11.ウルフ (2019/7/29)
西門から街を出るとその先には平原が広がっていた。そしてその平原を囲むように山々が連なっていた。
「思っていた光景とは違ったけど、西門の方が見晴らしはいいかな?」
東門の方が山に囲まれている感じだったから、西門も同じような光景が広がっているのかと思ったら広範囲に平原が広がっていたから少し驚いた。風が吹くと草が波のように揺れている光景を見て少しだけここで寝たら気持ちよさそうだと思った。まぁ、魔物が出るからそんなことしたら危ないかもしれないけど……。
そんなことを思いながらエレナさんに教えてもらったウルフが出るポイントに向かってみることにした。
そうしてエレナさんが教えてくれた目撃情報があったという場所に到着したけど、辺りに魔物が近くにいる様子はなさそうだった。
「多分この辺りだと思うけど……」
そう思いながら周囲を調べてみたが何もいない。仕方ないので目撃情報の多い山の奥へと移動しながら道中で薬草を見つけては採取をして歩いていた。
そうして山の中を長いこと歩き回っていたけど結局ウルフと遭遇することはなかった。ゴブリンなら遭遇したけど……。
そういうわけで今日は、諦めて街へと戻ることにした。
その帰り道で魔物の反応があった。その魔物の反応は、動きが速くこちらに向かっているようだった。
「もしかしてウルフかな?」
そんなことを思いながら反応がある場所で待ち構えていると魔物が茂みの中から出てきた。出てきた魔物はオオカミみたいな魔物で大きかった。2メートルぐらいはあるかもしれない。
「これがウルフか」
そう思っていると向こうも私の存在に気付いたようでこちらに向かってきた。相手は、1匹だからしっかりと攻撃を見定めれば多分狩れるはず。そんなことを思いながらウルフの攻撃を躱した。
「ゴブリンの攻撃より断然速い」
すると先ほどのウルフの攻撃を躱したばかりなのにすぐに次の攻撃がきた。
「!? おっと!? い、今の攻撃は少し危なかったかも……」
急な出来事で驚いたけど、攻撃を避けたと思ったらウルフとすれ違うときに尻尾で私に攻撃をしてきた。
「噛みつくのと爪の攻撃だけじゃないのか、もっと気をつけないと」
そんなことを思いながら尻尾の攻撃は、どれくらい強いのかな? とそんなことを思っていた。
まぁ、実際は、ただの牽制でそう痛いものではないのだが……。
尻尾の攻撃を回避するとウルフは、一旦距離をあけた。そして勢いをつけてこちらに爪を振り下ろしてきたのでそれを槍で受ける。
受け止めた感じは、そこまで重い攻撃ではなかったので難なく防げた。そしてそのまま柄を振り回して頭部を目がけて振ったのだがウルフがその攻撃に気付いて離れようとしたため攻撃は一応当たったけど、そこまでダメージはなさそうだった。
「思っていたよりも斃しにくいかも……」
そう思っていたら今度は、ジグザグにフェイントして近づいてきた。それを躱すたびに何度もやってきた。流石に何度も同じような攻撃がやって来るとある程度動きが読めるようになって槍で首を切り裂くことができた。
「グオォ~」
そんな悲鳴を上げながら私との距離をとった。すると急に方向転換して逃げ出した。
「え!? ちょっと!!」
予想外の行動に驚きながらウルフを追いかけるがウルフの方がこの山道になれているため、なかなか追いつくことができなかった。このままでは、逃げられちゃうかも……。そう思ってウルフに向かって魔法を放った。
『エアカッター』
そういうと魔法が発動してウルフに向かって飛んでいき首を切り落とした。ようやく戦闘が終わり一息をつく。とりあえずウルフの依頼が少し高くなっていた理由が少し分かった気がした。多分だけど逃げるのが速くて斃しにくいのだと思う。そんなことを思いながら斃したウルフに近づく。
「とりあえず、これを解体しないとね? 確か、爪と毛皮と肉だったかな?」
そう思いながらナイフを取り出して早速作業に取りかかる。攻撃した部分は首しかないため毛皮には、ほとんど傷がなかったので首の辺りから皮を剥いでいった。それから臓器を取り出して水魔法を使って綺麗にしながら血抜きを行ってから魔石を取り出した。それから爪を根元から抜いてしまっていく。肉は、大きいまましまった。それで残るのは、骨と取り出した臓器。それ以外は、処分かな?
「内臓は……。食べることができるのかわからないから捨てようかな? 食べることができるのなら今度狩ったときから回収すればいいし。骨は、とりあえずしまって置こう」
そう思い骨は、洗って回収してその他のものは、土の中に埋めた。
「これで解体は、おしまいかな?」
そうして解体が終わり街に向かって歩き出した。すると先ほどまで全然発見できなかったウルフが道中に何度か遭遇したが時間的にもそれなりに遅いので魔法でサックと倒して解体せずにしまい町の入り口の所まで戻って来た。門の前には、兵士の人が1人いたけどなぜか門が閉まっていた。まだ日が暮れ切っていないけどもう閉まっているの? と思ったけど、そういえば門が閉まる時間とか聞いていないことを思い出した。まぁ、一応入れるかどうかは聞いてみるしかないかと思いながら街の入り口へと向かった。
そうして門まで歩いて来たけど、そこにいた兵士の人は、やる気のなさそうな感じの人だった。こんな人がここを担当して大丈夫なのかな? そんなことを思いつつ声を掛けた。
「もう街の中には入れないの?」
「(何だ、餓鬼か……)今日は、もう入れないぜ」
今小声だったけど餓鬼って言わなかったこの人?
「門ってどのタイミングで閉めるの?」
「(もしかしてこの餓鬼、初めて街に来たのか? ……それならいけるか)そんなことも知らないのか? そんなの日が暮れる前に閉まるに決まっているだろ」
厭らしい顔をしたと思ったら急に当たり前そうにそんなことを言ってきた。というかこの人の独り言は大きいだけなのかな? 嘘をついているのがまるわかりだけど……。と心の中で呆れていた。でも、こんな人がここを担当しても大丈夫なのかとこの町の事が少し心配になった。
「……朝にならないと入れないの?」
「そうだ。どうしても、って言うなら金貨1枚払えば通してやってもいいぜ?(餓鬼が払えるわけ、ないだろうけどな)」
ここの門兵の人、いろいろ怪しいとは思うけど、これ以上関わらない方がいい気がしてきた。
「それなら朝まで待つからいいです」
そう言って街の近くの山に向かって歩き出した。
「そんなことを言っていいのか? 何も持っていないくせに……」
後ろからそんな声がしたが無視して歩いた。
「っち! なんだ? あの餓鬼せっかく……」
舌打ちをして何かを呟いていたけど、それなりに離れた後なので何を言ったのかは聞き取れなかった。でも、碌でもないことを言っているのに違いないと思いながらさっさと山へと向かった。山に向かっているのに後ろからずっとあの兵士の視線を感じていた。やっぱり危ない人だったのかもとそんなことを思いながら山の中へと入った。
山の中を歩いて大分時間が経った頃日は、暮れてしまった。そろそろどっかで一度休憩をしようかな? とそんなことを思っているとどこからか水が流れる音がした。もしかして近くに川があるのかも? そう思い音のする方へ歩いて行った。
それからしばらく歩いていると辺りが開けて川が見えた。
「とりあえずここで休憩がてらご飯を食べようかな? 月明かりが此処に射しこんでいて明るいし」
そんなことを思いながら今朝買ったウルフの干し肉を食べた。それを食べ終わると、せっかくそれなりに明るいからウルフの解体もしちゃおうと思い解体作業を行った。