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8.ユア戦闘 (2019/12/26)



 それからしばらくするとゴブリンが2匹茂みから出てきた。するとユアが短剣を持って動き出した。素早く動くと1匹のゴブリンを背後から首を切りつけた。ここまでの動きではほとんど音を出さずにゴブリンに近づいたことに少し驚いた。


「ゴギャ」


 するとゴブリンは悲鳴みたいな声を上げて、ふらついていた。どうやら今の一撃では、倒すことができなかったみたい。それでもそのゴブリンはかなり重傷のようであまり動きが良くなかった。でも、近くにいたもう1匹のゴブリンは、何者かに襲撃されたことを理解したようでユアを見つけるとユアに向かって走り出した。ユアは、先程深く切り付けて動きの鈍ったゴブリンにもう一度同じところを切りつけて向かって来たゴブリンの死角になるところに移動しながら向かって来たゴブリンの方に切り付けたゴブリンを倒した。


 すると先ほどのゴブリンの歩みが少し遅くなりその間にユアは少し距離をとった。倒れたゴブリンはというとピクリとも動いていなかった。どうやらちゃんと斃せたみたい。


 ユアの戦闘をみて、思っていたよりも戦闘には慣れているようにみえた。これなら残りの1匹も大丈夫そう。とそんなことを思っていると奥からもう1匹のゴブリンが顔を出した。

私は茂みから出てきたゴブリンを確認するとさっさと片付けようと思い、茂みに近づいて頭部に向かって槍を突き刺した。するとカランと音が鳴りゴブリンが倒れた。それからゴブリンがちゃんと斃れたことを確認してユアの方をみると、音が気になったようで一旦距離をとってから私の方の様子を窺っていた。


 すると私の足元に転がっているゴブリンに少し驚いた表情をしていたけど、すぐに今相手をしているゴブリンの方を向いて集中していた。




 それからユアとゴブリンの戦いを見ていたけど思った以上に時間がかかっていた。ユアの戦闘の様子をみるとどうやら正面から戦うのは、苦手なようで攻めあぐねているようにみえた。でも、その分よく観察をしているようで武器同士で打ち合ったときゴブリンが僅かによろめいたときに攻撃を仕掛けて大きなダメージを与え、それから隙をついて何回も切り付けて動きが鈍ったときに首を切りつけてユアの戦いは終わった。


 ユアの戦いは、長かったけど無理をせずにチャンスが来るのを待っていたし、攻撃をしっかりと見極めていたためゴブリンの攻撃がユアに当たることがなかったのだと思う。腕力があまりないため時間がかかっていたのかもしれないけど、ユアにもう少し力があったのならサクッとゴブリンを倒すことができそうだと思った。


「お疲れ様」


「う、うん」


 私はそう声を掛けながら、念の為ユアが怪我をしていないか確認した。服には、所々ゴブリンの血が付着していたけど怪我はしていないみたい。


「怪我は、……大丈夫そうだね?」


「うん。レーナちゃんも大丈夫そうだね?」


「まぁね、それにしてもユアは、戦闘に結構慣れているようだったね?」


「え? そ、そうかな?」


 そう言うとユアは少し驚いたけど褒められて少し嬉しそうにしていた。


「で、でも、レーナちゃんの方がすごいよ。一撃でゴブリンを倒したでしょ?」


「そんなことないよ」


 そもそも戦闘経験は、前世のゲーム時代に培ってきたものや今まで練習してきたことがあるだけだし、それにまだゲーム時代のような動きはできてない。そもそもゲームの動きができるようになるかは分からないけど、あの時のような感覚でできるようには、努力しているつもりだ。まぁ、私がまだ小さいと言うことも影響していると思うけど……。でも、せっかくの人生だからちゃんと楽しく生きていきたいと思う。前世では、できなかったこととかもたくさんあるからね?


「でも、私には、できないことだからすごいよ」


 ユアは私の方を見ながらそう褒めてくれた。ユアが本当にそう思っているということが分かり何だか私の方が少し恥ずかしい。


「と、とりあえず斃したゴブリンを解体しよう?」


「……そうだね?」


 と私が無理やり話を変えたことにユアは、にこにことしていたが私の言ったことを聞いてくれた。


 前世では、両親から褒められて嬉しいと思っていたけど、他人に褒められると何だか恥ずかしい? 照れくさい? と何とも言えない感情が湧いてきた。どうしてなのかよく分からないけどこそばゆいと言うか……。そんな感情をどうにか落ち着けようとしながらゴブリンの解体をしていた。




 ゴブリンの解体が終わると先ほどの感情は、大分治まっていた。ユアのことが心配で気にしていたのにユアに自分の感情が乱されるとは……。とそんなことを思った。


 私が解体を終えてユアの方を見ると、2匹目の解体を行っていた。といっても魔石を出すだけなのだが、勢いよくやり過ぎると魔石を砕いてしまうから慎重にやった方が安全だ。因みに砕くとどうなるかというと買い取ってもらえないらしい。何でも屑魔石という扱いになって買い取ってくれないとか……。まぁ、そんなことを言われている人をこの前ギルドで見かけたけど……。


 ユアが解体しているのをしばらく待っていると終わったらしく血で汚れた手には、魔石が握られていた。そしてユアが私の方を向いた。


「待たせてごめんね?」


「気にしなくていいよ。ちゃんと丁寧にやらないといけないから」


「そうかもしれないけど……」


 ユアはそう言いながら立ち上がるとビチャと音が鳴った。何の音だろう? と思っているとユアの靴が血溜まりに浸かっていた。ゴブリンの魔石を出すときには、大量の血が流れて血溜まりができることはあるのだが、近いところに2匹の死体があるためユアが作業していた場所がすごいことになっていた。靴なのに血の中だとネトネトして気持ち悪くないかな? そんなことを思っているとあることに気付いた。


 そう言えばだけどユアのパーティは、皆ブーツを履いて防具を身につけていたけど、ユアは、防具を身につけていないし靴だったような……。何か理由でもあるのかな? ユアは1人で依頼とかこなしているとか言っていたから買って持っていてもおかしくないはずだけど……。それに防具とかも身につけていないけど大丈夫なのかな? 今頃、気付くというのは遅すぎるかもしれないけど……。


「そう言えばユアは、ブーツとか防具を持ってないの?」


「そ、それは……」


 と言い淀んでいた。すぐには、答えがでなさそうだったから私はユアの手を引いた。


「ほらほら、そんな所にいないで行くよ」


「あ、うん」


 ユアは、自分が血溜まりにいることに気付いて大人しく私に引っ張られていた。



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