前へ次へ
33/849

2.ユア (2019/9/8)



「……あなたは、それでいいの?」


「大丈夫です。いつものことだから……」


 それは、それでいけないと思うけど……。というかこの干し肉は、パーティの経費として落ちているのか、それと彼女は、報酬をしっかりと受け取っているのかが急に心配になった。彼女のことをよくみるとかなり痩せているようにもみえる。


「……あなた、ご飯ちゃんと食べているの?」


「……」


 彼女は、私の問いには、答えずに気まずそうに視線を逸らした。恐らくろくに食べていないのでは? と思った。私は、そんな彼女に近づき手を掴むと、骨と皮しかないんじゃないか? と思うほどやせ細っている彼女の手に少し驚きながらも歩き出す。


「え?」


 と彼女は、言ったが特に抵抗もなく私について来た。彼女は本当に大丈夫なのかな? とそんなことを思いながら……。




 それから彼等が見えなくなるまで離れると彼女と向き合う。彼女は、戸惑っているようだがちゃんと私の方を向いてくれた。改めて彼女を見るがやはり全体的に痩せている。顔も全体的に整っているのに痩せていることによってそれが台無しにしているように見える。


「ど、どうしたの?」


 そう言われて連れてきた彼女のことをまじまじと見ていただけにしか見えなかったのかもしれない。とそんなことを思いながら干し肉を取り出した。


「あなた、やせ過ぎよ。これ食べなさい」


 と言って先程私が食べていた物と同じ干し肉を取り出して彼女にそれを渡した。


「え? ……いいの?」


 と本当に貰ってもいいのかな? みたいな感じでこちらの様子を窺っているようだったので早く食べるように勧めた。


「いいから食べなさい」


 そう言うと女の子は、おずおずとしながら干し肉を受け取ると、ゴクリと喉を鳴らしてからゆっくりと食べ出した。すると干し肉がおいしかったのか早いペースで食べていたけど食べ方が綺麗だった。まぁ、さっきの彼等が貪るように食べていたのをみたから余計にそう思ったのかもしれないけど……。とそんなことを思いながら私も食べかけの干し肉を食べ始めた。それから彼女が食べ終わるのを待っていた。




 彼女が食べ終わるとコップに水を入れて渡した。


「あ、ありがとう」


 そう言って受け取ると一気に水を飲み干したので、もう一杯水を入れてあげた。そうしたらなぜか驚いたような顔をして私の方を見て来た。何に驚いているのかは、分からなかったけど「飲んでいいよ」と言ったら嬉しそうにしながら水を飲んでいた。




 それから女の子は水を飲み終わると私に向き直ってお礼を言って来た。


「食べ物とかいろいろありがとう。私は、ユアっていうの。名前を聞いてもいいかな?」


 と私の様子を窺うようにしながら名前を聞いて来た。


「私は、レーナよ」


「レーナ、レーナちゃんと呼んでもいい?」


「別にいいけど」


「ほんと? なら私のことは、ユアって呼んでもいいよ?」


「分かったわ、ユア」


「うん!」


 私が彼女の名前を呼んであげるとユアはとても嬉しそうにしながら頷いていた。名前を呼んだだけでどうしてそんなに嬉しそうにしたのかな? と思いながら気になっていたことをユアに聞いてみることにした。


「……ユア、ちょっと聞きたいけどいいかな?」


「いいよ?」


 そうユアに聞くと何だか機嫌がよさそうな感じで返事をしてきた。さっきまでの悲壮感というか諦めていたと言った感じだったけど、何かいいことでもあったのかな? とそんなことを思いながら気になったことを聞いてみた。


「どうしてあの人達とパーティを組んでいるの?」


 そう聞くとユアが戸惑った顔をした。もしかしたら聞くのは不味かったかな? とそんなことを思ったけど、先程の彼等の行動をみてどうしても気になったから彼女が話すのを待っていると教えてくれた。


