第45話
「本当に次から次へと湧いてきますわね。≪霧平手≫!」
私の一撃で白い毛並みをした大型犬のような魔性スノードッグが大きく吹き飛ばされます。
「だからそう言っただろうが!っつ!≪小盾障壁≫!」
立壁さんが氷精霊の遠距離攻撃にいち早く気付いてその攻撃を左手の甲に発生させた小さな障壁で受け止めます。
「まあ、数が多い分だけ美味しいと考えましょう。≪霧の矢≫×2」
そして、体勢の崩れたスノードッグと技を放って硬直している氷精霊へアリアの≪霧の矢≫が飛び、命中、絶命させます。
「バウッ!」
「チッ!」「くっ!」
と、誰が最も危険なのかを判断したのかスノードッグが一匹私と立壁さんの間をすり抜けてアリアの元へと向かいます。
「ふむ。チリト君が足止めで、ホウキさんが止めをさす形でお願いします。」
「分かりましたー」「はっ、はい!」
しかし、そこにホウキとチリトが立ちふさがり、チリトが手に持った短剣と小盾を利用してスノードッグの動きを止め、ホウキがその首に全力で短剣を刺すことで撃退します。
「ご苦労さん!今のうちに代わってくれ!」
と、ここで交代の人員が来たようなので一時的に私たち五人は後ろに下がり小休止です。
この日ここまでに倒した魔性は4種30匹ほどで、レベルはまだ誰も上がっていません。ダンジョン外なので已むを得ませんね。
また、周囲の私たちに向ける目がどことなく冷たい気もしますが、これも初日ではしょうがないでしょう。
なお、死体は北方解放前線基地の方々に渡して、食料や装備品として加工していただきます。なんでも≪武器生成≫や≪食料変換≫などのスキルを持った方々が基地の後方にいるそうです。そう言えばこの状況をまるでRPG系のTVゲームだと立壁さんはぼやいていましたわね。
まあとにかくこれが今の私たちの状況であり、北方解放前線での私たちの戦い方です。そして今の目標は全員のレベルを1づつ上げることになっています。
それにしても…
「魔性との戦いがここまで大変だとは思いませんでしたわ…。」
心の底からそう思い、つい口に出します。犬相手もこのキツさなのによくイチコは人間や鬼などと戦えると思いますわ。
と、私の呟きが聞こえたのか、
「ははは…、アタシもそう思いますよ。お嬢様。」
「本当ですよね…。」
「まあ、今までただ守られていた側の奴にはキツいだろうな。」
「尤も、この程度はまだまだ序の口ですし、相手の脅威度も低いですから今のうちに慣れておいたほうがよろしいかと。」
と、それぞれの反応が返ってきます。その中でもアリアと立壁さんの言葉には事実なので私はただ頷くしかありません。
「でも、これでも2,3週間前よりはマシになったんだぜ。」
「そうなのですか?」
私は思わず聞き返します。今の状況もキツいのですが、それよりもキツい状況などあり得るのでしょうか?
「そうだぜ。何せ敵が大量に屯している上に倒しても倒しても新手が来るなんて言う状況にほとんどの奴らは慣れていなかった。おまけに昼夜関係なしでの戦いにガンガン減っていく物資と食料。誰だって不安にもなる。」
「よくそれで戦線が崩壊しませんでしたね。」
「そこはまあ大多知さんの頑張りだな。あの人の≪指揮≫と、俺たちの後方に控えている街や村の住人たちとの交渉がうまくいってなかったら今の状況はない。」
「なるほど。」
ちなみに詳しく聞いたところ大多知さんは現地での義勇兵の募集や、前線を抜けた魔性を見つけて倒すための見回り組の編成などもしていらしたそうですが、これらの行為はきちんと軍法に照らすとまずい行為らしく、もっと上の人間が提案してやったという事に表向きはなっているそうですわ。
となると、どうやら大多知マモルというお方は地位や名誉よりも住民を守れたという事実のほうが欲しい人間のようですわね。何となく好感が持てますわ。
ところで今の私たちは小休止中ですが、前線にいるのは確かなので何か大きく事態が動くと休憩が強制終了になったりします。そう例えば…
ううううううううううぅぅぅぅぅぅぅううううううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!
このように緊急事態を知らせるアラームが鳴ったりしますと強制終了です。
「チッ、お前ら!とっとと行くぞ!」
「「はい!」」
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前線に戻ってきた僕が見たのは、数人の銀色の鎧を纏った人型の何かが軍の人たちとやりあっている光景でした。僕は状況をこの状況を見てどうすればいいかを考えます。
「新種の魔性か!」
隣で立壁さんが大きな声をあげます。立壁さんが見た事がないというなら僕の出番です。
「今調べます!≪性名解析≫!これは…」
そして、相手の正体を見た僕は驚きました。だって≪性名解析≫にはこう記されていたのですから
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Name:釧路 シフマ
Class:重戦士 Race:雪人
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「どうしましたの!」
「敵は眷属・雪人です!職業を持っているのも見えました!」
僕の報告に皆の間で一気に緊張が走る。
「チッ、となるとあの銀の鎧はアンタ等の≪霧の衣≫みたいなものか。」
「恐らくは。僕のスキルでは所有スキルを調べられないので確証は持てませんが。」
でもたぶん間違いないと思う。現代人で好き好んであんな鎧を着るような人がこんな何人もいるとは思えないし、彼らが着ている鎧はどうやらとても硬いようで銃弾でも弾いている。それに他にも個体ごとに違うスキルを使っている様子が見られるからまず間違いないと思う。
「何だっていいですわ!今重要なのは彼らを助けることです。全員行きますよ!」
「おう!」「はい!」
そうしてリョウお姉ちゃんの宣言とともに立壁さんとホウキ姉さんが飛び出していく。そして僕もそれに続いていった。
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