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20.フローラ (2019/8/29)



 ギルドを後にした私は、武器の手入れをする布がもうすぐなくなりそうなのでローナさんのお店を訪れた。


「あら、レーナちゃん今日は、どうしたの?」


「武器の手入れ用の布がもうすぐなくなりそうなのでそれを補充したいと思って」


「そうなの? ちょっと待ってね」


 そう言うとローナさんが店の奥へと消えてしばらくするとたくさんの布の切れ端が入っている袋を持って戻って来た。ただその量が前回よりも大分増えているような……。とそんなことを思っているとその袋を私の前に置いた。


「この袋の中に入っているものなら好きなだけ持って行ってもいいよ? 余ったらもう捨てちゃうから」


 そうローナさんは言ったけど、袋の中を見た限りそれなりに使えそうなのもあるけど本当に捨てちゃうのかな?


「本当にこれ、捨てちゃうの?」


「そうよ。切れ端じゃああんまり使えないしね? まぁ、補修用に欲しいと言ったお客さんには、あげちゃうときもあるけど基本的には、捨てちゃうかな? 服などを作っているからこういう切れ端が大量に出ちゃうから」


 ローナさんの話を聞いてなるほど。と思ったけど、それを他の何かに使おうとは、思わないのかな? と少し不思議に思った。


「今捨てちゃうことに少し意外だとか思ったでしょ?」


 あれ? もしかして顔に出ちゃった? そう思ってローナさんを見ると何だか少し苦笑いしていた。


「私もその切れ端で何かできないかは、考えてはいたけど、仕事が忙しくて考える時間があまりなかったわ。それに暇な時間があると娘の相手をしているから、娘がいないときにしか考える時間がないから」


 その話を聞いて一応考えては、いたのかと思った。でも、考える時間が少ないみたいだから思いつかないのかもしれない。まぁ、私だったら布の切れ端をクッションの中身とかシュシュとか継ぎ接ぎをうまく利用したリボンとか作れそうかな? とは思うけど……。


「……それにしてもこの間は、急にレーナちゃんが居なくなっていてちょっと驚いちゃったよ」


「この間? ……あぁ、そう言えば」


 一瞬何のことを言っているのかが分からなかったけど、この前は確かローナさんの娘さんが帰って来て2人で話をしている間に帰ったことをローナさんは言っているのかな?


「そう言えばって……、まぁ、済んだことだからしょうがないのかもしれないけど、あの時娘を紹介しようかと思ったのに急にいなくなっちゃって……」


 そう言ってもあの空間に居たら駄目なような気がしたからなぁ……。


「何だかすいません?」


「そこまで気にしなくてもいいけど、娘と年が近い子か身近にいないから仲良くしてくれたらなぁ。と思っただけだよ?」


 今の話を聞いて思ったのだが、自分も年が近い子とか身近にいなかったかも? まぁ、一部の例外を除いてだけど……。


「仲良くなれるとは限らないと思うけど?」


「それは、実際に会ってからでもいいじゃない」


 それもそうか、と思っていると店の奥から女の子が顔を出した。この間の女の子だ。


「お母さん、布の切れ端なんか表に持って行ってどうしたの?」


 ローナさんは、声がした方に顔を向けた。


「フローラ。ちょうどいいところに来たわ。ちょっとこっちにいらっしゃい」


 そう言うとフローラという女の子は、首を傾げながらローナさんの近くに来た。

ぱっと見た感じ私より少し背が低いかな? とそんなことを思っているとその女の子は私を発見すると少し首を傾げていた。


「この子は?」


「彼女は、レーナちゃんだよ」


「どうも?」


 そうローナさんに紹介してもらったけど何と答えたらいいのか分からなくて首を傾げながら挨拶? をした。すると彼女は、ぺこりとお辞儀をした。


「私は、フローラです。その、よろしくお願いします」


 フローラは少し照れながらそう挨拶をしてきた。それからチラチラとローナさんを見てから私を見るという行動を何度か繰り返していた。その様子を見ていたローナさんが何故か微笑ましそうに見ていたのが気になる……。私達を見て何を思っているのかな? とそんなことを思っていた。


 それからフローラがこっちを見ては、何かを話そうとしては、口を噤むということを何度か繰り返していた。もしかして恥ずかしがり屋さんなのかな? それとも何を話しかけていいのかが分からないのかな? まぁ、自分も人のことは言えないか……。


 そんな私達の様子を見かねたようでローナさんが話して掛けてきた。


「あなたたち、そう見つめ合ってないで奥でゆっくり話してきなさい」


 そう言ってローナさんは私達の手を掴むと奥の部屋へと連れて行かれた。




 そうしてローナさんに連れて行かれるとある部屋の前で立ち止まった。


「お、お母さんここじゃなくて客間の方でも」


 と言って止まった隣の部屋に向かおうとローナさんを引っ張ろうとしていたが子供の力じゃあローナさんを引っ張ることはできないでいた。するとローナさんは私の様子に気付いた。


「気にしないで入りなさい」


 そう言われてその扉を開けるとそこは、可愛らしい部屋だった。思っていた部屋と違って少し驚いたが先ほどのフローラの様子を見ていたためすぐに彼女の部屋だと分かった。それに彼女は恥ずかしそうに俯いているから間違いないだろう。


「ほらレーナちゃん、中に入って! それと室内だから上着は脱ぎなさい。それじゃあ私は、仕事に戻るから」


 そう言ってローナさんが去ったのでとりあえず上着を脱ぐことにした。


「っ!?」


 するとフローラが私を見て驚いた表情をしていた。


「どうしたの?」


「いや、その、綺麗だと思って……」


 フローラは私に見とれているかのように顔を赤くしながらそんなことを言ってきた。


「お世辞は、別にいいのに……」


 とそう言いながら私はフローラから視線を外した。お世辞でも褒められたことが少し恥ずかしかったからだ。



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