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第152話

 俺は昼の内に進んで襲い掛かるモンスターたちを返り討ちにし、倒したモンスターの肉を剥ぎ取っては食べて、残りの素材で武器と防具を作り、夜になれば結界を張り巡らせて敵の目を避けて眠る。

 きちんと食事と睡眠を摂る必要があるのは、魔神の干渉を跳ね除けているが故のデメリットなんだが、まあ、ここ数年間俺はそういう生活をしていたから特に問題は無い。


「何と言うかあれだな。随分と人間っぽい生活に戻ってるよな。」

 不意に俺はそんな事を思う。

 ただ、俺が人間だった頃なんてもう何十年も前の話で、はっきり言ってもう殆ど覚えていないけどな。


 そして、そんな事を考えながら道無き道を進んでいく俺の前に、突然今までとはまるで違う光景が広がる。


「ここは……なんだ?」

 俺の前には今までの幻想的な雰囲気の風景から一変して大量の本が積み上がり、壁のようになった光景が広がり、僅かに見える本来の壁も金属製の明らかに人工物だと分かるものに変わっている。

 俺はその中で手近な本を一冊とってまず表紙を見てみる。


 タイトルは『矢払ホウキ』


「ん?ホウキ?」

 こんな珍しい苗字と名前が早々被るとは考えづらいので、恐らくあのホウキのことだろう。

 続けて俺は中身を見てみる。ただ、どんな罠が仕掛けられているのか分かったものではないので、何重にも障壁と探知魔術を並列起動して警戒しておく。


 19XX年△月□日12時35分57秒 誕生

 同日、XX回の鳴き声を上げ…


 俺は本の中身を慎重に読み進めていく。


 スキルを取得。取得スキル名は≪魔力追跡(マナトレース)≫。

 同日、解放された『白霧と黒沼の森』に対しては…


 俺はまさかと思いつつも慎重に自分の中の記憶と本の内容を擦り合せていく。


 『蝕む黒の霧王』と遭遇。その場で『蝕む黒の霧王』の眷属『霧人』へと転生させられる。

 スキル≪霧の衣≫を取得。


 既はとある推測を持ちつつ、更に読み進める。


 『霧人』那須リョウと共に大陸へ移動…


 これはもう間違いないだろう。俺は最後まで呼んでそう思う。なにせ、


 『魔神』リコリス=■■■■■の行使した≪災厄獣の呪い≫によって『霧人』から『災厄獣』へ転生。

 『定まらぬ剣の刃姫』イチコと『霧人』那須リョウの協力によって撃退され、『定まらぬ剣の刃姫』イチコのアウタースキル・センキリカイシャクによって殺害される。

 死後、遺体は『白霧と黒沼の森』に持ち帰られ、荼毘に付され、遺骨は墓の中へと納められる。

 遺骨の一部は『蝕む黒の霧王』によって外に持ち出される。

 持ち出された遺骨は『法析の瞳』によって解析され、≪災厄獣の呪い≫の残滓を『蝕む黒の霧王』は解析する。


 俺以外には知りえないはずの情報。ホウキの遺骨を取り出してそれを研究したことまで書かれているからだ。

 ただ、念のためにもう数冊ほど本を取り出して読んでみる。

 そしてそうして読んだ本は俺の考えを補強するに足るものでった。


「間違いない。ここに書かれているのは死んだ人間一人一人の記録だ。しかも死後の事まで含めての情報だな。」

 死者限定とはいえ人一人の人生全てが記された書物の山。地獄の閻魔は浄瑠璃の鏡によって生前の罪の全てを暴くと言うが、これも似たようなものなのだろう。

 後、似た物を挙げるならこちらはこれの上位互換だがこの世が始まってから終わるまでの全てが記されているというアカシックレコード辺りが挙げられるだろう。


「何にせよ。とんでもない情報だなこれは。」

 今は多重の障壁によって俺の頭の中に入ってくる情報量を制限してあるから、さっきのような文章になっているのだろうが、本来ならば正確な時刻からその時抱いていた感情、それに身体情報まですべて書かれているはずだ。集中すればそれだけの力が本の一冊一冊から漂ってくるのを感じとれる。


「ん?この本は?」

 俺は持っていた本を元の位置に戻して奥へと歩を進め始める。

 が、その前に一冊の気にかかる本が見えた。


 タイトルは『茲■イ×△』


 なぜか、この本は文字化けを起こしてしまっている。

 中身を軽く読んでみるが、中身も飛び飛びで文字化けばかりでとても読めた物ではない。

 ただ、一つだけ妙な文が少しだけ読めた。


 『霧人』久野イチコの≪主は我を道に力を行使す≫を介して行使された『蝕む黒の霧王』の≪魔性創生≫によって『霧人』へ転生する。が、発動時のタイムラグによって転生が間に合わずに死亡。

 死亡0.00001秒後に『■■■』■■■■=■■■■■■の手によって蘇生。同時に『■■■』■■■■=■■■■■■の端末となり、運命及び精神、魂魄へ特殊乱数が挿入される。それに伴って……くぁzxcvふぇrgtんhy


 続く文は読めないが、この文に当てはまる存在を俺は一人だけ思いつく。だが、同時にありえないとも考える。何故ならこの文が確かならば明らかに俺以外の何かがあの時干渉していたことになる。おまけにその何かは魔神以上の事をしている可能性がある。


「ただ、考えても結論の出ない事を今考える暇はない。か。」

 俺は本から顔を上げ、近づいてくるその気配に対して臨戦態勢を整える。


「よう。久しぶりだな。」

 奥から近づいてくるそれに俺は声をかける。


「ほう。この距離からもう私に気づいているのか。」

 奥から来たそれ…魔神が闇の中から浮かび上がってくる。


「今の俺たちに距離なんて関係ないだろうに、で、どうするよ?ここで始めるか?」

「いや、この先にわざわざ貴様の為に誂えてやった舞台がある。そこでやり合おうとしよう。」

 魔神が俺に背を向けて奥へと歩いていく。俺は素直にそれを…追わずに後頭部を蹴り飛ばし、その一撃で魔神の頭が千切れ飛ぶ。


「素直に聞くとでも?人形で来ているような奴の話を。」

 魔神の人形は何も無かったかのように平然と歩き続け、頭は近くの壁にぶつかってその動きを止めるが平然と口を開く。


「来るさ。貴様の目的は私だ。私の居るところに貴様は来るしかない。」

 そう言うと体は奥へと消えていき、頭は動くことを止めて土くれに還る。

 どうやら俺が選べる道は一つしかないらしい。


「まあいいさ。聞きたい事も多少増えたしな。全部問い詰めてやるよ。」

 そして俺は奥へと向かっていった。

次回からラスボス戦ですよ。


文字化け本は完全に理解しちゃうと確定でSAN値直葬されますのでスルー推奨です。


08/10 誤字訂正

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