「……えっと、その、……もともと彼等と同じところに住んでいたの」


「え!? あんなのと?」


 私はユアの発言を聞いて驚くとユアは、私の物言いに少し苦笑いをしていた。


「その……、私達は孤児なの。だから一緒にパーティを組んでいるの」


「別にそんな理由なら他のパーティに入れてもらえばいいじゃないの?」


 私だったらあんな人達とパーティを組みたくない。もし組むパーティが無いのなら1人でできることをすると思う。


「それは、私が孤児だから……」


「?」


 どうして孤児が理由になるのかが分からなくて首を傾げているとユアが私の様子を見て理由を話してくれた。


「その、孤児だと他の人とパーティを組みにくいの。その汚いだとかせこいとかいろいろ理由をつけて断られるの。もし、他のパーティに入れたとしても読み書きや計算ができないから報酬とか少なく渡されたりすることが多いから他のパーティに入るのは、難しいの」


 孤児に対してそんな偏見があるのか……。それにしても、読み書きや計算ができる人ってどれくらいいるのかな?


「読み書きや計算できない人って少ないのかな?」


「? そんなことは、ないと思うけど……。ほとんどの冒険者は依頼をみて選んでいるけど読みはできてもそれ以外ができるとは言えないと思う。でも、冒険者のランクが高いほどできる人が多いような気がするかな?」


 つまり読み書きや計算の全てができる人は、あまり多いわけではないのか。それならユアはそれらのことができるのかな? と思い聞いてみることにした。


「ユアは、読み書きや計算ができるの?」


「計算と読むくらいなら何とか……。でも字は、自分の名前くらいしかうまく書けないの」


「そうなの? ならあのパーティは、ユア以外は、何もできないわね」


「え? ま、まぁ、そうだけど……」


 やっぱり……。まぁ、あんな性格だし勉強とかしなさそうだからなぁ……。


「それだとランクが上がらない理由は、結局のところ実力が足りていないってことよね?」


「……多分それもあると思う」


 やっぱりこの子だけがあのパーティの中で唯一まともみたい。でも、それならなぜあんな酷い扱いを受けていたのかが分からない。あれじゃあ、ただの八つ当たりにしか見えないし……。


「ユアしか依頼の内容が分からないのにどうしてあの連中はユアを雑に扱うの?」


 そう疑問に思ったことをユアに聞くとユアの顔色が少し曇った。


「それは……」


 ユアはそう言って少し気まずそうにしていた。どうやら何か心当たりがあるみたい。あんな扱いを受けているから余程の理由なのかな? でも、彼等の様子を見ている限りただいじめているようにしか見えないけど……。もしくはお金を稼ぐために必要な道具みたいな感じかも……。とそんなことを思っているとユアが理由を話してくれた。


「……多分だけど、私が最初からあの孤児院いたわけじゃないことが関係していると思うの」


「それって……」


「うん。両親が急に亡くなって……」


 それからユアが話してくれた内容によるとユアが5歳の時に両親が亡くなったらしい。


 それまでは両親と一緒に暮らしていて、その時に読み書きや計算の仕方を教わったらしいといっても書く方は、両親が亡くなる少し前に教わったから自分の名前以外が上手く書けないそうだ。


 因みにユアの両親はと言うと、街に買い物に行って来ると言って帰ってこなかったそうだ。なんでも両親達が乗った乗合馬車が盗賊に襲われて何人か亡くなった中に両親がいたらしい。盗賊の方は、途中で撤退したらしく怪我を負っただけで斃されたとかそう言う話を聞いていないらしい。そんなことがあってユアは、孤児院に預けられたそうだ。


 孤児院には、パーティメンバーを合わせても10人しかいないらしい。居残り組は、みんな小さいらしく一番大きい子でも7歳で一番小さい子は、3歳らしい。パーティを組んでいるメンバーとは、仲がよくはないがそれ以外の子達とは、それなりに仲はいいと思うとユアは言っていた。



前へ次へ目次