第47話
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『霧の粛清』から一月と少し後
「大変でしたね。」
「大変だったねぇ。」
「(大変だった。)」
私、ムギさん、イズミの三人は三人共につい数時間ほど前まで繰り広げられていた悪夢を遠い目をしつつも思い返します。
「まさか、出航直後に大量の水精霊と魚型魔性が襲い掛かり、」
「一息ついたと思ったら巨大イカが出現。」
「(船が沈んでイチコねーちゃんのスキルで海の上を走ったもんね。)」
正確に言えば海の上を走ったわけではなく、二人を抱えて≪短距離転移≫を連続発動しただけです。大陸側まであと少しのところまで来ていなければさすがにMP,SP切れで無理でしたわね。なにせ大陸に着くまでずっとあの巨大イカは私たちの事を追いかけて来ていましたし、時刻にしても到着は日が沈む直前でしたもの。
ちなみに他の船員は元々居ませんでした。もう使わないという船を譲り受けて出航しましたから。
そして海を越えたという事は、
「まあ何にしても着いたわけですね。」
「そうだね。私たちは来たんだ。」
「(初めての海外だ!)」
この星最大の大陸に着いたわけです!
…。
さて、感慨も多少味わったところで、二人とこれから先の事を相談しましょう。
「では、これからどうしましょうか。」
「(イズミはイチコねーちゃんにしたがうよ。)」
「てっきり何か当てがあるのかと思ったら何も考えてなかったのかい…。」
どうやら三人ともノープランだったようです。
となれば…、
「まあ、目立たない様に魔性を狩りつつ、各地を移動して見聞を広めるというのはどうでしょう。人間達の集落で用心棒をするのもありかもしれません。」
「確かこの辺りは魔王が完全支配しているタイプの国だったはずだし、そういう事なら今はまだ旅をすることになりそうだね。」
「(楽しみー)」
そうして、私たち三人は上陸地点である海岸から人目に付かない様に身を隠しつつ人里へと向かう事にしました。
「ところで、こっちの言葉って誰か喋れるのかい?」
「あっ…!」
…。とりあえず早々に≪翻訳≫の様なスキルが来てくれることを願いましょう。
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同日、北方解放前線・最前線基地(トンネルを抜けた先)
「すまないがこの先は君たちだけで進んでもらうしかない。我々はここで今しばらく力を付ける。」
「分かっていますわ。私たち霧人と違い貴方たち人間は兵站を整えなければいけませんし、この先は危険度も跳ね上がりますものね。」
私と大多知マモルさんは北の大地と本土を繋ぐトンネルを抜けた先に建てられた仮の指令所で向かい合って話をしています。
そこで私に言われたのは人間はここで待機するという事でした。
まあ、仕方がないと思いますわ。私が先程申した通り霧人と違って人間は色々と準備が必要ですもの。
それに恐らくですが、いずれ本土の人間たちはこの場から退かざる得ないと思います。なにせ北のダンジョンX-J4の主『凍てつく銀の雪翁』は今はまだレベル3以下のはずですが、レベル4になればクロキリと同じように『長距離転移陣』を使えるようになるはずなのですから。
「では、私はこれからの事を皆と話してきますわ。」
「ああ、分かった。」
そして、皆の元へと向かいました。
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「というわけで、私としては『凍てつく銀の雪翁』の配下を狩りつつ大陸を目指したいと考えています。」
「『凍てつく銀の雪翁』自身やダンジョン攻略はしないのですか?」
ホウキが一応といった様子で聞いてくる。
「クロキリの強さを考えれば今の私たちでは魔王に勝つのはまず無理ですから。ダンジョンに関しても入口を探るだけならともかく攻略は厳しいでしょうし。」
「なるほど。そういう事なら分かりました。」
ホウキは納得してくれた様子で頷く。
「チリトにアリアもそれでいいかしら?」
「僕は構いません。」「私から言う事はありませんね。」
チリトにアリアも納得した様子を見せてくれます。
「では参りましょう。北へ」
そうして私たち4人は最前線基地からさら北へと向かいました。
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同日、迷宮X-J5近部
『ここがX-J5か。こりゃあ確かに人間じゃ突入すらできないな。』
俺(本当はフォッグの目を通して見ているが)とフォッグの前には≪迷宮創生≫によってそれ以前よりも遥かに大きくなった火山の火口が広がっている。
そして、肝心なダンジョンの入り口は火口内部の側面を掘る形で作られている。
『まあ、この体なら突入に関しては問題無いだろ。』
俺たちは緩やかに火口に向かって下降する。当然、火口に近づけば近づくほど周囲の気温は上昇していくが俺の予想通りフォッグの体なら耐えられるようだ。
『うし。到着っと。』
そして俺たちはダンジョンの入り口に到着し、周囲を見渡す。
どうやらX-J5の主はそれなりにデザインにも拘っているようでダンジョンの入り口に建てられた柱には見事な意匠の龍が彫られているし、扉にもドラゴンの様なものが刻まれている。
『さて、鬼が出るか、蛇が出るか。いっちょ行ってみますか。』
俺はダンジョンの入り口に手をかけて開ける。ダンジョン内では今の様に遠隔指示でフォッグを動かしたり、視界をリンクさせたりはできないのでダンジョンには俺が視界をリンクさせていない方のフォッグを突入させ、とりあえずすぐに外へ出す予定である。
大切なのはまず情報を集める事だからね。
そしてフォッグがダンジョン内に突入した瞬間
俺の視界は桜色の炎に埋め尽くされ、体は消し飛んでいた。
「へっ?」
思わず妙な声が出る。
とりあえず何があったかは分かる。敵の攻撃でフォッグが吹き飛んだ。ただそれだけだ。
「あー、とりあえず狐姫に連絡はしておくか。」
そして俺は狐姫に分かったことを伝え、二人で共通の見解を出す。
「まあ、そういう事だから、」
『うむ。そういう事なら、』
「『とりあえずは放置しよう。』」
放置という見解を。
まあ、攻略と言うか調査はこれから先、対X-J5専用の霧人か人間を育ててやらそう。時間ならたっぷりとあるわけだしな。
今回は各PTのこれから的なものでした