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第130話

「≪生命感知≫≪動体感知≫……単独行動の個体を確認できました。あちらに500m程行ったところに居ます。」

 デボラさんがウネさんの≪感知強化≫の補助を受けた上でスキルを使用して単独行動しているロボの動きを察知する。


「はい。急拵えだけど通信装置だよ。」

「感謝する。」

 ムギさんがユキコさんに札の形をした使い捨ての通信具を渡す。

 僕としてはよくありあわせの材料でこんなものを作れるなとムギさんの技術力に感心するが、考えてみれば今の狐姫が持つ技術の殆どはムギさんが大陸から持ち帰ったものなのだと思いだして、それならば当然かとも思う。


「危ないと判断したらすぐに退いてくださいね…」

「分かってるよ。無茶をしても意味ないしね。」

 ハチさんが心配そうな顔をしながら僕に注意を促す。


「じゃあ頼んだネ。」

「ああ、頑張らせてもらう。」

「行ってきます。」

 そして僕とユキコさんはロボへと向かっていった。



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 僕とユキコさんの前に巨大なロボが単独で動いている。

 巨大なロボの装備は腰に巨大な剣を着け、背中に2本の砲筒を背負っており、装甲の色は茶色と赤、恐らくはこの辺りの地形に合わせたカムフラージュなんだと思う。

 通信機器のアンテナの位置とカメラは…モノアイで確認完了。

 名前は……HFO-1S2c?どういう意味か分からないし、ロボ呼びしておこう。


「弱点分かるか?」

「弱点と言うよりステータス的に穴になっている場所を見ているだけですけどね。とりあえず動力炉は掴みました。」

 動力炉の位置は人間でいう所の腰の少し上、臍の辺り?にある。


「じゃあ作戦通りに。」

「ええ。」

 僕たちの作戦。

 まず一体目は全力で狩る。それが出来ないなら今後素材を集めることもままならないからだ。

 具体的な狩りの手順としては


1、デボラさんが≪感知強化≫込みで≪生体感知≫≪動体感知≫を使って単独の敵を探す。

2、僕とユキコさんが敵に気付かれない様に接近。

3、僕が弱点等を解析し、それを通信装置でムギさんたちに伝える。

4、各種ブーストをかけた上でブッパする。


 ただ、この方法だと良い素材が剥ぎ取れるのかが怪しくて、良い素材になる可能性が高い動力炉などが残せるかは怪しい。まあしょうがないけど。

 で、今は3の途中。


「通信装置起動。カメラは頭、アンテナは側頭部。動力炉は臍。」

『了解。カウント3、2、1……スタート!。』

 必要な事を伝えるとムギさん手製の通信装置が砕け散る。


「ではユキコさん。」

「ああ!」

 そして僕とユキコさんが駆け出す。

 と、同時にロボが僕たちの気配を感知したのかこっちを向こうとするが、僕らを見つける前にウネさんの≪糖縛蜜≫がロボの頭を覆い、通信と視覚を封じる。


「!」

 ロボは視覚を覆われたことによって攻撃されていると判断し、腰の剣を抜き、背中の砲筒を構えようとする。


「させるか!≪氷魔法付与≫!」

「ハッ!」

 が、ロボが構え切る前にユキコさんが周辺の地形とロボ自身の体を利用して頭まで駆け上がり、前日に自分自身の≪武器作成≫を使って作成した剣に≪氷魔法付与≫で氷の力を込めた上でロボの側頭部を勢いよく叩いて通信機器を凍らせる。

 そしてその一撃でロボの姿勢が若干傾むき、そこに僕が短剣で凍った部分を殴りつけて完全に通信機器を破壊する。


 だが、僕らがやるべきことはまだある。

 遠くで力の高まりを感じつつも、僕らは急いで行動を開始する。


「ユキコさん!」

「分かってる!」

 ユキコさんが懐から黒い木片…『黒爆材』の劣化版を取り出す。

 これも前日にありあわせの材料でムギさんが作ったものであり、劣化版と言ってもその効果は高く、またオリジナルと違って多少の粘着性があるので対象に貼り付けることも出来る。


「!!」

「くっ!≪氷障壁≫!チリト!」

「はい!」

 ユキコさんの動きに嫌なものを感じたのかカメラにかかった≪糖縛蜜≫を多少拭ったロボが腰の剣をユキコさんに向かって振り下ろし、ユキコさんはそれを≪氷障壁≫と≪障壁強化Ⅰ≫で受け止める。

 だが、これでは『黒爆材』を張り付けられないと判断したのかユキコさんは僕に『黒爆材』を投げ渡し、僕はそれを受け取り、ロボが反応をしようとする前に臍の辺りに張り付ける。

 そして、僕が張り付けた所で僕らが来た方から巨大な炎の槍、恐らくはムギさんの≪剛火槍≫に≪火魔法習熟Ⅰ≫≪火魔法習熟Ⅱ≫の強化。それに加えてウネさんの≪知力強化≫。そして燃料代わりの≪木の槍≫を組み合わせたものが飛んでくる。


「全力退避!!」

「言われなくても!」

 僕とユキコさんはそれを見て一目散に逃げ出し始める。ただ、ロボが逃げられない様に逃げる前に僕はロボの膝裏を切りつけ、ユキコさんは手首と地面を氷でくっつけて身動きを取れないようにする。


 そして僕らが近くの岩陰に隠れ、ユキコさんが≪氷障壁≫を周囲に張り巡らせた瞬間。


 凄まじい爆音と熱風が辺り一帯を包み込み、ロボの叫び声が辺りに響く。その威力にユキコさんの≪氷障壁≫はその熱と衝撃波によって徐々に破られていく。

 やがて≪氷障壁≫が融け切ると同時に攻撃の余波も弱まる。

 そして後には……


 腰のあたりから真っ二つにされ、装甲の一部が融解したロボが居た。


「これは……」

「オーバーキルですね。」

 どう見てもオーバーキルだった。動力炉と武器は完全に破壊され、装甲も大多数が破損している。

 そう何度も使える手ではないけど、この結果はやり過ぎだ。


「とりあえず、今の爆発で敵が寄ってくる前に剥ぎとりましょうか。」

「ああ、そうしよう。」

 そして僕らはロボから使えそうな素材…装甲板、カメラ、導線…その他諸々を手早く剥ぎ取ると他のロボが集まってくる前にその場を後にした。

鹵獲なんてする余裕ありませんw

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