17.街に戻ろう (2021/8/29)
それから数十分ぐらい休憩していると。
「もう大丈夫かな?」
とユアが言った。ユアの顔を覗いて見ると大分顔色が良くなっていた。
「本当に?」
「多分」
「一応、水でも飲んでいく?」
「貰ってもいいかな?」
「いいよ」
そう言ってコップと水筒を取り出して水を入れて渡してあげる。
「ありがとう」
そう言ってユアは、水を飲んだ。
「もう一杯飲む?」
「大丈夫」
そうユアから言ったからコップを回収した。
「これから街に戻ろうと思うけどちゃんと動けそう?」
「大丈夫だと思う」
そう言ったユアは、いつも通りのユアに見えた。ゴブリンに攫われそうになっていたのに恐怖とかないのかな? とそんなことを思ったけど大丈夫なら、何も聞かない方がいいかもと思った。
「分かった。武器とかちゃんとある?」
そう言うとユアは、手で何かを掴もうとする動作をした。「あれ?」と言うと右側に視線を向けたと思ったら「……あ」と言って何かに気付いた様子。この様子だとないのかもしれない。とそんなことを思っているとユアが俯きながら謝ってきた。
「ごめんなさい。さっき盗られたみたいなの……」
まさかの武器を取り上げられたとは……こんな場所なのに何考えているの!? と思ったけど、ロープで縛っていた時点でいろいろと駄目だったのかもしれない。
「謝る必要は、ないよ。彼等が悪いだけだから」
そう言って私が持っている短剣をユアに差し出す。
「とりあえずこれ使って?」
「え? でも、それだとレーナちゃん……」
槍を持っていないのに予備の武器まで貸したらもう武器を持っていないのでは? と思っているのかな?
「大丈夫。一応ナイフは、持っているから」
そう言ってナイフをチラッと見せた。
「だから使って?」
「……分かった」
そう言うとユアは短剣を受け取った。
「いつも使っているのと違うからちょっと素振りなどしてから出発しようか?」
「うん。そうする」
そう言って短剣を抜いて素振りをした。
「どう? 大丈夫そう?」
「うん。いつも使っているのよりも大きいけど問題なさそう」
「それならよかった。じゃあ、出発しよっか?」
「うん!」
そうして私達は街に向かって歩き出した。
街に向かって歩き出したのは、いいけどゴブリンが結構うろついている。
「ゴブリン多いなぁ」
「うん」
先程たくさんのゴブリンから逃げていたからこの辺りに多くのゴブリンがいるみたい。あまり戦闘しない方がいいけどこれだと戦う事になりそうだなぁ。
「ユア、もしかしたらゴブリンと戦う事になるかもしれないけど、大丈夫そう?」
「多分。ただ数が多いと……」
と言ってやや不安そうにしていた。
「それなら、たくさんに囲まれたとき倒そうとしなくてもいいから持ち堪えられそう?」
「それなら、ある程度なら多分。でも、やったことないからあまり期待しないでほしいかな?」
「分かったわ」
それから、ゴブリンが通り過ぎるのを待ったり隠れながら近くを通ったりしながら進んでいた。そんな感じで順調に進んでいると後ろから「パキッ」という音がした。
そっと近くにいたゴブリンをみると数匹のゴブリンがこちらを向いた。一応茂みには、隠れているけど、ゆっくりと私達がいる方へ近づいて来る。後ろを振り向くとユアが青い顔をしていた。足元を見ると落ちている枝を踏んだみたいで折れていた。
「ごめんなさい」
と小さな声で謝罪をしてきた。
「もう、済んだことだから気にしないで戦える準備をしておいて」
「う、うん」
と言って短剣を取り出した。私もナイフを出して周囲の確認をすると反対側にいたゴブリンもこちらに近づいていた。ここだと戦いにくそうだからもう少し開けた場所で戦いたい。
「見つかったら走るからちゃんとついて来てね?」
と後ろを振り向いて小声で言うとユアが頷いたのでゆっくりと移動をして行く。
「グギャグギャ!」
ゴブリンが声を上げると走って来る音がした。チラッとその方向を見るとゴブリンと目が合った。
「走るわよ」
そう言って走り出す。ユアがついて来ているのを確認してからさらに後方に目を向けると何匹かのゴブリンが私達の後を追いかけていた。
それから少し走ったところに開けた場所を見つけた。
「ユア、あの場所で迎え討つわよ!」
「う、うん!」
そうして、その場所に着くとナイフを構えた。ユアも短剣を構えてゴブリンがやって来るのを待った。
それからしばらく待っているとゴブリンが出てきたので首を狙って横に薙ぐ。するとゴブリンの首が半分以上切れてその場に倒れる。一旦動きやすい場所まで距離を取るとその後ろからゴブリンが何匹も出てきた。そのまま私の方に向かって来ようとしたが倒れている仲間を見て、直ぐに襲って来ることなくこちらの様子を窺っているように見えた。
「8匹かな?」
自分の見える範囲にいるゴブリンは、それだけいた。離れた所にもゴブリンは、いる。ユアの様子をチラッと窺うと顔から汗を流していた。多分だけど、これだけたくさんのゴブリンを相手にするのが初めてなのかな?
「ユア大丈夫?」
「う、うん。レーナちゃんは……落ち着いているのかな?」
と私の様子を見てそんなことを言ってきた。
「多分?」
これだけの数を相手にするのは、初めてじゃないからね? あ、でも、魔法を使わずにだったら初めてかも? まぁ、よっぽどのピンチにならない限り魔法を使うのは、やめておこうと思った。
何故、ギリギリまで魔法を使わない予定なのかというと、ユアがオノマのパーティに戻る(強制的に)かもしれないからだ。そのとき彼等は、ユアに私のことを多少なりとも聞くと思う。その場合ユアに私のことを無理やりしゃべらせるかもしれないからユアに見せることに関しては、言っても問題ないようにしておきたい。魔法とかアイテムボックスについては、とりあえず秘密にしておきたいからね? 彼等にばれたら吹聴されて面倒な事になりそうだし……。
とそんなことを思っているとゴブリンは、ジリジリと近づいて来る。一方ユアは、前にいるゴブリンに集中しているように見える。前ばっかり気を取られていたら危ないかもしれないと思い少しだけ周囲の警戒を促す。
「ユア」
「どうしたの?」
「道中ゴブリンが多かったから前からだけじゃなくて、周囲をちゃんと警戒をした方がいいよ」
そう言うとユアの雰囲気が少し変わった。すると驚いたような表情をした。
「……分かった。気を付けて戦う」
どうやら周囲の状況を理解したみたいだ。どれくらいの範囲かは、分からないけど目の前のことに集中し過ぎなければ不意打ちは、されずに済むかな? とそんなことを思っているとゴブリンが走り出した。それが合図となりゴブリンとの戦いが始まった。