2.過去 (2019/7/20)
そして現在の私はというと……。
名前は、シルヴィア・クエント。クエント伯爵家の長女であり跡取り娘だった。なぜ過去形かというとちょっと複雑な事情があるわけなのだが……。
3歳の頃に母親(当時のクエント伯爵家当主)が亡くなり、父が仮の当主になり領主代行として取り仕切るようになった。その後、母親の葬式が一段落するとどこから連れてきたのかは、分からないけど女の人がやって来た。しかも子連れで……。
その頃は、まだ私のことが公になっていないため連れてきた子を亡くなった母親の子供ということにして次期領主候補とした。何故こんなことを知っているのかというと、たまたま通りがかった部屋で、新しく来た女の人と父がそう話していたのを聞いたから知っている。
そして女の人が来たことによって、私は家の隅に追いやられ、最終的には離れで暮らすようになった。まぁ、離れにある屋敷(本邸よりは、小さいけどかなり大きい)で暮らすことになったけど、今思うとそれは、とても良かったことだと思っている。でも、私の2つ下の妹のソフィアとはなかなか会うことができなくなった。一応、妹は本邸でお世話されていたが、どのように扱われるのかは分からないことがもどかしくて仕方がなかった。
新しい女の人が来てしばらくすると私に対する嫌がらせが始まった。最初の頃は、人の目につかないように気をつけながらだった。だからそこまで酷いことは、されなかったが途中から人の目を気にしなくなった。そうなってからは、いじめがどんどん酷くなっていきとても大変だった。まぁ、気にしなくなった理由は、元々いた使用人たちがいなくなったからだと思う。少しずつ知っている使用人さんに会わなくなっておかしいと思っていたから……。だから気付いた時には知っている使用人さんはいなかった。
いじめで何が大変だったかというと新しく来たセリルという女の子とそのお母さんだ。因みにそのセリルって子は私より1つ年上らしい。つまり、私の父親が母親と子を成す前にできた子供ということだ。つまり不倫をしていたということかな? この世界だとどういう風に扱われるのかはわからないけど……。
まぁ、ようは父親の愛人だと思う。その親子は私と会う度に嫌味を言ってきて、次第に嫌がらせ、暴力へと発展してきた。そのせいで暴力を振るわれるようになって身体は痣だらけになったりもした。母親に関しては、刃物で切り付けられたり、鞭で打たれたりした。そんなことが多々あったためその親子に会わないように細心の注意を払っていた。でも、流石に私がいる部屋に来たりしたときは、避けられなかったけど……。そんなことがあって何もすることがない時は、基本書庫で本を読んでいることが多かった。父と義母が書物を読むことが好きじゃなかったみたいでやって来ることもなく書庫の居心地が屋敷の中で一番良かった。そのため魔法、魔物、植物、薬草などについての知識を手に入れることができた。
父が連れて来た人が来てからの生活は、というとご飯は、与えられていたが昔のようなものではなく硬いパンに水という簡素なものだった。しかも1日2食同じもの……。今思うと前世で読んでいたラノベの描写によくあった冒険者の野営食と同じようなものだと思った。まぁ、何も与えられないよりはましなのかもしれないけど。でも、たいした量がないためあまりお腹が膨れなかった。
他には、勉強とか礼儀作法とかも小さい頃から教えられていたが母が亡くなってから屋敷では父か義母に親しい使用人に全員入れ替えられ、4歳になる頃には、知っている人は誰もいなくなった。一応、文字や礼儀作法といったことは一通り学んだがそれ以外は何もやっていない。そして屋敷内の人が全て変わったことによって聞いたり教えてもらったりすることもなくなり、会話をすることが無くなった。
服については、いいものがくればセリルのお下がりで、悪いとどこから持ってきたのかと思うような臭いものが渡された。それを泣く泣く洗って使っていたが。靴とかもそんな感じだったから母親から貰ったブーツをずっと履いていた。今、思うとそのブーツは特殊なものだと思う。
そんなことがあって5歳の頃から外に出歩くようになった。まぁ、主に食べ物とかを求めてだが……。
森で食べれる山菜や自分でも獲れる生き物を採ったり、狩ったりなどして食べた。最初は、味がしなくても気にしていなかったのだが少しでもおいしくしたいと思って調理場に忍び込んで塩とかを持ち出したりしていた。それから、森で体力作りや木の棒を剣に見立てて素振りを始めていた。室内では、いろいろことができないということもあったけど、家の様子から邪魔な子だと思われていることに早くから気付いたから何かあっても生きてゆけるようにしないと。そう思ってそれらのことを始めた。
私の妹の様子は、というと不自由なく生活しているようだった。私と同じような生活じゃなくて良かった……。とそんなことを思いながらたまに様子を見ていた。たまには、両親に気付かれないように会って話したりもした。一応、私と妹が血の繋がった姉妹であることは知っていたみたいだったから嫌われていなかったのは嬉しかった。
そんな生活が半年ほど経った頃、妹が外に連れて行かれた。妹に聞くと亡くなった母の祖父母の家に行くらしい。その時初めて両親の祖父母が生きていることを知ったのだがこれで妹のことは安心だと思った。『元気でね』と声を掛けたら『一緒に行かないかな?』 と聞かれたら他の兵士の人に止められた。恐らく義母の仕業だと思うけど……。妹は、悲しそうな顔をしていたが『私は、大丈夫だから』と言って別れた。これが妹との最後の会話になるとも知らずに……。
それからしばらく経った夜遅く、調理場から調味料を取りに行こうとした時、部屋から明かりが漏れていた。その部屋からは両親の話声が聞こえたのでそっと通り過ぎようとしたら私の妹のことを話していることに気付いた。何を話しているのかと思い盗み聞きをしていたら妹を売ったという話をしていた。どういうことなの? と思い両親の会話を聞いていると祖父母の家に行くように言って賊に襲わせて奴隷商に売ると話していた。その内容を聞いて身体中の血の気が引いたような感覚に襲われた。じょ、冗談だよね……。そう思いながら部屋の中をそっと覗くと両親が大量の金貨らしきものを持っていた。なかなかお金になったとかそんなことを言っていたが、私は妹のことが心配で仕方なかった。それと同時にもう二度会えないかもしれない……。と思った。奴隷商に売られたらどうなるかは分からないから……。
それからは、とにかく強くならないと。そう思い魔法の練習を始めることにした。書庫で魔法について書かれている本を読んでそれから以前山の奥で見つけた湖で魔法の練習をするようになった。