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第36話

「どういうことですの!」

 今、私はクロキリを自宅地下に呼び出して問いただしています。普段はのらりくらりと逃げられますが、今日ばかりは引くわけにはいきません!


「話の流れが掴めないな。きちんと順序立てて説明したらどうだ。リョウお嬢様?」

「全部…分かっているくせに…貴方がそれを言いますの……。」

 私の手も声も怒りで震えています。


「もしかしたらまったく別の事を思い浮かべてるかもしれないからな~。情報の共有具合はきちんと確認すべきだぜ~。」

 この…男は……。


「いいですわ…。ならはっきりと聞きますわ。クロキリ。貴方はイチコに何をしましたの…。何をしたら、あの子が貴方のスキルを使えるようになりましたの。何で、敵である貴方の僕を増やしてイチコが喜びますの!何で!!あの子は私に何も言わないの!!」

「さあな?」

 私はクロキリを全力で睨みつけます。


「おお怖い怖い。でもよ、少なくとも俺がイチコに何かを強要した事がないのは事実だ。だから、お前が見たそれらはイチコ自身の意志で行われた事だ。」

「貴方は!」

 私はクロキリの胸倉を掴もうとします…が、すり抜けます。

 そしてクロキリは私の耳元で囁きます。


「そんなに気になるならイチコ自身に聞けばいいだろうが。アイツはお前に隠し事はしても嘘を吐くような奴か?」

「それは…。」

「まっ、何にしても俺にはお前にイチコの事を伝えてやる義務は無い。知りたいのなら自分で調べることだ。」

 そう言い残してクロキリはダンジョンの奥へと消えていきます。私はそれをただ呆然と眺める事しかできませんでした。



■■■■■



 那須家の門から一人の少女が落ち込んだ様子を見せながら出てくる。そして、それに追従するように大柄な男も出てくる。


 そして、そんな二人を遠くから見続ける一台の黒塗りの車。


「ターゲットを確認しました。那須家のお嬢様です。」

「了解。こちらでも確認した。手はず通りにやれ。」

「ハッ!」


 そして、車がリョウに近づき…


バチッ!

「アッ!」


 彼女を連れ去った。



■■■■■



 いやー、まさかの展開だな。世界中に向けて俺の眷属に手を出したら殺すって伝えたはずなんだけどなぁ。とりあえずイチコに連絡しておくか。


「イチコ。緊急連絡だ。」

『何ですかクロキリ?』

「リョウが誘拐された。」

『なっ!』

 あー、やっぱり驚いてるな。まあ当然か。


『場所はどこですか!?相手はどこのクズですか!?』

「あー、落ち着け。落ち着け。確かにリョウは意識を失ってるけど、今はまだ運搬中で、その居場所はきっちり俺が感知してるから。問題ない。相手に関しては正人間教会とか名乗ってるな。どういう組織だっけ?」

『正人間教会…確か地上に存在する全ての魔王とそれに属するものを排除することを目指す武力持ちの宗教団体だったと思います。本拠地は我が国から見て東にある大陸で、その教義の関係上魔王の眷属になった人間。所謂『魔人』は人間の裏切り者として最も忌むべきものとされていたと思います。』

「なるほどね。それが表向きか。」

『表向き?』

 イチコが知っている情報は表向きのものまでっぽいな。


「そこまで聞いて前にリョウが言ってた事を思い出したんだよ。どうにもその正人間教会は裏では色々ときな臭い事もやっているみたいでな。特に挙げられるのが若い女性の『人間』を『魔人』だと決めつけて襲うバカが相当数混じってるって話だよ。まあ、リョウを襲ったのがそのバカの部類なのか上の方の本当に魔を殲滅しようとしてる本物さんかは分からないけどな。」

『そうですか。ですが、どちらにせよ…。』

「そうだな。本物の眷属に手を出したなら…。」


『皆殺しです』「皆殺しだな」

 俺とイチコの声が見事にハモる。


「さてと、そう結論付けたところでイズミも連れて行って来い。」

『当たり前です!』

「そうそう。できる限りその場では殺すなよ?そいつ等には後で役割がある。」

『というと?』

 いやはや、仮にも眷属の事を世界にバラしたのは俺だからな。というわけで今回の件で原因の一端は俺にもあるのだよ。というわけで、


「具体的に言うと他の偽物達が間違っても今後そういう事をしないようにするために可能な限り酷く死んでもらう必要があるのさ。」

 彼らにはフルコースで逝ってもらおうか。

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