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第149話

 目を覚ましたらいつも通りの真っ白な天井が見えた。

 背中から伝わる感触は散々使い古したベッドのものだった。

 右手には俺の手を握りながら床に膝をついて寝ているイチコが居る。


 えーと、どうしてこんな状況になってんだ?

 確か俺は『這い寄る混沌の蛸王』を『エシ』を使って倒したんだよな。

 で、その後≪主は我が為に理を超える≫の効果時間切れによって戻されて、そこで耐圧術式を維持しながら大魔術を二つ使った反動が来て……


 ああ、あれか。倒れたのか。で、アリア辺りに運ばれて、そこにイチコたちが帰ってきてこの状況か。

 うん。把握把握。じゃあ、起きるか。


「よっこいしょ。」

 俺はゆっくりと体を伸ばしながら上半身を起こす。


「ん……あっ、クロキリ……。」

 と、俺が動いた振動で目を覚ましたのかイチコも目を覚ます。


「おはようイチコ。」

「おはようクロキリ……って、それどころではありません。いくつか報告したいことがあります。」

「?」

 イチコの表情が急に真剣なものになる。この真剣さはまるでこれから戦場に赴くかのようだ。


「まず、クロキリが寝ていた日数ですが2日間になります。」

「あー、ずいぶんと寝てたんだな。さすがに無茶があったのか。」

 まあ、『超長距離転移陣』に始まり、アウタースキル1つ。≪主は我が為に理を超える≫による召喚。耐圧術式の展開。2つの大魔術と消耗の大きいものばかりだったからな。途中途中に補給も挟んでたけど、ステータス外のところで限界に達してたか。


「私たちのために随分と無茶をさせたみたいですみませんクロキリ。」

「いや、これぐらいで済んだなら問題なしだから別にいい。それよりももっとヤバい話があるんだろ?」

 イチコはさっき“まず”と言った。と言うことは俺が寝ていた2日間の間に何かがあったのだろう。


「はい。最初はクロキリが去った後の話になります。」

「あー、剥ぎ取りで揉めたか?」

 イチコは俺の言葉に首を横に振る。どうやら蛸王の素材に関しては蛸王の体が巨大だったおかげで問題なく分けられたらしい。

 だが続けてイチコの言った言葉に俺は目を丸くした。


「リョウお嬢様が魔王化しました。」

「んな!?マジでか…あー、でもレベル9になってから結構経ってたしな。当然と言えば当然か。それでリョウはどうしたんだ?」

「はい。」

 魔王化したリョウはその種族を『万命導く慈母』と改め、蛸王のダンジョン『深淵の宮』をイチコの長距離転移陣によって脱出した後にこう言い残して『白霧と黒沼の森』を去ったらしい。

 その言葉とは


『クロキリには良い面でも悪い面でも散々世話になりましたわ。ですから今更敵対するような真似をする気はありません。ですが、折角自由の身になれたのだから私は私の自由に生きさせてもらいますわ。』


 だそうだ。

 そしてその後、日本海側の今回の蛸王襲撃の件で常々ウィークポイントになり続けていた日本海側に新しいダンジョンを作成し、日本人魔会議にも魔王同士の会合場所にもきちんと配下を出してきたそうだ。

 敵対する気はない。今までと違って俺に対しても偽りの言葉を放てるようになっているから、その言葉を丸呑みにするわけにはいかないが、何だかんだで十年以上の付き合いだ。信用しても問題はないだろう。

 それに……今、魔王同士の会合場所にこっそりログインしたら見知らぬモンスターにこう言われたしな。


『イチコを泣かしたら、その時は全力で殺しに行かせてもらいますわ。』


 だそうだ。

 まあ、泣かせる気はないし、問題ない。鳴かせる気ならあるけどな。


「それで、他のメンバーは?」

「デボラさんは神官さんとの繋ぎ役ということで『白霧と黒沼の森』近くの街に滞在してもらっていますが、他のメンバーは各々の主の下に帰りました。イズミは…私が止める暇もなく旅に出てしまって今は消息不明です。」

