第73話
クロキリ編です。
現在より7年と少し前。日本某所。
『まったく…。雪翁の配下が南下した理由がそんなのだとはな。どう落とし前をつけるつもりだ?』
『いやー、すまんのう。儂としては命令。という事をしたくなかったものでなぁ。カッカッカ。』
『ふん。減らず口を叩きおって。おかげで妾たちがどれほど大変だったじゃったと。』
俺こと『蝕む黒の霧王』、『百獣纏う狐姫』、『凍てつく銀の雪翁』の三人は各自自分の魔性をフルコントロールした状態でとある場所に集まっていた。
ちなみに俺はいつも通りフォッグを、狐姫は小火狐という小さな狐型の魔性を、雪翁はアイスキューブという小さな四角い氷の魔性を使っている。
『まあいい。今日集まってもらったのは下らない言い合いをするためじゃねえ。』
『確かにそうじゃな。アレを1人で相手取るのは中々に難儀じゃ。』
『話には聞いておったが、それほどの力を持つのか…『籠る桜火の竜君』は。』
そう、今回この国にいる4人の魔王中3人が一堂に会した理由。それはこの場に居ない4人目の魔王『籠る桜火の竜君』をどうするかを話し合うためである。
そして、まずは現時点で竜君の情報が交わされる。
『まず、あの魔王の名は妾の解析持ちが決死の思いで調べたから『籠る桜火の竜君』で間違いはない。』
『んで、能力に関しては名前と、迎撃時の攻撃から察するに炎系だと考えてもいいだろう。』
『報告を見る限りこ奴の外見は体長10m超の桜色の鱗を持った四足二翼の西洋竜ということじゃったな。となれば問題は竜という外見に対して中身がどれだけそれに近いかじゃな。仮に身体能力まで竜と称するに相応しいものだとしたら相当に厄介じゃろうな。』
『こっちで前に鍛え上げた泥兵士を一匹特攻させてみたが、見事に鱗で弾かれて、反撃の爪で跡形もなく吹き飛ばされた。という絶望的な情報ならあるけど?』
『となると半端な攻撃力……いや、魔性程度ではいくら居ても無駄か。』
『それならば眷属でも向かわせるのか?』
『いや、仮に今のうちのトップであるリョウを向かわせても、報告を見た限りだと厳しいと思う。』
『ならば、妾のところのムギでもそうじゃろうな。』
『ふむ。そちらのトップ二人で無理なら儂のところに居るユウではどう足掻いても無理か。』
俺たちは一様に頭を抱える。
一応、俺の頭の中にはこの事態を打開する方策があると言えばあるのだが…
『霧王よ。お主は今までに何回『王は民の為に動く』を使った?』
まあこれしかないよな。
『昔使った1回だけだな。ただ、その後別な方法(≪主は我が為に理を超える≫)で外に出たことがあるせいかコストが少し上がっていた。』
『どの程度じゃ?』
『教える義理はない…が、全力戦闘は問題なくできるな。ちなみに雪翁。お前も『王は民の為に動く』は作れるよな。』
『問題ないのう。それにしてもわざわざそんなものを話題にしてくるということはそういうことかの?』
『まあ、そういうことじゃな。魔性も眷属も無理ならば妾たちが直接出るしか無かろう?』
『まっ、そうなるよな。と言っても別に倒す必要性はない。俺たちの目標はアイツを表舞台に引きずり出すことだからな。』
『ふぉふぉふぉ。久しぶりに血が滾るのう…。これほど血が滾るのはいつ以来か…。』
『それじゃあ…、』
『では…、』
『うむ…。』
『『『今回は共同戦線と行こうか!』』』
そうして、霧王、狐姫、雪翁の三魔王による『籠る桜火の竜君』の引きこもり脱却作戦が開始されるのであった。
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「あーあー、こちらは霧王の使いである!竜君よ!いい加減に眷属の一人でも作って表舞台に出てこいや!ゴラァア!!この世界情勢で引きこもりなんぞしてんじゃねえ!」
霧人の男の声が辺りに響き渡る。男の周りには狐人の女と雪人の男も立っていて、この状況を静観している。
そして、霧人の言葉に対する竜君の返事は、
「断る!アタシはここでずっと寝ていたいんだ!」
というものであった。
その言葉を受けて三人の眷属は懐からそれぞれペンダントを取り出し、竜君のダンジョンへとそれを投げ入れる。
そして、次の瞬間。
「黙れこのクソ蜥蜴が!!」
