第33話
大騒動です
「やー、つい喋りすぎたわw」
『喋りすぎたではありませんわ!どこもかしこも大騒ぎですわ!』
一夜明けてとある議員(狐姫の眷属の方な)の辞職会見後、頭の中にリョウの怒りの声が響いてきた。ちなみにリョウのお父さんはお咎めなし。人間だし国が気づかない内に魔王に支配される。という可能性を潰したかららしい。
もっとも同時に魔王『蝕む黒の霧王』と関わりがあるという誹りを受けることにもなったようだが。
後、ホウキとチリトはクロキリ=霧王な事実に顔を真っ青にしていた。まあ、もう落ち着いたけど。
「へいへい。悪かったですよ。で、反響としてはどうなんだ?」
『我が国はこういう時事なかれ主義ですし、眷属に手を出したらどうなるか分かったものではありませんから、それほど問題は起きていませんわ。具体的に誰が眷属なのかはあの議員以外明らかにされて無い。というのもありますけど。』
ふうん。そんなものなのか。
『ただ、諸外国では国家転覆クラスの大騒ぎに発展しかけている国も出ていますし、とある宗教団体などは全ての眷属を探し出して殺すべきだと主張しています。逆に魔王を頭として自分たちと同じ所属の人間すべてを眷族にしたい等と考えている国や組織もあるようです。』
「穏やかじゃねえなぁwwwちなみにお前の周りは?」
『護衛兼監視員。と思わしき方なら見かけるようになりましたわ。付いているのは私だけですが。』
なるほどね。
それにしても、1つ目2つ目ともかく、3つ目の国民総眷族化はないわぁ…。正直そんな事をする意味もないし、労力があり得ないぐらいかかるもん。
「ちなみにうちのダンジョンの新入口は見つけられた?」
『見つけたようではありますけど、新しい迷宮だと認識されていますわね。既に諸外国では今あるダンジョンの近くに別の似たダンジョンが生まれる。という現象が確認されていますからそれと同じだと判断されたようです。
まあ実際にはそれらのダンジョンは内部で元のダンジョンに繋がっているのでしょうし、主も同じでしょうが。』
「そりゃあそうだろうな。」
俺は少々呆れつつ返事をする。
ブーーーーーーーーー!
「と、どうやら久しぶりの侵入者みたいだし切るぞ。何かあったなら通信を入れろ。」
『分かりましたわ。』
そして通信が切れる。
「場所は…うん。第3階層だ。」
俺は久しぶりの侵入者に心を踊らさせた。
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「ふう。こんなところか。」
俺の前のスクリーンには這う這うの体でダンジョン外に逃げる軍の人間が映っている。
今回は俺の狙い通りに半日ほどかけて半分は倒して半分は逃がした。そして倒した人間の内数人は普通の治療では助からないのが確定しているがまだ息がある。
ちなみに戦闘風景は…
「敵襲!」
「どこからか狙撃されているぞ!」
「ぐわぁ!」
「しっかりしろ傷は…な!」
「気をつけろ!この弾丸生きているぞ!」
「畜生!中から食い殺すとか趣味悪過ぎんだろうが!」
こんな感じだった。とりあえず趣味悪いって言った奴。俺もそうとは思っているが面と向かって言ったお前の顔は覚えた。今回は逃がしたが次は逃さん。
さて、今日はここからが本題のスーパー☆実験タイムである。
というわけで負傷者がいる第3階層に移動。魔王の敏捷を舐めちゃあいかん。
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「殺せ…。」
「上手くいかなかったらな。≪魔性創生≫。」
「ガアアアアアアアアアア!」
瀕死の重傷で倒れた兵士の足元に魔法陣が現れ兵士は苦悶の表情を浮かべる…が、それだけだ。兵士の傷は治らないし眷族にもならない。それに俺の魔力もほとんど減っていない。
「ふむ。ダメか。じゃ、お望み通り≪霧爆≫。」
俺は死にかけの兵士に止めを刺す。
「じゃあ、次行くか。」
俺は次の兵士の下に向かい、同じ作業を行っていく。
さっきの兵士も含めてすでに2人の兵士にやってどちらも失敗している。残りは後二人だ。
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で、結論。
どうやら単純に瀕死状態の人間に≪魔性創生≫を使ってもダメっぽい。HPとかの調節に関しては≪蝕む黒の霧≫を使って死ぬ直前にまで追い込んであるからこれは間違いない。
となると考えられるのはイズミがそうだったように抵抗の意思を持っていないことが大切なのかもしれない。というかむしろあれだな。魔王にその身を捧げます的な意思を相手が持っている必要があるのかも。
だとしたらやっぱり重病患者とか、事故で死にかけている人間とかは狙い目かもなー。先天性の病気はともかく、イズミがあの状態から復帰したことを考えれば後天性の病気や怪我が相手なら間違いなく効くだろうし。
もしくは某宇宙人風に「俺と契約して霧人になってよ。」的な方向もありかもしれん。対価は人間を辞めるのと情報の定期的な収集ぐらいだから乗るやつは乗るだろ。
ふむ。となるとあれだな。イチコにまた動いてもらうか。基本的に善人なあいつなら渋々でも引き受けるだろ。
俺は足取りも軽く第1階層に戻って行った。
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