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第81話

「ここがそうですか。」

 私は今『世が違いし島』の近くに隠れて敵が出てくるまで待っています。

 それにしても『世が違いし島』の周囲にある結界は一体どうやって張っているのでしょうか?

他の魔王のダンジョンやクロキリの口ぶりからするとダンジョンの完全封鎖は出来ないはずですが…いえ、魔王個人のスキルを利用していると考えれば出来ますか。

 それに、ここのモンスターたちは結界の様な能力を持っているものも居たはずですから、魔王が近い能力を持っていたとしても不思議ではありません。


「出てきましたか。」

 結界に穴が開けられ、ダンジョンから数十体のモンスターたちが出てくるのが見えます。

 向かう方向は村のある方。やはりここの魔王。別士はあの村に対して強い執着心を持っているようです。


「では行きましょうか。」

 そして私は結界に開いた穴が閉じる前に全速力で飛び込みダンジョン内に侵入しました。



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 『世が違いし島』の中は結界によって部屋同士が区切られたダンジョンになっていました。

 島は一つ一つで世代や植生、気候などが違います。それはまるで平原に突然現れた台地の上や洋上に浮かぶ島々のように長期間別な場所と隔絶された場所であるかのようです。

 まあ私にとってはその辺りは特に問題はありませんし、気にする事でもありません。

 私にとって問題なのは島ごとに生息するモンスターの能力が微妙に違う点です。


 そう、ある島では素早い動きで私を翻弄してきた鹿型のモンスターが、別な島では動きが鈍重になった代わりに強靭な毛皮を持つようになり、また別な島では筋力が大幅に増した代わりに蹴り一回で倒せるほどに生命力が無いものになっていました。見た目や使用スキルには全く差がないのにです。


「ふう。これでこの部屋は終わりですね。」

 そして今私が殲滅した島のモンスターは攻撃性を捨てた代わりに感知能力が強化されていて、一匹追いつめるのにも非常に時間がかかりました。

 おまけにこのダンジョンは島の中に居るモンスターが全滅しないと次の島に移れないようになっているようで非常に面倒です。


 私は次の島に移りつつなぜこのような仕掛けがあるのかを考えます。

 まあ利点は色々とあるでしょう。部屋ごとにモンスターの性質が違うのならばそれだけでも戦いづらくなりますし、必ず殲滅をしなければいけないのならば確実に疲労は貯まり、装備は消耗し、時間がかかり過ぎれば食料・水などの問題も出てきますから。

 それに…何となくですがこれらの利点に加えてどのステータス配分が良いのか。という事を確かめている気もします。


 尤も食料関係は半魔王である私には殆ど意味はありませんし、この程度の相手では疲労もなにもありませんから、私にとってはほとんど問題ありませんか。


「それに、何にしても私のする事は変わりませんしね。」

 私は武器を生成し直すと奥に向かう事にしました。



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 私は向かってくるモンスターも逃げていくモンスターも関係なしに殲滅していきます。

 そうしてダンジョンの中に突入してから主観時間ではありますが2日程経った頃でしょうか。

 私は今までとはまるで雰囲気の違う島に入りました。


 そこは他の島とは違い、人工物に溢れていて、コンクリート製の建物がいくつも建っています。けれど、建物には銃痕があり、血痕があり、近くで爆発が起きた跡があって、綺麗な建物は一軒を除いてありません。


 そして、この街中で不自然に綺麗な傷一つない建物。そこには腰から身体を上下に切り離され、上半身は両肩と背からから生えた数種の木に覆われた状態で浮き、下半身は何種類もの動物がモザイクのように組み合わされた生物が居ました。外見から敢えてこの生物を分類するならばキメラと言ったところでしょうか。


「貴方が『種を分離する別士』ですね。」

 私はその生物の正面に立ち、右手は腰に吊るした剣の持ち手に触れていつでも飛ばせるようにし、左手はいつ戦いが始まっても敵の攻撃を防げるように短剣を持ちます。そしてその状態で問いかけます。


「…。」

 しかし、返事は返ってきません。まあ口があるのかも怪しい見た目ですし、もしかしたら最初から喋れないのかもしれませんが。


「来ないのならばこちらから行きますよ?」

 私は≪形無き王の剣・弱≫の限界射程より一歩分前に進んだところで、腰の長剣を一本、別士の頭のある場所に転移させます。


ザシュ!


 剣が別士の頭に突き刺さります。が、別士はよろめく素振りすら見せません。

 この攻撃によって別氏はようやくこちらに気付いたのか顔を(恐らくですが)こちらに向けてきます。

 そして、次の瞬間。別士の下半身だけが馬の形になって勢いよく突っ込んできます。


「つッ!」

 私は横に飛んで別士の攻撃を避けます。

 そして別士の下半身が私のいた場所を通り過ぎた所で、今度は心臓があるはずの場所に向かって私は二本目の剣を転移させます。


 しかし、やはりと言うか別士は痛がる素振りすら見せません。

 それどころか先程避けた下半身が再びモザイク状になった後方向転換をし、今度はチーターの様な脚になって突っ込んできます。


「なっ!?」

 チーターの脚になったからでしょうか。そのスピードは先程の比ではありません。おまけに結界の様なものを刃状に展開しています。あれを受けたらただではすみません。だから私は今度は自分自身を転移させることで避けます。


「なるほど。これが『種を分離する別士』の固有スキルですか。強力と言うより不気味ですね。」

 私は近くの建物の上に立って、私を探している別士のスキルを分析します。

 恐らくですが別士のスキルは自分の都合のいい様に身体を組み替える能力で、おまけに結界を扱う能力もあるようです。

 ただ、それだけだと下半身と上半身を分けている理由になりませんし、明らかに致命傷な部位に攻撃を受けても無事な説明が付きません。その辺りに別士のスキルの制限や弱点があるような気が居ます。


「何にせよ情報不足ですし、もう少し影から攻めてみますか。」

 そうして私は新たな剣を何本か手元に生成し、別士に攻撃を仕掛けるために動き始めました。

別士はとても気味が悪い魔王です

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