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第137話

「ここはこうなって、っと。そっちはどうだ?」

「こちらはあと少しです。」

 他の三魔王との話し合いを終えた俺は、要望通りに『超長距離転移陣』の準備を行っていた。

 目標座標は『魔聖地』の南に2km程行ったところだが、当然俺はそこに行ったことがないので、行ったことのあるイチコに協力してもらう。


 さて、『超長距離転移陣』の設置してある部屋なのだが、場所としては『白霧と黒沼の森』の第1階層横に第6階層分類として設置されている。

 部屋の構造としては直径100m程の球体の中に中心点を通る水平な幅5mほどの足場を通し、その周囲を様々な幾何学的に組まれて、周囲の環境や目標座標に合わせて動き続けている立体構造物が取り囲んでいる。

 なぜこんな物があるかと言うと、全ては『超長距離転移陣』の補助をするためで、周囲で動いている各種物体には力のある字を刻み込んであるし、物体の色や動き方、厚み、それに物体が動く際の音にだって意味を持たせてある。

 はっきり言ってこの部屋にある物で、意味のない物はないし、ダンジョン構造物は壊れないという特性があるおかげで成り立っている構造物でもある。

 この部屋に敢えて名を付けるなら…『超長距離転移陣専用立体構造型多因子自動調整式補助魔法陣』と言ったところか。


 うん。どう見てもRPGのラスダンの最深部的または物語上重要そうな場所だよな。ここ。実際かなり重要施設なんだけど。


「座標指定完了しました。」

 座標指定用の席で調節を行っていたイチコから指定完了の声がかかる。


「分かった。こっちも準備は完了しているから、今からチリトたちに連絡をとる。イチコはそのまま待機していてくれ。」

「了解です。」

 俺は消費MPの穴埋めをさせるための緑色の宝石…魔源装置-MPを規定位置にセットする作業を終えて、『超長距離転移陣』を発動させるための術者席に移動し、眷属通信でチリトに連絡を取る。



■■■■■



 同時刻、『魔聖地』の南2km地点


「『超長距離転移陣』ですか……、霧王はすごい物を作られたのですね。」

「ええ、ただ実際にこれほどの距離を飛ばすのは初めてだそうですが。」

 僕たちはロボの素材で必要数の装備品を作り上げ、『超長距離転移陣』を使用するということで一ヶ所に集まっていた。

 ロボの鹵獲?いや、それは無理があったから断念したよ。

 それと、無用の軋轢を防ぐためにデボラさんを通して、神官さんにも話せるレベルで事情は話してある。


「イズミは来ると思うかい?」

「最近は群狼主なんて呼ばれているみたいだシ、分からないヨ。」

 ただ、この場に『生死運ぶ群狼の命主』こと茲炉イズミちゃんは来ていない。風の噂ではこちらに向かっていると言う話は時折伺ったけど。


「何にしても私たちの任務もこれで完了。」

「5年ぶりに家に帰れますねー」

 まあ僕、ムギさん、ウネさん以外のメンバーにとっては大して重要な話でもないよね。僕としても久しぶりにミバコと子供たちに会えるのが楽しみでしょうがないし。

 ミバコは元気かなー。センク、ソウジ、ハタキ(第3子・霧人の女の子)も大きくなってるかなー、いやー、本当に楽しみだ。


『おい、チリト。そっちの準備はいいか?』

 と、クロキリさんから通信が入ってきた。


「はい大丈夫です。イズミ以外は全員…」

「ん?何だい、あの土煙は?」

 ムギさんの声に僕は通信をつなげたまま言われた方に向く。

 そこには大きな土煙を上げながら疾走する何かが居て、その何かはこちらに向かってきている。


「近づいてきているネ。」

 僕も含めて全員が何があってもいいように身構える。

 そして、土煙を上げていた何かを僕たちは確認し、全員で唖然とした。


 土煙を上げていたのは体高5mはあろうかという巨大な狼。その毛並みは美しい紅色に染まっており、その牙と爪は鋭利極まりない。


「久しぶりだね。ムギ姉ちゃんにウネ姉ちゃん。」

 狼の背中から声が聞こえてくると同時に狼の背丈は縮まり、やがて小さなアクセサリのようなものになって、一人の少女の首元に吊り下げられる。

 その少女は右手にまるで生きているかのように脈動する斧を持ち、全身に狼の毛皮と金属製の鎖を巻きつけていた。

 そして僕のスキルが彼女の名と力を僕に教えてくれる。


 彼女の名は『生死運ぶ群狼の命主』茲炉イズミ。元霧人にして現状唯一独力にて魔王となった少女であり、不死身の再生能力と数多の狼を生み出して操る力を持ったレベル6の魔王だ。


「久しぶり。チリト兄ちゃん。今クロキリ兄ちゃんと繋がってる?」

 イズミが僕に近寄ってきてそう言う。


「あ、ああ繋がってる。というか今から『超長距離転移陣』を開いてもらって僕たちは帰還する予定。」

「そうなんだ。ならクロキリ兄ちゃんにイズミも便乗させてもらっていいか聞いてくれる?」

「あ、うん。どうでしょうかクロキリさん。」

 思わずいつもの外での呼び方霧王(・・)ではなく身内として呼ぶ時のクロキリさん呼びしてしまったが、それだけ僕も緊張していたんだと思う。


『別にイズミ一人増えるぐらいなら問題ないから、一緒に帰ってきてくれ。』

「分かりました。問題ないって。」

「ありがとうチリト兄ちゃん。」

 イズミは笑いながら礼を言って僕から離れて、ムギさんたちのところに行く。

 それにしても、イズミの雰囲気は以前とだいぶ違っていた気がする。以前はどちらかと言えば自分の考えは全て内に留めていたような感じだったけど。今はだいぶ明るくなって、王者の風格とでも言うべきものが付いている気がする。


『じゃあ開くぞ。門の展開時間は10分間だから気をつけろよ。』

「あ、はい。今から開くそうです!」

 と、クロキリさんから開門することが伝えられ、僕たちは急いで一ヶ所に集まる。

 そして、1分ほど経った後、僕たちの目の前に高さ5mほどの真っ黒な門が出現し、それが開いた先に僕たち7人は飛び込んで僕たちの国へと帰還したのだった。

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