クロキリの怒号とともに爆音が辺りに響き渡った。
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「あっ…ぐっ…よくもアタシの住処を…」
「黙れ。このヒッキートカゲが。」
俺の目の前には体長10mオーバーの全身桜色の竜が居る。間違いなくコイツが『籠る桜火の竜君』だろう。
「さて、妾たちとしてはお主が素直に眷属を作って外と交流を持ってくれるのならばここで退いてもよいのじゃが…」
「うるさい!お前らの言うことなんて聞くか!」
「じゃろうな。」
狐姫が一応の説得をするがやはり無駄のようだ。
「では、少々痛い目を見てもらうとしようかのう。」
「来るなら来い!この銀色爺!」
雪翁が構えをとるのに合わせてこの場にいる全員が戦闘態勢を整える。
ちなみに、現在の俺は人間形態で、全身黒ずくめの青年風の姿。
狐姫は金髪で狐耳と尻尾を生やし、手には扇を持ち、巫女風の装束を身につけた姿。
雪翁は髪が白い以外は全身銀色の腰が曲がった爺という姿である。
尤もこの姿は交渉のためのものであり、本来の姿は俺も含めてまるで別なものであろう。
「じゃあ、早速行かせてもらいますかね。≪霧爆≫×32!」
俺は先制攻撃と場を整えるために≪霧爆≫を竜君の周囲に放つ。
だが、竜君にとってこの程度の攻撃は大したことがないらしく、さして効いているようには見えない。
「さすがに堅いのう。では妾も≪百獣誑かす仙狐≫≪火属性付与≫。」
狐姫が右手に持った扇に青い焔を灯らせながら、構え、そして音に匹敵する速さを持って竜君に斬りかかる。もちろん竜君も黙って受けるつもりはなく、これを迎撃しようとするが…
「させるかよ。≪幻惑の霧≫」
狐姫が霧の中に入ると同時に俺の≪幻惑の霧≫によって数十人の狐姫の幻影が出現、その光景に思わず竜君の動きが止まる。
そして、その隙に狐姫は竜君に到達し一瞬の間に数十回の攻撃を加えていく。そのダメージに思わず竜君は呻き声を漏らす。
が、そこで竜君はその巨体に相応しい長さと太さを持つ尻尾を振りまわし俺の生み出した幻影ごと狐姫を吹き飛ばす。俺はそれを受けて一瞬狐姫の方を見るがどうやら直撃を避け、自分から飛ぶことによって殆どダメージを受けなかったようである。
と、狐姫を吹き飛ばし、攻撃が一瞬止んだところで雪翁が竜君に接近し、
「ほっほっほ。では行くぞい。≪凍銀の雪巨人≫」
一瞬、銀色の光を全身から放った次の瞬間。
そこには銀色の身長8m程の巨人が居て、竜君の動きを力づくで抑えていた。
「グッ、ツッ!離せ!」
「お断りじゃ。」
竜君は全身で雪翁を振り払おうとするが、雪翁は長年の経験によるものなのか、細かく抑える場所を変えることにより竜君の動きを完全に制している。
そして、これを好機と考え、狐姫が再びあの超スピードで竜君に斬りかかろうとした瞬間。
「離せって言ってんだろうが!≪生命籠る桜火≫!!」
竜君の全身から桜色の炎が噴き出し、雪翁を無理やり引き剥がし、俺と狐姫を大きく吹き飛ばす。
俺の目の前に壁が迫りつつあるため、俺は人間形態から霧形態へと移行して、壁との衝突で受けるダメージを消す。一方で狐姫はまるで猫のような動きで壁に軟着陸をし、雪翁に至っては地面を捲り上げつつも少々後退しただけに留めている。
俺が言うのもなんだが、今の攻撃でほぼダメージ無しというのはさすがの魔王である。
そして、肝心の竜君だが、先ほど狐姫が与えたはずのダメージは全て回復していて、戦闘開始時と変わらない姿を俺たちに見せている。
「なるほど。ダメージ+回復か。便利じゃのう。」
狐姫が地面に降りつつ呟く。
「おまけにそのレベルでこの強さ。竜の名に相応しいのう。」
雪翁が腕を回して体の加減を確かめながら言う。
「分かったならとっととアタシの家から出ていけ!でないと次は燃やしつくすよ!」
竜君が威嚇なのか翼を大きく広げながら咆哮を上げる。
だが、竜君よ。その提案は…
「お断りだね。次は俺がいいものを見せてやるよ。」
そうして、戦いは第2ラウンドに移行する。
スーパー☆魔王☆タイムです
傍から見たらこの世の終わりの様な光景が広がっていそうです。
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