第136話
「狐姫居るかー?」
俺はいつものようにフォッグの体を操って問いかける。
「何の用じゃ。霧王?」
そして狐姫もいつものように小火狐の体を操ってそう返してくる。
ただ、俺も狐姫もいつもと違ってその眼に強い光を灯している。
「フォフォフォ。お主らも来ておったのか。」
「こんにちはー。」
と、雪翁と竜君もそれぞれいつも通りの体でログインしてきたようだ。
「さてと、今日は俺からはいい知らせがあるぞ。」
「妾からもいい知らせがあるのう。」
「儂からの知らせはどちらかと言えば悪い方じゃな。」
「えーと、アタシはいつも通りの定期報告です。」
「じゃ、魔王同士の直接会議を始めるとしようか。」
「「「同意。」」」
そして、魔王同士の直接会議が始まった。
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「まず、俺からの報告。『超長距離転移陣』が一応完成した。といっても改善点はまだまだ多いがな。」
「ほう。5年目でやっと出来上がったのか。」
「具体的な性能などはどうなんじゃ?」
「おめでとう。」
俺の報告に狐姫は嫌味、雪翁は更なる情報の開示を求め、竜君はお祝いの言葉を言ってくる。が、全員目ではよくやったと言っているな。
「とりあえず転移可能な範囲については西は『魔聖地』近く。東はアメリカの東海岸までは繋げられる…というか、座標指定が協力者の記憶に由来しているからな。消費を気にしなければ大抵の場所には問題なく繋げられる。」
「ふむ。と言うことは蛸王のダンジョンにも…」
「ああ、蛸王のモンスターを一匹生け捕りにしてあるから、そいつの記憶を使えばダンジョン前までは飛べる。」
「前ということは、ダンジョン内には飛べないのかの?」
「詳しい理論とかは省くけど、術者が所属するダンジョン以外で、ダンジョンの境界を越えて飛ばすのは無理だな。まだそこの改善は無理。というかしない方がいいだろ。」
「それは…そうかも。」
竜君の頷きに他の二人も同意の表情を見せる。
まあ、実際問題ダンジョン内に直接飛べるようになると問題しか起きないからな。ここは今後改善するなら誰にもバレないようにひっそりとやるべき改善点だ。
「となると問題は消費かの?」
「だな。ゲート形式をとっているから人数制限はないし、その日の俺の体調や各種要因にもよるが、蛸王のダンジョンに人間大の何かを飛ばすなら1週間に一度、10分ぐらいがいいところだと思う。」
「10分…そうなると少数精鋭じゃな。」
「そうなるとメインは霧王のところの方々になりそうです。」
まあ、確かに少数精鋭だとメインは俺のところのメンバーになりそうだよな。半魔王にレベル9眷属、運が良ければここに魔王も加わるわけだし、
「ただまあ、あくまでも俺は飛ばせるだけで、捕虜の記憶が正しければ蛸王のダンジョンは深海4000mにあり、特殊な装備か術式がなければ突入はできない。そのあたりはどうなんだ?狐姫。」
俺は狐姫に話を振る。すると狐姫は待ってましたと言わんばかりに身を反らし、
「もちろん耐圧術式は開発済みじゃし、素材の検討・回収から生産まで済んでおる。後は持ち帰って来るだけじゃ。尤もこのあたりの話はすでにムギに同行させた自分たちの眷属から伺っておるじゃろうがな。」
と、自信満々に言い放つ。
ちなみに指摘通り俺はチリトからその情報を既に受け取っている。その情報によれば巨大ロボの動力炉と導線を利用した腕輪型の道具で、身に着けていれば下は地下5000m、上は高度20000mまでは活動範囲にできるそうだ。
なお、効果時間は最初の起動からおおよそ2週間ほど持続し、効果切れとともに壊れてしまうそうだ。まあ、今回の蛸王討伐には十分な代物と言えるだろう。
「なら、試運転も兼ねて『超長距離転移陣』を使って呼び戻すべきじゃろうなぁ。今は時間が惜しい。」
「あー、もしかして雪翁の報告って…」
と、雪翁が『超長距離転移陣』の使用を提案し、その提案が行われた理由に関して竜君が勘付く。というか、俺と狐姫も勘付いた。
「うむ。北の極皇の動きが騒がしくなってきていてな、何故かと思ったらどうやら三度目の蛸王の襲来が近そうなのじゃ。」
「規模の方はどうなんだ?」
「おそらくは過去二回を遥かに上回るじゃろうな。」
俺の質問に対して返ってきた言葉にその場にいる全員が唖然とする。
「俄かには信じられぬ話じゃな。過去2回の襲来もそれ相応の戦力が投下されておったはずじゃろうに…」
「でも相手は海の中。それならスペースの問題はないですし、他の敵対者に襲われる可能性は低いですからありえなくは…」
「いや、それだけだと説明がつかないな。いくら効率よく召喚するにしても限度があるはずだ。」
「その通りじゃな。じゃから、儂はこの急激な戦力増加を可能にしているのは蛸王の固有スキルではないかと思っておる。まあ、霧王のように妙な力を身につけているなら話はまた別じゃがな。」
固有スキルか…確かにその可能性は高い。というか、それしかないだろうな。でないと、この異常な召喚スピードの説明がつかない。
それにアウタースキルはともかく魔術に関しては俺以外に使える奴が出てくるとは早々には考えづらいし。
「まあ、状況は把握した。そういう事なら今から各自の眷属に連絡をしておいてくれ。早急に『超長距離転移陣』を設置してチリトたちを呼び戻そう。」
「分かった。連絡を入れておこう。」
「異議なしじゃ。」
「了解です。」
俺の言葉に全員がうなずく。
「ところで、竜君よ。お主の定期報告はいつも通りと言ったが本当にいつも通りなのかえ?」
「あー、そう言えば一つ妙な報告が上がっていましたね。」
と、解散しようとしたところで、狐姫が竜君に話を振る。
「なんか、『白霧と黒沼の森』近くの街に駐留している眷属から報告があったんですけど、霧王のところの半魔王イチコに霧人リョウの二人と全身黒ずくめの男性がデートらしきものをしていたと言う報告が…」
見られていただと!?
まずい。俺が外に出れることはできれば隠しておきたい。ということで、
「よ、よし、解散。俺は『超長距離転移陣』の準備をしてくるわ。」
「そうじゃのー」
「そうじゃなー」
「?」
逃げる!
てかニヤニヤしてんじゃねえよ!このビッチ狐にメタリック爺がぁ!あれか!?今は緊急事態+微笑ましいから黙っておくけど、後でどうやって外に出たか教えろってか!教えてもできるとは限らねえぞ!これは魔術だからな!つかそんなに外に出たいなら封技の鉄枷Ⅱでも送りつけやらぁ!
そして、俺はフォッグの体から意識を元の体に戻したのであった。
ついに反撃開始でございます。