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第146話

「全員集合!デボラさんは≪信仰障壁≫を!」

「分かりました。」

 蛸王の体から無数のモンスターが召喚されるのを確認したリョウはメンバーを全員一か所に集めた上でデボラに≪信仰障壁≫を張らせる。

 ≪信仰障壁≫はデボラの種族である神仕人の固有スキルであり、使用者の思いの強さに応じた対物・対魔の障壁を展開するスキルであり、デボラのような高位の神仕人が使えば大抵の攻撃は防ぐ事が出来るというもので、今も蛸王の体から放たれた魔性たちの攻撃を難なく受け止めている。

 そして、攻撃を防げたことを確認した上でリョウが次の指示を飛ばす。


「イチコとイズミは周囲の敵を薙ぎ払った後は蛸王へ攻撃。ムギ、ウネ、ハチの三人は協力攻撃を蛸王に向けて放ち、その後はムギとウネは協力体制を維持、ハチは回復のために力を温存してください。チリトは三人の攻撃で空いた隙間から蛸王のステータス確認。デボラさんにはそのまま障壁をお願いしますわ。ユウは私と一緒にイチコとイズミが離れた後に障壁周辺の敵への対応を頼みますわ。それと、チリトも確認が終わったら私の手伝いをお願いします。」

「「「了解。」」」

 リョウが一息に必要な指示を出し尽くすと、全員が一斉にその指示の通りに動きだしていく。

 真っ先に動いたのはイチコとイズミの二人で、二人は障壁の外に飛び出すと手近にいた半漁人を飛び出した勢いそのままに切り捨てる。

 続けてデボラが体勢を膝を折り曲げて両手を胸の前で組んで目を瞑るという自分にとって最も強く祈れる体勢を水中で器用にとり、≪信仰障壁≫の維持と強化に努める。

 その間にウネはムギとハチの肩に手を当てて≪知力強化≫を発動。それに合わせてまずはハチが≪木の槍≫を放ち、そこに重ねるようにしてムギが≪剛火槍≫を発動。火勢を大きく増した炎の槍が水中であることなど関係ないと言わんばかりの勢いで放たれ、進路上に存在する魔性を容赦なく焼き払い、敵集団に穴を開けて蛸王の姿がメンバーの目に届くようになる。

 だが、そうして開かれた穴も蛸王から無数に召喚される魔性たちによってすぐに埋め尽くされていってしまう。が、チリトにとっては一瞬穴が開き、蛸王の姿が見えただけでも良かった。その一瞬でチリトの目ならば蛸王のすべてを明らかにすることが出来るからである。


「分かりました!蛸王の固有スキルは≪混沌より深き者を産みし…≫ぐっ……あっ……」

「チリト!?」

 しかし、蛸王のステータスを見て、固有スキル≪混沌より深き者を産みし…≫の効果を告げようとしたチリトが突如としてうめき声を上げ始める。

 その様子にリョウが急いで近寄り、何があったのかを探る。


「あっ……頭が……」

「これは……≪解幻≫!」

 チリトが頭を抱え、ありもしない何かに蝕まれる様子を見て瞬時にリョウはチリトに幻惑系のスキルがかけられた事を悟り、≪解幻≫という幻惑を解除するためのスキルを行使。チリトを治療する。


「また、増えてきました……ね!」

「切りが無いよ!」

「ですが、切り続ける他ありません!」

 そしてリョウがチリトを治療している間にも状況は進み、デボラの張った≪信仰障壁≫の周囲には再び多種多様で大量の魔性が囲み、それらをイチコ、イズミ、ユウの三人が素早く切り捨てていく。

 だが、多勢に無勢、全ての敵を瞬時に始末できるわけでもなく、徐々にデボラの≪信仰障壁≫にダメージが蓄積していく。


「っつ……もう大丈夫です。急いで説明します。」

「お願いしますわ。」

 と、ここで治療が完了し、チリトが復帰。それと同時に蛸王のスキルについての説明を始める。


「蛸王の固有スキル≪混沌より深き者を産みし…≫は強力な召喚能力と精神干渉能力を有するスキルです。召喚能力については召喚するモンスターの種類を選択できない代わりに極々僅かな消耗で一度に10体ほどのモンスターを体から直接召喚することが出来ます。精神干渉能力に関しては僕のように相手のステータスを見たりするスキルや読心術の様に心を覗くようなスキルに対してカウンターで発動する能力で、精神を汚染して廃人化する効果を持っているみたいです。」

 固有スキルについての説明が終わってもチリトの説明はまだ続く。≪混沌より深き者を産みし…≫による精神汚染が始まる前に得られた情報はまだまだあるからだ。

 チリトの説明によれば蛸王のレベルは6であり、所有スキルは≪混沌より深き者を産みし…≫の他は≪魔性創生≫≪迷宮創生≫という魔王専用スキル2つに≪威圧≫と≪薙ぎ払い≫が見えたといい、ステータスは筋力と精神に特化されていると言う。


「それだけ分かれば十分ですわ。ではチリト。」

「はい。僕も出ます。」

 チリトの解析結果が全員に伝わったところでイチコとイズミは自分の周囲を大きく薙ぎ払って一時的な空白空間を作り出し、そこにリョウとチリトが出てくる。

 それと同時にムギたちの協力攻撃が障壁の中から再び放たれて、蛸王に至るまでの道を作り出し、その道が閉ざされる前にイチコが≪形無き王の剣・弱≫で接近。無数の剣を作り出すとともにそれらを≪魔性創生・下位≫によって魔性化して穴を埋めようとする魔性たちを切り刻ませていく。

 そして、穴が維持されている間にイズミはその両腕に≪生体武器生成・斧≫≪生体武器強化・血≫≪生体武器強化・肉≫によって生み出され、強化された斧を一本ずつ持ち、自らの愛騎であるモヤ助を召喚して跨り、穴が閉じようとした処に突撃して多くの敵を微塵にしていく。


「近くで見ると本当に大きいですね。」

「でもレベル6の魔王ならイズミと同じレベル。倒せないわけじゃない。」

 やがて、群がる数多の敵を切り捨ててイチコとイズミの二人が蛸王の眼前にまで接近する。

 二人の目の前にいる蛸王は感情が一切籠っていない目のようなものを開いている。

 そして、二人を危険な敵と認めたのか、はたまた目障りな小バエか何かだと判断したのかはその眼からは分からないが蛸王は口のようなものを開き、


「くぇrちゅいおplkjhgfdさ!!」

 奇怪な咆哮を上げるとともに襲いかかった。

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