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3.ユアが冒険者になった理由 (2019/9/8)



 そんなことがあったのか、と思いながらユアはどうして冒険者になったのかが気になり聞いてみた。


「ユアは、どうして冒険者になったの?」


「……最初は、冒険者になろうとか思っていなかったの。冒険者になるって言ったのは、パーティメンバーのオノマ、ブラット、メンデスの3人で孤児院の為に働くと言ったの。それが後々だけど冒険者になったきっかけの1つかな? そもそも、彼等が冒険者になると言った理由は誰も信じてはいなかったの……。それに院長先生が許可をしないと思っていたけど、院長先生は、それを許可したの。最初は、みんな驚いたけど、彼等がいなくなって孤児院の中は、平和になったの」


「? それって、孤児院の中でも何か問題があったということなの?」


「うん。人のものを盗ったり、食べたりして小さい子が食べものに困ることが何度もあったの。私が初めて来たときもそんな感じだった。大抵数人ぐらいしか狙われなかったから他のみんなで分け合って食い繋いでいたの」


「院長先生は何も言わなかったの?」


「私も気になって院長先生に聞いてみたら知らなかったみたいでその子達に怒って、食事の時間をずらしてくれたの。そのおかげでみんなちゃんと食べることができるようになったの。でも、彼等がどこで知ったのかは分からないけど、私が院長先生に言ったことを知ったらしくて、叩かれたり、蹴られたりしたの。でも、それが次第に小さい子達にまで及ぶようになって止めに入ったりしていたら私だけになったの。でも、そのお陰で他の子達を守ることができたの」


「ユアは頑張ったんだね」


「……うん。そんな生活をしていたある日、彼等が冒険者になると言ったの。後はさっき話したと思うけど、院長先生が許可を出したの。一応、理由を聞いたことがあるけど、院長先生は、その子達が冒険者になることで孤児院にいることが減ると思ったらしくて許可を出したって言っていたの」


 今の話を聞いて院長先生は、本当に優しいのかな? と少し疑問に思った。いじめをしていることを知っていたけど、止めようとはしなかったのでは? と思ったからだ。


「院長先生は、優しいのかな?」


「院長先生は、優しいよ。私達にご飯を食べさせるために他の仕事をして稼いで、そのお金で材料を買ってご飯を作ってくれたりするから」


 もしかして、院長先生は仕事が忙しすぎで子供達の面倒まではしっかりと見ることができなかったのかな? まぁ、私がそんなことを思っても仕方ないのかもしれないけど、院長先生が優しいと言うのはあながち間違いじゃないかも。と思った。


「院長先生は、優しい人なのね……」


「うん……」


 私がそう言うと彼女は少し寂しそうにしながら頷いた。もしかして院長先生とあまり会うことができなくて寂しいのかな? とそんなことを思った。


「……それから彼等は、冒険者になったけど最初は、なかなか上手く行かなくて凄く荒れていたの。だけど、次第に慣れたのかそう言ったことが減ったと思ったら、孤児院を出て行ったの。最初は、出て行くと聞いて驚いたけど、そのことが本当に嬉しくて……。あの生活からやっと解放されると思ったの。それからの日々は、とても平和に過ごしていたけど、彼等が孤児院を出て行ってから1年ほど経ったときに孤児院にやってきたの……」


「何かあったの?」


 そうユアに聞くと頷いた。


「ギルドに入ってしばらくした頃にとあるパーティに誘われてパーティを組んでいたみたいだけど、その人に騙されていたことが分かって抜けて来たらしいの。何でも今まで貰っていた報酬が半分未満だったとか文句を言っていたの。読みや計算ができなくてそうなっていたこともあって相手にされなくて……。ギルドもパーティ内の問題については、干渉しないそうで……」


