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第143話

 話は『深淵の宮』に戻り、現在リョウたちは『深淵の宮』内部にある休息所で話し合いをしていた。


「さて、やはり敵の流れを見る限りではここが怪しいですわね。」

 リョウが調べた限りで分かっている『深淵の宮』の大まかな構造を描いた地図の中の一点を指さしてそう言う。

 そこは『深淵の宮』の中心部であり、周囲に存在している建物がいずれも神殿や宮殿を模して荘厳な雰囲気を醸し出しているのに対して、そこだけはまるで岩山が直接深海から生えてきたような形をしていた。


「まあ、どの敵も出元を探るとそこから出てきてるみたいだしねぇ。」

 ムギが私の考えに同意を示しながら、ペンで今までに見た敵の流れを地図に書き加えていきます。


「一応、長距離転移陣や地下通路を使って出元を誤魔化している可能性もありますけど?」

「だとしてモ、ここに手掛かりがあることに変わりはないネ。」

 チリトが念のためにといった様子で意見を出すが、ウネがそれでも問題ないと周囲に言ってくれます。


「となれば問題は周囲に上がっている黒煙と、定位置で警戒し続けているモンスターたちですね。」

 デボラさんが地図に黒い煙と感知したモンスターの位置を書き加えていきます。

 黒い煙は恐らく海底火山の噴煙を模したもので、仮に煙の組成が本物の噴煙と同じものならばかなり不味いものになります。

 モンスターについては同じ位置で警戒を続けていて、こちらが周囲で何をしてもその場から動かず、こちらが一定ラインを超えると攻撃を仕掛けてきます。


「ムギ。確認ですが、この膜は海水を弾いて気圧の調整を行うだけなのですわね。」

「そうだね。だから、もしも海水中に硫化水素などが含まれていれば、含まれている割合に従って膜の内側に入ってくることになる。」

 私の質問にムギは全員に聞かせるように答えてくれます。

 しかしそうなると、正面突破は厳しいですわね。件の場所の入り口は確認できる限りは一番上の部分で泳いで近づくしかありません。

 けれど、泳いで近づくなら私たちの遊泳能力ではいい的にされるのがオチで、直前まで下を歩いて最後だけ泳ぐようにしても海底火山の噴煙でそれが阻止される。


「やはり現状では別ルートを探すしかありませんわね……。」

 私は提示された情報を元にそう結論付けます。


「しかし、すでに突入から丸一日。地上の事を考えると急ぐ必要もあります。」

「いつまで地上の戦線が持つか分かりませんからね……」

 が、ユウとハチの二人はそう言って心配だと言う感情を露わにします。

 確かに二人の言う事も考えなければいけない事です。なぜなら今回の蛸王襲撃に際しては各魔王が自分の腹心とでも言うべき者たちを蛸王討伐の為に出しており、それに伴って総合的な戦闘能力が僅かですが落ちていると同時に、蛸王の勢力は過去最大の物になっているからです。


「ですが、あの守りを突破するとなると私たちの火力ではどうしようもありませんわ。どう考えてもイチコとイズミの攻撃力が必要です。」

 しかし、現状のメンバーでは広域殲滅能力を有するのはムギだけで、ムギだけではどう考えても蛸王の守りを突破するには火力が足りません。なので、今は居ない二人を待つしかないのですが……。


「問題はその二人の行方が分からない事だねぇ。」

 その二人の行方は私たちには分かりません。


「何にしてモ、今は身体を休ませる時ネ。丸一日動き続けて皆限界が近いヨ。」

 ウネの言葉に私たちは自分のステータスを確認しますが、確かにだいぶ消耗しています。


「では、交代しつつしばらくの休憩と致しましょう。休憩中にイチコたちが来れば正面突破。来なければ何か別の手を考えましょう。」

 私がそう宣言し、一応の警戒組と休息組に別れました。



■■■■■



「随分と厳重に守っていますね。」

「うん。あの守り方はちょっと過敏すぎるかな。」

 私は入口で合流したイズミと一緒に物陰に隠れて、噴煙を巻き上げている火山とその周囲に居るモンスターたちを見ています。


「イズミ。リョウお嬢様がどの辺りに居るか分かりますか?」

 私はリョウお嬢様の匂いを配下の狼を使って辿ることが出来るイズミにその行方を尋ねます。


「うーん。ちょっと待ってね。……、あっちかな?」

 イズミがモヤ助と呼んでいる狼を子犬サイズで産み出して周囲の匂いを嗅がせます。そしてしばらく匂いを嗅いだ後、イズミはとある一点を指差します。そこには小さ目の建物が建てられています。


「では、行きましょう。この先はリョウお嬢様と合流してからです。」

 そして、私とイズミはその建物に向かいました。



■■■■■



「遅いですわよ?」

「すみませんリョウお嬢様。襲い掛かってきた敵を残らず返り討ちにしていましたから多少時間がかかりました。」

 休息所で警戒していた私たちの前にイチコたちがゆっくりとやってきました。

 二人の身なりは敵の猛攻を返り討ちにしてきたためなのか多少乱れていますが、その表情には疲れなどは一切見えません。流石は半魔王と魔王と言ったところでしょうか。

 いずれにしてもこの二人が来たならば打てる手はいくらでもあります。


「では行きましょうか。」

「何処にですか?」

 私が立ち上がると同時に他の人たちも立ち上がり、行動の準備を整えます。

 その動きは先程までしていた休憩のおかげで万全の状態に戻っています。


「決まっていますわ。」

 そして、私は全員に宣言します。



「蛸狩りですわ。」

だいぶ深淵の宮の深部の方まで来ました。


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