 ふむ。なるほど。全員無事に帰ってこれたらしいな。イズミに関しては…放置で。何かあれば帰ってくるだろ。


「後は…蛸王襲撃の被害状況はどうなんだ?」

「かなり拙いです。」

 イチコは沈痛な面持ちでそう言う。


「どうやら、クロキリが蛸王を倒した後も既に上陸、もしくは近海まで来ていたモンスターたちは変わらずにこの国を襲い続けていたようで、沿岸部をはじめとしてほとんどの地域で多大な被害が出ています。」

 俺はイチコの言葉を受けて、今どれだけのモンスターと眷属に俺の意識を繋げるかを確かめてみる。すると、その数は俺が出発する前の半分にも満たなかった。どうやら殆どのモンスターと眷属は命のある限り闘い続け、この国と人間を守り続けていたようだ。


「今はもう大丈夫なんだよな。」

「はい。既に残党は狩り終わっています。」

「そうか……。」

 俺は瞑目し、静かに祈りを捧げる。


「なら、今俺がやるべきは復興の手伝いか。」

「そうですね。そうなります。治安の維持から物資と食料の提供までやるべきことは多々あります。」

 そこでイチコは俺に向かって右手を前に出してくる。


「後で、相手もしてあげますから頑張ってくださいね。クロキリ。」

「ああ、そうだな。頑張るとしよう。」

 そして俺はイチコの右手を握り返して立ち上がった。



■■■■■



Name:クロキリ(蝕む黒霧の王)

Class:魔王 Race:蝕む黒霧の王

Level:6

HP:2130/2130  

MP:2500/2500  

SP:2430/2430  


Status

筋力 40

器用 55

敏捷 58  

感知 45

知力 65   

精神 80 (スキル解析で↑5)  

幸運 10 


Skill

≪迷宮創生≫≪魔性創生≫≪蝕む黒の霧≫≪循環≫≪霧爆≫≪幻惑の霧≫≪尖水柱(シャープアクアピラー)≫≪気体分別≫


Title

≪蝕む黒霧の王≫≪白霧の奇襲者≫≪霧人達の主≫≪外を見た魔王≫≪鬼殺し≫≪魔王を討ちし者≫≪奇跡を騙るもの≫≪霧人達の王≫≪扇動者≫≪甘い毒の言葉使い≫≪霧の粛清者≫≪魔神と遭遇せし者≫≪日ノ本の統治者≫ etc.


-------------


Name:那須 リョウ 

Class:魔王 Race:万命導く慈母 

Level:6 

HP:2200/2200 

MP:2750/2750 

SP:2450/2450


Status

筋力 40 

器用 60 

敏捷 60 

感知 40 

知力 90 

精神 85 

幸運 10


Skill

≪全ての命を導く者≫≪迷宮創生≫≪魔性創生≫≪治療習熟Ⅰ≫≪解毒≫≪解痺≫≪解幻≫≪霧平手(ミストスラップ)


Title

≪万命導く慈母≫≪白霧の癒し手≫≪眷属を率いる者≫≪霧の傭兵団≫≪霧の傭兵団・団長≫≪食の探究者≫≪無償の慈悲≫≪勇者殺し≫≪魔神と遭遇せし者≫ etc.


--------------


Name:イチコ(定まらぬ剣の刃姫) 

Class:半魔王 Race:定まらぬ剣の刃姫・半霧人 

Level:11 

HP:1225/1225 

MP:1105/1105 

SP:1170/1170 


Status

筋力 30 

器用 45  

敏捷 60  

感知 56  

知力 21 

精神 34 (スキル解析で↑5)

幸運 10 


Skill

≪形無き王の剣・弱≫≪霧の衣・薄≫≪魔性創生・下位≫≪短剣習熟Ⅰ≫≪首切り≫≪キーンエッジ≫≪ロングエッジ≫≪主は我を道に力を行使す≫≪霧魔法付与(エンチャントミスト)≫≪主は我が為に理を超える≫≪デュラブルエッジ≫≪長剣の極意≫≪刀の極意≫



Title

≪黒霧の王の眷族≫≪白霧の暗殺者≫≪鬼殺し≫≪霧王の依り代≫≪霧王の寵姫≫≪定まらぬ剣の刃姫≫≪魔神と遭遇せし者≫≪首切り姫≫≪極圏到達者≫≪魔王と親交を結びし者≫≪魔王を討ちし者≫ etc.

第3章終了になります。


次章は随分と飛びましてついにあのお方です。


08/07 誤字訂正

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