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第53話

今回は特に残酷な描写が存在します。

『大物が出たぞおおおおぉぉぉぉ!』

 一人の男が大声を上げて私たち全員へ注意喚起します。

 そこに居たのは何人もの人間を跳ね飛ばしつつ突進してくる背中から何本も赤い棘を生やした体高2m程の蜥蜴。いえ、もはや竜と言った方が正しい威圧感を放っていますね。そしてその上には唐辛子の実に手足を生やしたような魔性が乗っています。どうやらこの魔性が騎手のようです。


「名称識別!蜥蜴は『辛棘蜥蜴』、上のは『カプシカマン』です!」

『この奴隷共が!貴様ら全員このコチュ=カプシカマンが殺してくれるわ!』

 辛棘蜥蜴にカプシカマンですか。辛棘蜥蜴は恐らく『白霧と黒沼の森』で言うところのクエレブレ、カプシカマンは恐らく魔王のレベルが4で生み出せる魔性ですね。

 となると、レベル1の人間では何人居ても厳しいですね。


「全員退きなさい!あれは私たちが相手をします。」

 私は大声を張り上げて、周囲の人間を敵から離します。


「…!」

 そして、周囲の人間が退くのに合わせてイズミがその斧を大きく振りかぶり、辛棘蜥蜴の顔面に横から思いっきり叩きつけます。

 が、辛棘蜥蜴は効かないという表情を浮かべている上にその首を大きく動かしてイズミを弾き飛ばします。


「っつ!よくもイズミを!」

 イズミが弾き飛ばされたのを見てムギさんが無数の≪火の矢≫を放ちます。


『奴隷が生意気なんだよ!』

『グギャギャギャ!』

 しかし辛棘蜥蜴の上にいるカプシカマンが赤い盾を生み出して≪火の矢≫を防ぎ、止んだところで辛棘蜥蜴が背中の棘を投げ槍のように飛ばします。


「まず!」

「ハッ!…っつあ!」

 が、その棘は私が≪ロングエッジ≫を発動して長剣のようになった短剣を振って防ぎます。しかし、その一撃は重く。しかも、どうやらこの棘はかなりの高熱を放っているようで、ただ弾いただけなのに私のHPが削られたように感じます。


『時間稼ぎをします!≪土壁≫!』

 周りに居た人間の一人が≪土壁≫を使って辛棘蜥蜴の周囲を土の壁で囲います。


『こんなもので止まるかぁ!』

 が、カプシカマンのスキルでしょうか、爆発が起きて土の壁が吹き飛びます。


『ならば一斉射撃だ!≪水の矢≫!』

『≪発破≫!』『≪風の矢≫!』『≪土礫≫!』

 しかし、壁が壊れた瞬間に周囲の人間達が一斉に遠距離から攻撃できるスキルで攻撃します。

 その攻撃は凄まじく辺りには轟音と土煙が立ち込めます。


「やったかい…?」

 思わずムギさんがそう呟きます。

 でも、ムギさん。それはフラグです。現に…


『奴隷が調子こいてんじゃねえぞ!』

 カプシカマンも辛棘蜥蜴も多少のダメージは負っていますが健在です。


『行くぞ!』

「「「ギャアアアアアアアアア」」」

 辛棘蜥蜴が突っ込んできて手近にいた不幸な人間が何人か轢かれて断末魔を上げながら絶命します。と、急いで止めなければ!


「フンッ!」

 私は突進する辛棘蜥蜴の前に出て剣を構え、その剣で辛棘蜥蜴の突進を止めます。イズミも私の後に続く形で抑えにかかり、その結果として辛棘蜥蜴の突進が止まります。


『何!』

 カプシカマンが驚いたような声を上げます。

 ここがチャンスですね。かねてより密かに練習していたあれをやるべきタイミングです。


「イズミ!ムギさん!コイツの足止めお願いします!私は準備に入ります!」

「(コクリ)」

「分かったよ!」

 私が後ろに飛び退くのと同時にイズミは辛棘蜥蜴の攻撃を避けつつ縦横無尽に両手に出した斧を振り回して攻撃していきます。辛棘蜥蜴はその攻撃ではダメージをほとんど受けませんがイズミに攻撃が当たらないためイラついています。

 同時にムギさんはカプシカマンの動きを抑えるために≪狐火≫と≪火の矢≫を組み合わせて攻撃していき、カプシカマンはそれを防ぐために攻撃する暇もなく赤い盾を出し続けて防御しています。

 そして、その間に私は自分の中にある力を練り上げ、右手で持った剣の刃に左手を添えつつそれを込めています。


 正直に言えば今から私がやる事が成功するかどうかは分かりません。なにせ実戦で使うのは初めてですし、練習でもほとんど成功したことがないからです。それにきちんとした理論の元で構成された技と言うわけでもありません。

 ですが、やるしかありません。今は二人が抑えてくれていますが、MPもSPも無限ではないのです。もし二人の攻撃が途切れればそのわずかな隙に再び多くの犠牲者が生まれます。


「…。『我は虚空を跳ぶものにして霧王の眷属。求めるは敵の首、命の華、血の噴水。』」

 私の詠唱が始まると共に極度の集中によって私の視野は急速に狭まって、手に持った剣の刃だけが映るようになり、周囲の音も聞こえなくなっていきます。


「『跳べよ刃。我が求めるものが手に入るまでひたすらにその刃を我が敵に振り下ろし続けろ。』」

 私の手の内で剣は黒いオーラを纏い始め、徐々にその輝き増していきます。


「二人とも退いて!『切れ!裂け!断て!アウタースキル・センキリカイシャク!』」

 そして、私は剣を大きく横に一閃します。

 しかし、その剣には先程まであったはずの刃はありません。なぜなら、


『何をし…ガアアアアアアアアア!!』

『グギ、ギャアアアアアアアアアア!』

 その刃はカプシカマンと辛棘蜥蜴の首が落ちるまで叩き込まれ続けているからです。


 アウタースキル・センキリカイシャク

 それは私がクロキリのアウタースキル・クロキリノコを見て思いついたスキルというシステムの定めた枠の外側にあるスキル。

 ≪短距離転移≫と≪首切り≫を組み合わせ、相手の首が落ち、命の華を散らせて血の噴水を上げるまで切り続ける技。


「ははっ…なんてスキルだい。こんなの聞いたこともないよ。」

「聞いたことがなくて当たり前です。私が自分で編み出した技ですから。」

「そうかい……。」

 ムギさんは既に半分ほど首を切られて絶命したにも拘らず首を切られ続けている二体の魔性を見て顔を青くし、私の説明を受けて頭を抱え込んでいます。


 そして、私の技によってカプシカマンと辛棘蜥蜴の首が落ちたところで、センキリカイシャクは終わり、それと同時に私はSP切れによって気絶しました。

どうみてもオーバーキルなアウタースキル・センキリカイシャクでした。

イチコさん!首は半分も切れれば普通はもう死にますから!


05/11 誤字訂正

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