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第97話

「ここがエジプトのかつての首都ですか……」

「ああそうだ。今の世界でも以前と変わらずに重要な街だぜ。」

 私は行商の方々についていく形で砂漠を超えてエジプトの首都。カイロの目前にまで来ています。

 ここまでの道のりはもちろん大変なものでしたが、トゥルカナ湖でロボットに襲われた後はいくつかの隊商に運よく混ぜていただけ、隊商の乗り換え乗り換えで首尾よくここまで辿り着けました。


「さて、まずは宿の確保ですね。ここまでありがとうございました。」

「おう。こちらこそありがとうな。」

 私は行商の男性に礼を言います。


 さて、日は既に傾き始めています。これから街の中に入れば夜でしょう。

 なので、今日の所は宿に泊まり、明日の朝にでもクロキリと連絡を取ってリョウお嬢様を捜すか待つかすればいいでしょう。

 そう言えば時差ってどの程度でしたっけ?魔王や眷属は眠らなくても何とかなりますからどうにもその辺りの感覚が薄くなるんですよね。


 そうしてそんな事を思いつつも無事に宿はとれ、その日は休みました。



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 翌朝。

 宿屋の屋上で遠くにピラミッド型のダンジョンを眺めつつもクロキリに連絡を取ります。


 それにしても私はアフリカ大陸を縦断したわけですけど、ここに至るまでに実に様々なダンジョンがありました。『種を隔離する別士』のダンジョン『世が違いし島』を皮切りに数多の猛獣が徘徊するサバンナに、息をするのもツラい砂漠。ああ、恐竜が普通に生きているダンジョンもありました。でも、一番驚いたのはやはりあのロボットたちですけど。


 そう言えばあの日から十年少々ですが、リョウお嬢様と別れたのはあの日よりも前なんですよね。思えば随分と時間が経ったものです。


 私は自分の体を見ます。

 私の体は十年前のあの日から…いえ、クロキリの眷属になってから殆ど変わりがありません。しいて言うなら十年前に魔神の手によって半魔王化させられた際に付けられた左腕の金属籠手ぐらいですか。

 それに対してリョウお嬢様はどうなられたのでしょうかね。十年も経てば例え眷属でも変化があるはずですし、あの国からここまでの旅路で痕が残るような傷を負われていなければよいのですが。

 それからイズミとムギの事も気になります。ムギはあまり変わりないでしょうが、イズミは別れた時肉体的にはまだ十にも満たなかったから成長が楽しみです。


 もうすぐ。そうもうすぐ会えます。


 と、通信が繋がりましたね。

 相変わらずのノイズ混じりですけど。


「クロキリ。こちらはカイロに着きました。」

『おお早いな。砂漠越えはもっと大変だと思っていたんだが。』

「独り身ですから。」

 私は笑ってそう答える。

 ただ、クロキリの声に妙な雰囲気を感じる。何か怪我でもしたんでしょうか?

 でも今はリョウお嬢様との合流が優先ですね。


「お嬢様は?」

『数日前に連絡があったから今はエルサレムの辺りじゃないか?ちょっと待て今連絡を……』

 そう言ってクロキリは私との通信窓口を開いたまま、リョウお嬢様とも通信を始めようとします。相変わらず器用ですよね。


『っつ!?』

「クロキリ?」

 クロキリが何かに驚いたような声を上げたので、私は何があったのかを聞き出そうとします。

 それに対してクロキリは……


『イチコ!もしかしたら奴が今リョウの近くに居るかもしれない!』


 そう答えました。

 私は驚きつつも考えます。クロキリがこの場で奴と言うような存在……そんなものは一つしかありません。もしそうならば、


『至急向かってもらえるか!?』

「分かりました。今すぐに向かいます!」

 最速で向かうしかありません。


 私は通信を切り、宿から荷物を引き上げると急いでエルサレムの方角に向かい始めました。

 いつものように隊商に紛れ込んだり、消耗を抑えるために歩いたりもしません。

 スキルを全力で行使して普通の人間の目には映らないようなスピードで一直線に目的地に向かいました。



■■■■■



「あれが聖地ですかぁ……」

 ホウキが思わず呟きます。

 私たちは出来る限り安全なルートを探し、『魔聖地』を掠めるように西へ向かっています。

 なぜ『魔聖地』に寄らないのか。その理由としては、


「でも、街の周りを色んな奴が囲っているから入れないネ。」

 ウネが言ったように『魔聖地』の周囲には聖地奪還を狙う各種団体が屯しているからです。

 しかも、この駐屯団体。タチが悪い事に相手が自分たちと同じ人間でも、宗派が違うと問答無用に襲い掛かり、宗派が同じなら同じで協力を強要してくるそうなのです。

 おまけに目的は同じなのに功を争って人間同士で争っていますし、おかげで『魔聖地』の周囲は世界で最も危険だと言われています。


「神官さんは受け入れてるのに、これじゃあねー」

 しかもシガンが言うように『魔聖地』を治める魔王『絶対平和を尊ぶ神官』は街をダンジョンにはしましたが、人間を襲う事も無く、眷属を作りもせず、ただ聖地の管理をしつつ一日中祈っているだけです。

 正直、神官と『魔聖地』囲う連中。どちらの方に味方をしたいか問われますと……ねぇ。


 ちなみに『魔聖地』の中が世界で最も安全と言われるのはダンジョン化したことによって建物が壊れる心配がない上に、ダンジョン内では神官の固有スキルで街の中で神官自身以外に対して犯罪を起こした者にその罪の重さに応じた天罰を下されるようになっているからです。

 しかもこのスキルによる罰は情状酌量の余地などをきちんと汲んでくれますのでかなり優秀です。


「来る……。」

「誰か来ますね。」

 と、イズミとホウキが私たちに近づいてくる者たちの気配を察します。


「数は?」

「50ちょっとですかねぇ。」

「はあ、随分と多いねぇ。」

 ただ、相手の錬度にもよりますが何かあっても対処可能な数でもありますね。

 さて相手の正体ですがここは街の外。となれば、


「さて、汝らに問おう。汝らは我等が隣人か?」

 当然。街を囲っている連中の仲間でしょうね。

 はあ、ここでは争いたくないのですけどね……。

第2章のクライマックスも近づいてきました

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