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第90話

「まるで景色が変わりませんわね…。」

 私の目の前にはどこまでも砂漠が広がっています。

 建物も遮蔽物も無く、昼は灼熱の太陽が、夜は極寒の闇夜が広がる世界です。


「帰り道は別のルートを通りたいですねぇ…」

「それならついでに欧州の方に向かいたいネ。」

「ならついでにアタイたちに美味しいお菓子を作ってくれよ。」

「それはいいですねー」

「うん…。」

「楽しみにしてるっす。」

 私の周りにいる『霧の傭兵団』団員達もこの砂漠の辛さから弱音を吐き、そこから思わず話を脱線させます。

 そうそう、シガンについては結局『霧の傭兵団』に入団し、私たちの世話をしてもらっています。何処で学んだのかは分かりませんが中々に手馴れています。

 ただ、イズミはシガンの事を何故か警戒していますが。


 さて、何故私たち『霧の傭兵団』が砂漠越えをすることになったのか。それは数週間前のクロキリの連絡に端を発します。



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「つまりイチコさんは現在アフリカを北上中。と、」

 私はクロキリから一通り話を聞いてそう返しました。


『そう言う事になる。だからお前たちにはそのまま西に行ってもらって…そうだな。かつてのエジプト辺りでたぶん会えると思う。』

「砂漠越えですか…。」

 私はかつての世界地図と情勢を思い浮かべ、この先の旅程を想像します。


『すまんな。ただ、出会えた後ならどういうルートを使っても構わないからとにかく『白霧と黒沼の森』から4000kmぐらいまで来てくれ。そうすればこちらで何とか出来ると思う。』

「分かりましたわ。ただこちらにも『霧の傭兵団』としての活動がありますし、そちらを優先しますから時間はそれなりにかかりますわよ。」

『分かってるさ。じゃあ切るぞ。』

「ええ。それでは。」

 クロキリは『霧の傭兵団』の活動優先を認めた上で通信を終えます。

 まあ、『霧の傭兵団』の活動はクロキリにとってもいい経験値稼ぎでしょうから当然と言えば当然ですわね。


「さて、西へと向かいましょうか。」



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 こうして私たちは西へ向かい、砂漠越えをすることになったのです。

 しかし今実際に砂漠越えをしている身としてはこう言いたいですわね。


「絶対にこの埋め合わせは後でクロキリにさせますわ!!」


 と。


 さて、それはさておいて現在の私たちの装備はかつての世界で砂漠越えをするキャラバンに比べるとだいぶ軽装です。

 ただ、これには理由がありまして、まず第一に私を初めとする眷属には水があれば砂漠でも問題なく、その水にしてもスキルで生み出すことが可能なものです。

 そのため重量と体積がかさむ水に関しては最低限の量があれば問題がありません。


 そして他の物品に関しても、


「リョウ姐さん!3時の方向からまたモンスターです。」

 こうして周辺に居る魔王の配下がよく襲い掛かってくるために、それらのモンスターから剥ぎ取る事により補給が出来ます。


「索敵班は周囲に潜んでいる敵が居ないかまずは索敵を、攻撃班はまず射撃部隊が牽制攻撃をしてください。その後接近されたら近接部隊は足止めに専念。射撃班は火力重視で一気に殲滅してください。治療班、生活班は索敵班の指示に従って安全な場所に移動してください。」

 私は『霧の傭兵団』の面々に≪指揮≫を使って指示を与えます。


 敵の姿が見えてきます。どうやら敵は黒い液体を纏った体高3m程の蠍型モンスターの大群のようです。

 その容姿から察するに主は『黒い水湧かす油王』でしょう。彼のダンジョンはここから比較的近かった気もしますし。


「3種走査の結果、周囲に石油蠍以外に敵は確認できませんでしたよぉ。」

「アタイたち射撃班の準備完了だよ!」

「近接班…準備…出来た。」

「分かりました。では、」

 私は右手を上げ、≪指揮≫を発動。そして右手を敵に差し向けつつ宣言します。


「射撃開始!!」


 私の合図と共にムギ率いる射撃班が一斉に攻撃を開始し、≪火の槍≫が飛び、≪風線≫が乱れ舞い、≪土の矢≫が突き刺さり、≪雷爆≫によって閃光が咲き乱れ、そして石油蠍体表面の油にそれらの一部が引火。一匹が大爆発を起こすと同時に連鎖的に他の石油蠍たちも爆発していきます。

 と、この爆発は不味いですわね。このままだと、こちらにも届いてしまいます。


「障壁を!」

「「了解!」」

 私の指示に従って≪広域障壁≫を最も外側にし、その内側に≪土の壁≫や≪水の壁≫が張られて、多少の振動や風を感じましたが無事に石油蠍たちの爆発をガードします。


「っつ!後方に砂蚯蚓です!」

「イズミ!」

「ムン……。」

 と、石油蠍を退けて一瞬気が緩んだところに増援ですか。

 尤も感知範囲内に入った瞬間に気付かれて、イズミの投げた斧によって真っ二つにされたようですね。


 でも、相手が普通の人間ならこの油王が仕込んだ2段の襲撃に気づけずにやられることになるのでしょう。


「本当に油断も隙もありませんわね…。」

 そして油王の作戦に私は思わずそう呟いてしまいました。


「全くネ。」

 戦闘には参加していなかったウネが私に近づいてきます。

 そう言えば彼女は『霧の傭兵団』の糧食班の班長だったはずですが、何故そんなにいい顔をしているのでしょうか?彼女にとって戦闘はただ危険にさらされるだけだと思うのですが…、


「でも今晩の食材確保ヨ。」


「「「えっ……!?」」」

 ……。しばらくの間はウネの出す料理には警戒した方が良さそうですね…。

とりあえず食料としては問題ありません。

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