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3.昇格試験2 (2019/7/21)



「これより、昇格試験を行う。試験内容は、戦闘技術に於いて最低限身につけているのか確認をすること。それでは始め!」


 合図があると近づいて軽く突きを行うがまぁ、簡単に叩き落とされる。というか思いっきり叩きつけていると思う。もしかしたらこれで手加減しているつもりなのかもしれないけど……。まぁ、そんなことは置いておいて様子をみるために、同じような状況をしばらく続けたがこれと言って変化が無かったので一旦距離をとった。


「ふんっ、雑魚がそんな程度で認められると思っているのか?」


 ルノジスはそう挑発をして来たが私は聞こえていなかったように無視をした。それから戦闘中に同じようなことが何度かあったけど、私が聞いていなかったように無視をしたら逆にルノジスが切れた。


「つまんねぇや。次で終わらせてやるからさっさと来いよ!」


 まぁ、挑発に乗ることになるのは少し癪だが、私も次で終わらせるつもりで攻撃をすることにした。もちろん舐められていた分までお返しするつもりで……。


 私は槍を構え直し、一呼吸して一気に近づいた。相手は、一瞬驚いたような表情をしたがすぐに厭らしい笑みを浮かべた。そのまま槍と剣がぶつかり合ってそのまま槍を上に巻き上げようと動かしてきたのでその流れには、逆らわず槍を握っている手の力を緩めてわざと槍を巻き上げさせた。私は、勢いそのまま相手の方に向かう。ルノジスは、槍を巻き上げて厭らしい笑みを浮かべていた。どうやら私がそのままの勢いで突っ込んでくるとは、思っていないみたいで私から視線を外していた。私は、勢いのままスライディングするように股を抜けようとしたときにローブの後からさりげなく短剣を取り出したように見せかけて足の付け根の部分を短剣で切り裂きながら股を潜り抜けた。


『ザクッ』


「痛っ!? く、くそがぁ!」


 ルノジスはようやく私が何かしたということに気付いて怒り任せに剣を振ってきた。まだ剣を振れることに若干驚きながら、それをあっさりと躱して近づいた。そして先ほど短剣で切り付けた部分を思いっきり蹴った。


『ベチョッ「グギ」』


 という音をとともに鈍い音を立てながら辺りに血が飛び散った。


「ぐあぁ!!」


 蹴られた本人はというと少し宙を舞ってから後頭部を地面に打ち付けると意識を失った。そして私が蹴りつけた足の付け根からドクドクと血が流れていた。


「……やめ!?」


 それから少し間を置いてエミリアさんから終わりの合図をしたので短剣の汚れを払い落とした。


「あなた達早く治療をしなさい!」


 そう言うと倒れた男の仲間が慌ててポーションを出して傷口に掛けていた。私はというと手放した槍を回収していた。


「だから置いてある武器を使うように言ったのに……」


 エミリアさんが何かつぶやいたようだが私には、聞き取れなかった。

それからしばらくするとルノジスの血が止まったようだ。ポーションの効きの良さに少し驚いているとエミリアさんが指示を出す。


「とりあえずギルドの医務室に運んでおきなさい。でも、治療費は、あなた達持ちだからね?」


「はぁ! ふざけるな!」


「そうだ! いくらギルマスでも――」


「私試合前に言ったよね?ギルド側は、一切責任を持たないって? そしたら彼は、『ふんっ、別に構わん』と言ったでしょ?」


「そ、それは、ルノジスが勝手に言ったことだから俺たちは」


「パーティの責任に決まっているでしょ! 文句があるなら彼に言いなさい!」


「「……」」


 そう言うと彼等は、黙り込んでいた。


「分かったらさっさと医務室に運びなさい」


 そう言うと先ほどの仲間たちがルノジスを担いで部屋を出て行った。それを見送るとエミリアさんが溜息をしてからこちらに向かってきた。


「……とりあえず、試験は合格よ」


「ありがとうございます」


 まぁ、あれだけ戦えたから十分でしょ。でも、ちょっとやり過ぎたから何かお咎めがあるかもしれないが……。


「ただ、あの攻撃はちょっとって思うわよ?」


「……少しムカついたから」


「分からなくは、ないけどそれでもやり過ぎよ。……まぁ、油断しきっていた彼が悪いとしか言えないけど……」


 と少し呆れたように言われたが相手のこともあったからなのかそれ以上は何か言われることはなかった。


「まぁ、終わったことだからさっさとランクアップを終わらせましょう。とその前にそこに井戸があるからその汚れを落としてきなさい」


 エミリアさんにそう言われて確認すると先ほど蹴り飛ばした方の足が血だらけに汚れていた。他の所も所々血が付着している。


「あなたが洗っている間に話を通しておくからエレナから話を聞いてちょうだい」


「? エレナさんって?」


「……さっき話していた受付の子よ? もしかして自己紹介していなかったの?」


 私が頷くとなるほどみたいな表情をした。


「まぁ、とにかくその子に話を通しておくから」


「分かりました」


 そう言うとエミリアさんは訓練場を出て行った。


「とりあえず汚れを落とすか…」


 そう思って近くにある井戸へと足を向けた。



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