 その話を聞いている限りそのパーティの人が悪そうに聞こえるけど、もしかして、新人の面倒を見ようとしたパーティの人じゃないよね? とそんなことを思った。仮にそうだとしたら彼等の勘違いと言う可能性もあるけど、なんとなくその可能性が高そうだと思った。


「そのことがあって、私が読みや計算をできることを知っていたから無理やりパーティに入れようとして、ギルドに連れて行かれたの。流石にギルド側も無理やり連れてきた人は、ギルドに入れることができない。とギルドの人に言われたけど彼等は、納得できなくて人気のない所に連れて行かれたの。『お前がギルドに入らなかったら……』と言って剣を抜いて脅されたから私は、頷いたの。それから、もう一度ギルドに行って加入したけど、ギルドの規則上、直ぐに彼等と活動できないと言われたの」


「もしかして年齢制限に引っかかったの?」


「うん。それに戦闘がある程度できないと認められないと言われて……。その時はまだ8歳だったからIランクから始まったのと戦闘については、全く分からなかったから無理やり受けさせられたの。受かるわけでもない試験を受けさせられ、落ちたら文句を言ってきたの……。でも、最初に受付をしてくれた人が私の様子に気付いて助けてくれたから大丈夫だったけど……。その後、その人からいろいろとアドバイスをもらってギルドが行っている戦闘訓練で自分に合った武器や戦闘技術を身に付けたの」


「ギルドに良い人が居てよかったね……」


「そうなの。もしその人がいなかったら生きていなかったと思う。それにいろいろ教わっている間は彼等と一緒に行動できなかったから。しばらく安全ではあったの。でも、依頼とかの内容が分からないから依頼を受けるまでは拘束されたの。


「まぁ、それくらいはやりそうだね……」


 そう言うとユアは苦笑いをしていた。


「でも、いろいろなことを学べたから。それでいろいろなことがあって何とか試験に合格したら彼等のパーティに入れられたの。でも、パーティに入ってやらされたことは先に歩けとか言われて先頭を歩いて、魔物と遭遇したら、『お前だけで何とかしろ』と言われて何とかしようと頑張っていたら、止めだけ刺していかにも自分がやったみたいなことを言われて……。ギルドでは、私は何もしていないと言われて否定したら後で……」


「それってもしかして、囮としていいように利用していたってこと?」


「多分そうだと思うの。いろいろあっては、私のせいにされてきたから。手柄は、自分達のものにしていたの……」


 その話を聞いているとよく3年も一緒に行動していたなぁ……。と思う。あと、多分だけど、報酬とかももらえないことも多くあったのでは? と思う。それなのに準備をしっかりとしているみたいだからパーティでの収入とは、別で何かやっているのかもしれない。


「でも、私に気を遣ってくれる人もいるから何とかやって行けるの。その人のおかげで少ないながらも孤児院に食べ物とか持って行けているから」


「……ユアの状況を理解してくれる人がいてくれてよかったね?」


 言葉に困りながらもそう言うとユアは、苦笑いしていた。


「でも、パーティ以外にも何かしていて体は大丈夫なの?」


 聞いておいて何だがあまり大丈夫では、ない気がする。凄く痩せていることからあまり食べることができていないと思うし。


「大丈夫よ。それに今の関係は、ようやく安定してきたから」


「本当に?」


「うん。それに彼等は、一度依頼をこなしたら1日か2日くらい休みを取ることが多いから無理をしているわけじゃないよ?」


「そうなの……」


 あんな奴らでも休みは、割と多いのか……。いや、ユアの報酬も持って行っているから少し余裕ができているのかもしれない。と思った。そう考えるとむかつくがそれがユアに自由な時間を作っていると思うと何とも言い難い……。報酬を持って行くことは、よくないことだけど、ユアの状況を聞いているとそれが彼女にとっての最善の選択のように思える。パーティ内の問題は、ギルドは、何もしないと言っていたけど、もうちょっとギルド側も考えてもいいと思うのに……。とそんなことを思っていた。



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