第52話
久しぶりのクロキリです。
「やる事多すぎだろ…。」
俺の前には≪迷宮創生≫と≪魔性創生≫の画面に加えて、国からの要望書。というかお願いが書かれた紙が来ている。
具体的な内容としてはこんなところだ。
・西の狐姫との関係をもう少し良くしてくれ
・北の雪翁をどうにかしてくれ
・食糧が足りないからどうにかしてくれ
・迷宮の難易度を下げてくれ
・海から魔性が来ているからどうにかしてくれ
・俺を霧人にしてくれ
うん。声を大にして言いたい。
俺が知るか!
まず、俺にとって狐姫との関係は今みたいな小競り合いを繰り返すぐらいがちょうどいいんだよ。レベル上げにしても戦力を計るにしてもだ。
雪翁はリョウが今頑張っているはずだから無視。雪翁自身は倒せなくても相手の戦力を削るくらいは問題ないだろう。それに何かあればアリアから連絡が入るはず。
食料?自分たちで作れ。もしくはダンジョン内で狩ったのを食え。
難易度?知らん。こちとら命がけなんだよ。これ以上難易度下げたら狐姫に殺されるわ。
海からの魔性?『這い寄る混沌の蛸王』の配下だろ。陸上におびき寄せてから狩れよ。というわけでウチの管轄外。
眷属化の希望?ウチはそういうの受け付けていません。誰を霧人にするかは俺の都合です。
まったく人間と言うのはどいつもこいつも自分勝手な事を言いやがって、終いには殲滅すんぞ。後後の問題があるからやらねえけど。
と、イチコの奴が辛王のダンジョンを見つけ出したみたいだな。それなら当面の指示と…そう言えば狐姫から糖王に手を出すなって言われてたな。その辺も伝えておくか。
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さてイチコたちに指示を出したところで、ちょっと判明したことがある。
どうやら、HP,MP,SPと人間の三大欲求の間には関係性があって、どうにもそれぞれの欲求を満たすことで効率よく回復が出来るっぽい。どれとどれがリンクしているのかは敢えて言わないけど。
ああそれと、今の戦力を少しだけ確認しておくか。
・霧人150人(イチコ、リョウ、ホウキ、チリト、イズミ含む)
・ミステス10体(うち1体はリョウに同行)
・クエレブレ5体
・乱し蜻蛉1体(いつの間にか命令を聞くようになっていた。)
・その他様々な魔性が多数存在
うん。なかなかの戦力だと思う。ダンジョンの中ならこれに加えて霧や沼のトラップが追加されるわけだし。並の相手なら遅れを取ることは無いだろう。
でだ、この中からX-J5攻略に向けて素質のある奴を…
『面白いな。』
突然ピクリ。と俺の体が何かに反応した。
感覚としては何かおぞましい物が一瞬、俺の横を通り過ぎて去り際に一瞥を寄越した。と言った感じだ。とにかく何かヤバイ感じがする。
「何だ?」
俺は周囲を見渡す。しかし、周囲にあるのは普段通りの『白霧と黒沼の森』だ。しかしこの感覚は何時かのどこかで感じた覚えがある。
何時だ…?
この感覚は魔王になってからのものじゃない。俺が魔王になってから知力の上昇に伴い記憶力も上がっている。だから魔王になってから起きたことならすぐに思い当たるはずだ。
となると人間時代だが、人間時代の事はほとんど覚えていないし、おまけにこんな感覚に襲われるような状況に平和なこの国で普通の学生として生活していた俺が遭遇するとは思えない。というか、人間時代の俺の感知は人並み以下だったはず。
そうなるとこんな感覚に襲われるような状況は魔王になる直前…
そこまで考えて俺の脳裏に一つの存在が思い当たる。
「あの幼女ボイスか…」
俺の頭の中にはあの日俺を魔王に変えた謎の声の存在が浮かんできた。俺の最終目標の一つであり、未だにその正体が一切掴めない存在。 そして人間達は知らないが、世界を今の状態にした張本人。
ふむ。というか今更ながらだが、今の状況で幼女ボイスという名前で呼ぶのは少々あれだな。となると別の言い方…そうだな。魔王を生み出した存在ならばこう言うのが適当だろう。
『魔神』
と。
さて、魔神の気配が一瞬でもしたというならばそれ相応の対応、眷属たちの目を通した警戒程度はしておくか。
「尤も魔神相手にそれほどの効果があるとは思えないがな。」
俺は可能な限り警戒網を広げつつもついそんな事を言ってしまった。