第71話
「イズミ隊は後退!それに併せてムギ隊は射撃開始!」
私が声を張り上げて指示を出します。そして、それを受けて、村の若者と傭兵仲間数人を連れて敵の足止めをしていたイズミたちが隙を見せないようにゆっくり後退をしつつ、攻撃ポイントに到達したムギを始めとした射撃系スキルの所有者たちが敵に対して一方的に攻撃を仕掛けます。
射撃組の中で特に目立つのはやはりムギですね。≪火魔法習熟Ⅰ≫によって強化された≪渦炎≫により、何体もの敵が焼き払われていきます。
そして一方的な攻撃にたまらず敵は逃げ出そうとしますが、が、甘いですね。
「ムギ隊攻撃中止!イズミ隊!ホウキ隊!挟撃しなさい!」
ムギたちの攻撃が止んだところで、逃げ出そうとする敵の背後に≪筋力強化≫により桁違いの攻撃力となったイズミを先頭に敵への攻撃を仕掛けます。もちろん敵の一部からの反撃もありますが、≪出血防止≫と≪自己再生(弱)≫を持つイズミにとってはかすり傷程度はいくら積み重なっても無駄なようです。
そして、わき目も振らず逃げ出そうとする敵に対しては≪隠密≫によって今まで隠れていたホウキたちが強襲。当然逃げ出そうとしていた敵にはこれに抗う術はありませんでした。
「ふう。緒戦は何とかなりましたわね。」
さて、いきなりの事態に訳が分からないでしょうから、まずは今の状況をお話しましょう。
と言っても村長からの依頼を受け、村全体での撤退作戦を敢行中に敵が接近してきたので、反撃、壊滅させただけなのですが。
ちなみに旅程は予定では3日ほどで、今はまだ村を出て半日ほどのところです。
後やるべき事は…
「怪我をした者はまず私たちリョウ隊へ!それ以外は後退してウネ隊から食料の供給を受けた後に休憩に入ってください!モンスターの死骸に関しては5分以内に各自、動きの邪魔にならない程度ならはぎ取りを認めます!」
「「「ハッ!!」」」
怪我人の治療と食料の配給、それにはぎ取りですわね。いずれも今後のことを考えれば大切なことです。それにしても…この仕事は予想以上に儲からない仕事になりそうですわね。
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「キョンシーに幽霊。それに犬やネズミをゾンビ化したモンスターばかりでしたねぇ。」
モンスターの死体を検分していたホウキお姉ちゃんは剥ぎ取った物を両手に抱えつつそんな事を言います。
「アタイの聞いた話だと、ここの主は殺した人間を素材にモンスターを増やせるって話だし、死んだモンスターを条件付きで生き返らせることも出来るそうだよ。嫌らしいことこの上ないね。」
ムギお姉ちゃんが周囲の警戒をしながら話を合わせます。
「尤も先程襲ってきた敵に関しては、その条件である核までしっかりと壊しましたから問題はありませんわ。」
「後処理は大切だよネ。」
リョウお姉ちゃんとウネお姉ちゃんが今日の食事を持ってこちらに来ます。と言っても他の人たちに比べて量は少なめですけど。
「(食事?)」注:久しぶりの筆談です
「ええ、そうですわ。尤も嗜好品レベルでしか必要のない私たちは節約の為に量を減らしてもらいましたけど。」
「ま、今の状況ならしょうがないね。」
「私たちに量はあまり関係ないですからねぇ。」
「代わりに味には拘ったけどネ。」
リョウお姉ちゃんとウネお姉ちゃんがイズミたちに食事を配って一緒に食べ始めます。
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「そうそう。先程偵察に出していた人間の一人から報告がありましたわ。」
リョウお姉ちゃんが食事をとりながら話し始めます。
「モグモグ…偵察って前と後ろ。どっちからだい?」
「後ろの方ですわ。」
「リョウお嬢様。となると、魔王たちの軍勢でも見つかったのですか?」
「それもありますが、それに加えて突入者が居たそうです。」
「ゴクン…。突入者…ダンジョンにこのタイミングで入った奴がいるノ?」
「ええ。偵察の話では十人ほどの人間がダンジョンから大量のモンスターが出撃したタイミングで突入したようです。」
「(モグモグ)」
食事をしながらの報告会はどうかと正直イズミはどうかと思いますが、時間が無いからしょうがないですね。
「それで、肝心の敵はどれくらいでこっちに来るんだい?」
ムギお姉ちゃんがリョウお姉ちゃんに質問します。
「偵察の話では2日後の都市に着く直前に襲われるかもしれない。っていう話でしたわ。」
「なら、少し急げば襲われずに済むかもしれないネ。」
リョウお姉ちゃんの言葉にウネお姉ちゃんが提案します。
「確かにそうですわね。ただ、人間の体力でどこまで行けるかは確かめておく必要がありますわね。」
「では急げるかどうか、確認してきますねぇ。」
リョウお姉ちゃんの言葉を受けてホウキお姉ちゃんが村長さんに確認しに行きます。
「(間に合うといいね)」
「そうだねえ」
思わず。イズミはムギお姉ちゃんに向かってそう書いてしまいました。
そして、2日後。
イズミたちは…
明日からは1話更新に戻ります。