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第86話

 現在より数か月前


「はあ…。何故私たちがこんな事をしなければいけないのかしら。」

「お金が無いからしょうがないですよリョウお嬢様。」

 私たちは今ガンジス川の川辺に来ています。

 川の真ん中には魔王『恒河の砂積む骨子』が作ったダンジョン『弔事の骨塔』。そして対岸には微かですが今回の敵が見えます。


「霧王は骨子をどうしろって言ったんだい?」

「人間に飼い殺されるような魔王に興味はない。だそうですわ。今回の私たちの敵でもありませんしね。」

 ムギの言葉に私はそっけなく返します。

 そう。今回私たち『霧の傭兵団』の敵は魔王とその配下たちではありません。今回私たちが戦う相手は…


 人間です。


「本気…?」

「本気ですわ。」

 イズミが困惑したような表情で私に聞いてきたので、真剣な目で返します。


 さて、何故今回私たちが人間と戦う事になったのか。理由としては単純です。

 私たちは傭兵。傭兵は戦う者。そして戦う以上は装備品を始めとして様々な物が入用になります。そして物がいるということはそれを手に入れるためにはお金が必要になります。

 つまりは資金不足で『弔事の骨塔』近くを治める組織に雇われたのです。


 と、ここまで来ると皆様疑問を持つでしょう。何故人間に雇われて人間と戦う事になるのかと。

 まあ、早い話が資源不足→ダンジョンから必要なものを回収すればいい→あのダンジョンは2つの集落の境線上にあるなぁ…→相手に取られてたまるか!!

 という流れです。人間はこんな時でも人間同士で争うとは醜いことこの上ないですわね。それに協力する私も同じようなものかもしれませんけど。


 ちなみに『弔事の骨塔』は所属する魔性が他のダンジョンと比べて弱く、それなりの訓練さえ積んでいればレベル1の人間がソロで入っても問題がありません。

 そのため積極的に攻略されることになり、現在では魔王の間以外はほぼ攻略されています。要は飼い殺しですわね。

 尤も毎年少しづつ死者を出していますから、その内切り上げませんと思わぬところでしっぺ返しを食らう事になりそうですけど。


「まあ、アンタが納得してるならアタイたちは構わないけどさ。作戦はどうするんだい?」

「上が考えた作戦に傭兵らしくまずは従いますわ。ただ、万が一何かしらの問題が発生したならばその時点で撤退。前金は頂いていますし、そのまま別の場所から対岸に渡ってしまいましょう。」

「「「了解。」」」

 私の指示に傭兵団の全員が了承を示してくれます。反対が出なくて良かったですわ。

 え?傭兵として途中で逃げるのはどうなのかですって?状況が不利になったなら途中で逃げても全く問題ありませんわ。元々そういう契約内容で契約を結んでいますし。傭兵にとって大事なのは勝利することではなく生き残る事ですもの。


「姐さん。敵が動き始めましたぜ。」

「分かりましたわ。ではこちらも行くとしましょう。」

 そうして私たちは各自船に乗って戦いに赴きました。



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「11時の方向に火力を集中!接近される前に沈めなさい!」

「落ちた奴は必ずスキルで助けるんだよ!間違っても手を伸ばしたりするんじゃないよ!」

 私たちは今、戦場となったガンジス川に居ます。

 上が考えた作戦では一点突破で敵を分断し、それから各個撃破するという単純なものでしたが、今回はそれがうまくいったようで、戦いは有利に進んでいます。

 ただ川の上での戦いなので落ちた時に備えて互いに軽装になり、攻撃は射撃や起点指定のスキルと弓矢を撃ちあっています。中には今となってはそれなりに貴重なはずの銃を使っている人間や敵船に直接乗り込む者もいますが、それは極々少数です。


「3時の方向!大技来ます!」

「イズミ!≪敏捷強化≫ネ!」

「むん……」

 もちろん、この近くに『弔事の骨塔』がある関係でガンジス川の中には大量の魚型魔性が存在しています。そのため、川に落ちた人間を助ける場合は急いで引き上げる必要があるのですが、その際に手を伸ばして単純な力技で引き上げようとすると川の中の魔性から一斉攻撃されることになります。だから先程ムギが指示したようにスキルで一気に引き上げる必要があります。

 ちなみに船には『弔事の骨塔』に生息する魔性の素材で外側を作る事によって敵だと認識されない様になっているそうですわ。


「≪渦炎≫!」「≪風の槍≫!」

 そしてそんな事情があるためにこの戦いにおいて最も有効な戦術は船を沈める事。シンプルですね。

 まあ、そんな訳なので水中適性がある眷属が居ない限りは当然のように相手もこちらも大技を撃つことになります。

 ただ、私たちの場合感知能力持ちはその方面に特化しているので大技を感知した時点でイズミがノータイムで骨斧を全力で投げて術者を仕留め、反撃としてムギと遠距離攻撃持ちの団員が強力なスキルで船ごと沈めますので、戦闘を有利に進められています。


「≪広域障壁≫!」

 そしてよほどの大技でなければ船全体を守るために薄くなった障壁でも十二分に防ぐことが出来ます。


 と、敵船の数がだいぶ減ってきましたわね。確かこのまま順調に作戦が進めば、対岸に行って対岸の集落を占領する手はずでしたわね。尤も占領作戦の方には私たちは参加しませんけど。

 ではそろそろトドメと行きましょうか。


「ムギ。敵旗艦にトドメを、」

「あいよ!野郎ども合わせな!≪火の槍≫!」

「≪風の槍≫!」「≪風線≫!」「≪火狙弾≫!」

 ムギが≪火の槍≫を投げ、それに合わせるように他の団員もスキルを放ちます。放たれたスキルはムギの≪火の槍≫を中心に一つにまとめられ、スキル同士の相乗効果により燃え盛る巨大な炎の槍になって敵旗艦に向かい。着弾。轟音と共に敵旗艦を沈めました。


「ふう。では味方の占領作戦が一段落してから私たちは対岸に上陸しましょうか。」

「ですねぇ。」

 私たちは沈んでいく船を眺めながらしばらく待つことにしました。



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 そして数か月後。話は再び今のイズミたちに戻ります。

ついに戻ってきました。


06/05 少し改稿

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