前へ次へ   更新
95/157

第94話

 旧ケニア・トゥルカナ湖


 アフリカ大陸の大地溝帯にある湖で、その面積は6405km²。つまりは琵琶湖の約10倍に及ぶ世界最大のアルカリ湖である。


「はぁ……はぁ……」

 そしてそんな場所の湖畔をイチコは走っていた。


「くっ!」

 イチコの今の走りはマラソンのように長距離を自分のペースで移動することを目的したものではなく、その走りは何かからの攻撃を避けて逃げるための走りであり、所々に≪形無き王の剣・弱≫による転移も含まれている。


 そしてイチコが転移した瞬間に先程までイチコが立っていた場所に火柱が上がる。


「はぁはぁ……あれは一体なんだというのですか……いえ、正体は分かってますね。あれは……」

 転移した先の物陰で呼吸を整えつつイチコは敵の姿を確認する。


 敵の姿は体高20m程の鋼鉄製の巨人。というか、ぶっちゃけ、


「ロボットですね。」

 であった。



■■■■■



 そうですね。いい加減現実を認めましょう。あれはロボットです。それも戦闘用で人間とかが乗り込めそうなロボットです。

 武装はミサイルやビームカノン。背中には飛行ユニット。攻撃の射程は100mは確実に超え、情報を共有しているのか一体が敵を発見すると一斉にこちらに向かってきます。あの体躯や素材からして耐久力も相当なものになるでしょう。

 ただ、種別に関しては私はそちら方面には詳しくないので分かりません。何となく国民的ロボアニメ関係のものではない気がしますが。


「それにしても何故トゥルカナ湖でロボなのでしょうか。関連性がまるで見えません。」

 私は上空で旋回する巨大ロボ群を観察しながらこの地からいち早く離れられる道を捜します。


「あの道が良さそうですね。」

 そして私は一本の道に駆け込みました。



------------------



 トゥルカナ湖を治める魔王の支配領域と外との境目。

 私の背後ではその魔王のダンジョンである黄金色の板が空中に浮いて発光しています。

 そして、


「そう。甘くはない。という事ですか。」

 今、私の前には2体のロボットが立っています。

 片方は全身白で背中に大量の砲撃武器を背負った女性型のロボット。もう片方は全身黒で剣(と言っても持っている存在が大きいので人間から見れば巨大剣の分類ですが。)を両手に持つと同時に予備の剣を腰に何本も提げた男性型のロボットです。

 彼らには私を逃がす気は無いらしく、既に臨戦態勢を整えています。


「分かりました。そちらがその気ならば押し通るだけの話です!」

 私は右手に普段使っているものよりも遥かに長い剣を作り出して駆け出します。


 私が駆け出し黒いロボットに近づいたところで、黒いロボットが右手の剣を振り下ろします。私はそれを右に跳んで避けますが、剣が地面に触れた瞬間その黒いロボットの見た目から予想できる通り爆風と大量の土煙が起こり、私は空中に舞い上げられます。

 そして、私が空中に飛ばされて身動きできなくなったところに白いロボットが背中から無数のミサイルを発射してきます。恐らくは追尾機能があるのでしょう。そのミサイルは全て私目がけて飛んできます。


「舐めないでください。」

 しかし私は長さ2cm程の刃をいくつも左の掌の中に作り出し、ミサイルが25m以内、つまりは≪形無き王の剣・弱≫の射程圏内に入った瞬間にそのミサイルの先端に食い込むように刃を転移して誤爆させます。

 と、黒いロボットが今度は左手の剣を横に薙いで私を真っ二つにしようとします。どうやら二段構えの攻撃だったようですね。

 ですが、見えてさえいれば問題ありません。攻撃が当たる直前に私は少しだけ今の位置より上の位置に転移することによりその攻撃も避けます。


「「ーーーーーーー!?」」

 さすがにこの連携が両方とも避けられるのは想定外だったのか二体のロボットが驚いたような表情を見せた……気がします。

 うう、金属製の顔なので表情が読み取れません。

 と、反撃もしなければいけませんね。


「今度はこちらの番です。≪首切り≫!」

 私は黒いロボットの眼前に転移し、その頭を叩き潰すように巨大な剣を生み出し、生み出した直後にその剣を横へ振って黒いロボットの頭を刎ね飛ばします。


「!!?」

 が、さすがはロボットと言うべきでしょうか。

 頭を刎ねられても多少驚いただけで平然と黒いロボットは私に向けて剣を振り回してきます。

 そして黒いロボットの攻撃と攻撃の間に有る隙間を縫うように白いロボットも背中の武器の先をこちらに向けてビーム?を撃ってきます。

 その攻撃に対して私は転移とステップを織り交ぜて避けていき、避けている間に集めた金属で作った剣を黒いロボットの関節部を狙って飛ばしていきます。


「損傷甚大。機能停止シマス。」

 そして、突き刺さった剣が20本を超えたころ、黒いロボットが前のめりに倒れます。


 黒いロボットが倒れたのを受けて白いロボットが飛行ユニットを吹かして上空に逃げます。

 恐らくは圧倒的なアウトレンジからの一方的に飽和爆撃をする作戦に切り替えたようですね。


「ですが甘いです。」

 私は黒いロボットの体を素材に一本の剣を作り上げます。それは黒いロボットの持っていた剣をさらに巨大化したもの。巨大ロボットどころかビルでも一刀で切れそうな剣。

 私はそれを≪キーンエッジ≫と≪ヂュラブルエッジ≫で強化した後、≪形無き王の剣・弱≫を連続使用し、上空に逃げた白いロボットの背中にまで移動。


「行きます!」

「!!?」

 そして巨大剣を横に一閃して白いロボットを腰から上下に切り分け、そのダメージによって体内の機関の何かに引火したのでしょうか、白いロボットが爆発します。

 私はその爆発を巨大剣の後ろに転移することによって防ぎ、強度を保ったまま極限にまで薄く軽くした剣を生み出してパラシュート代わりにして地上へと移動します。


「ふう。何とかなりましたね。」

 パラシュート剣を作ってゆっくりと降下している最中、私は地平線に太陽が沈んでいくのを見ました。

 そして、遠くの方から星の城が近づいてくるのが……


「っつ!≪形無き王の剣・弱≫!!」

 私は急いで地上まで連続転移して身を隠す場所を探します。そして隠れられる場所を見つけて不意に頭上を見たら……、

 私がさっきまでい場所を何百と言う魔性が猛スピードで通り過ぎていました。

 おまけに筋骨隆々な悪魔の様な魔性も来ています。


 もし逃げるのが遅れていたならば……考えたくありません。


 ひとまず敵が去るのを待って私はさらに北へと向かいました。

なぜトゥルカナ湖でロボなのか、分かる方は分かると思いますw

 前へ次へ 目次  更新