第135話
「で、言い訳は何かありますか?」
「ナンノコトカナー?」
『白霧と黒沼の森』に帰ってきた俺は、入り口で待っていたイチコの問いかけに顔を横に逸らし、目も可能な限りイチコから離していた。
「何、目を逸らしていますの?」
と、ここで後ろからリョウがやってきて俺の肩を拘束する。
「リョウお嬢様。そのままクロキリを拘束しておいてくださいね。」
「大丈夫ですわよイチコ。≪大治癒≫を発動させながら拘束しておきますから。」
リョウの手から≪大治癒≫の光を放たれ、俺の体に力が流れ込んでくる。そしてイチコの右手には≪霧魔法付与≫の効果で霧が集まる。
さて、そんな二人が浮かべているのはとってもいい笑顔である。
うん。これは不味い。素直に話そう。
「わ、分かった。話すから落ち着け……。」
そうして、外であった事を俺は一通り吐くことになった。
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「つまり、一時的にとは言え外に出れるようになる魔術を開発して、」
「試しにと言って外へと出たかと思えば、」
「少年を保護して災厄獣と戦闘し、」
「災厄獣を倒した後にその少年に剣を渡して帰ってきた。と、」
「呆れてものが言えませんね。」
「全くですわ。」
俺の説明を一通り受けてイチコとリョウが漏らした感想がそれである。
「で、具体的には外に出れる魔術とはどういう物ですの?」
リョウが俺に質問をしてくる。
「魔術名は『霧散する枷』。効果としては力を消費することによって一時的に魔王と言う職業にかかっている制限の一つ、自分のダンジョンの外には出られないと言う制限を解除する魔術だな。応用次第では他の制限も外せるかもしれない。」
「燃費はどうですの?」
「悪くはないな。ただ、戦闘するなら色々と気にすることがあるが。」
実際悪い訳じゃない。数時間は問題なく出れるし。戦闘もそれなりに行える。ただ、常に頭の中で『霧散する枷』分のキャパシティを割かないといけなくて、その分戦闘能力が低くなるだけだ。
まあそれ以上に『王は民の為に動く』と違って何回使っても消耗が多くならないのが嬉しいけどな。
「それで、災厄獣と戦った感じはどうでしたか?」
「1対1なら能力次第だがどうにかなるな。ついでに『法析の瞳』で≪災厄獣の呪い≫についても調べることが出来た。」
「それは良い事ですね。」
実を言わせてもらうなら、ホウキの遺骨に残っていた≪災厄獣の呪い≫の残滓から逆算したスキルの構文と今回解析した≪災厄獣の呪い≫のスキル構文には明らかな差が有った。
これについては俺の逆算が間違っていた可能性もあるが、そもそも≪災厄獣の呪い≫が一定のスキルでない可能性もあるという事だ。
というか、その可能性の方が高いと思う。ホウキの時と今回の時でステータス的にもスキル的にも差が有り過ぎるしな。
「で、私の作った剣はどうでしたか?」
「あああれな。すげぇ切れ味と耐久度だったわ。流石は俺の魔術とイチコの≪形無き王の剣・弱≫を組み合わせただけあったわ。」
いやー、本当にすごかった。多少の強化を施しておけば災厄獣の硬い外皮ごと一刀両断出来たからな。
「それが分かっておきながら貴方は少年に渡したわけですね。」
あ、地雷踏んだ。
イチコがすごくいい顔で左手の具合を確認してる。しかも幻覚なんだろうけどイチコの背中に仁王様みたいなものが見える気がする。
「歯、食いしばってくださいね。」
「はい。」
とりあえず、俺は素直に左ストレートを顎に食らって気絶しておいた。
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「で、実際にどれほどの物でしたの?その剣は、」
リョウお嬢様が気絶しているクロキリを尻目に私に聞いてきます。
「基本はクロキリが魔術で作った魔法金属を私の≪形無き王の剣・弱≫で加工したものです。」
そう。簡単に言えばそれだけの話。
ただ、クロキリの作った魔法金属の名は『黒霧鋼』と言って、見た目は真っ黒な金属ですが、いくつか特殊な性質を持っています。
一つ目はその重量。まるで空気のように軽いのです。
二つ目はその強度。鋼と名は付いていますが、その強度は鋼を遥かに上回るものです。
三つ目は吸収能力。この魔法金属は触れた者からHP等を吸い取る事によって、その強度をさらに高めることができ、特殊な機器を用いれば吸収したHP等を所有者に還元することもできます。
で、私の≪形無き王の剣・弱≫を使って『黒霧鋼』を剣の形に加工。そのままでは持ち手から所有者の力を吸い取ってしまうので、他の金属を使って持ち手を覆い、その上でその覆っている金属に特殊な加工をして吸収した力を所有者に還元できるようにしたものが今回作った剣になります。
「ところでその剣に名前などはありますの?」
「いえ、私は特に決めていませんでした。どうせ試作品だと思っていましたし、決めるならクロキリが決めると思っていましたから。」
リョウお嬢様の質問に私はそう答えます。
と、ここでクロキリが起きてきました。
「名前か?それなら一応決めてあるし、剣の腹にこっそりと刻んであるぞ。」
「どういう名前ですの?」
「『黒切丸』」
「不吉な名前ですわね。」
「どう考えても最終的にクロキリが切られそうです。」
クロキリは私たちの言葉にそれはそれで美味しいと言った表情を浮かべながら笑っています。
まったくクロキリはこれだから…
『黒切丸』は分類上だと魔剣に属します。