた。
「どうしたの?」
「な、何か手伝う事は……」
「もう干すだけだからもう少し待っていて」
「は、はい」
そう言って洗ったものを木の枝に干し終わると近くにユアがいた。あいかわらず視線が彷徨っているままだけど……。
「……そう言えば、下着を渡していなかったけど私の使っているものでもいい?」
「いいの?」
「ユアが嫌じゃなければいいけど?」
「……お願いします」
と言ったので渡すと木陰に行ってしばらくしたら戻って来た。
「その、ありがとう」
「どういたしまして」
「その、私も何かやった方が……あ、レーナちゃんのブーツは、私が洗いましょうか?」
ユアにそう言われて確かに洗っていないかも?と思った。でも、ユアにわざわざやらせることじゃないし……。
「自分で洗うからいいよ」
そう言って鍋に残っていた水を使ってブーツを洗ってから手も洗った。それからユアを見ると落ち着きのない感じで佇んでいた。さっきから落ち着きがないと言うのかどうしたのかな?とりあえず座りながらユアと話をしようかな?と思ったけど辺りは、水をたくさん使ったから水浸しなので少し移動してからウルフの毛皮を敷いてから座り隣にユアを呼んで座らせた。
「さっきから落ち着きがないけどどうしたの?」
「その……怒られるかと思って……」
なるほど、それで……でも、そこまでビクビクすることなのかな?
「私がそんなに怒ると思ったの?」
そう聞くと躊躇いながら頷いた。
「私そんなふうに見られているの?」
「え、いや、その、悪い事したら院長先生にたくさん怒られたから。だからレーナちゃんのもの沢山汚しちゃったから凄く怒られるのかと思って……」
孤児院では、結構厳しく教えられているのか。と思った。でも、今回の件は、ユアだけが悪いわけじゃないからなぁ……。
「今回の件は、その、ユアだけが悪いわけじゃないから。私も悪いからごめんね?」
「そ、そんなことないよ」
「でも、昨日ユアは、凄い薄着で寝ていたじゃない。私がそのことに気がついていたら、こんなことにならなかったかもしれないから」
「そ、そんなことないよ!私の為にいろいろしてくれたからレーナちゃんが気にするようなことでも……」
「でも、寒かったでしょ?」
そう言うとユアが俯きながらコクリと頷いた。
「だから朝の件は気にしてないから。今回の件は、お互い様ってことにしない?」
「……いいの?」
と躊躇いがちに聞いて来たユアに私が頷くとユアが抱き付いて来た。
「おぉ!?」
「ごめんなさい。今度からは、気をつけるから嫌わないで欲しいの」
と涙ながらにそんなことを言って来た。そんなことで嫌ったりしないのに、ユアはそのことを気にしていたみたい。
「そんなことで嫌いにならないから。ほら、元気だして?」
と言いながらユアを慰めていた。