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第123話

「全く持ってクロキリには困ったものですわね。」

「本当にそうですね。リョウお嬢様。」

 リョウお嬢様と一緒にクロキリを折檻したところで私たちは第一階層と第二階層の境界である広場に来ています。


「まさか私たちの目の前で新しい眷属を性的な目的で得ようとするとは思いませんでしたわ。」

「ええそうですね。私と言う者がありながら他の女性に手を出そうとするだなんて、例えクロキリがモモキリと呼びたくなるぐらいの好色だと分かっていても許容できるものではありませんし、先程してきましたがこの侵入者の処理が終わった後にもう一度制裁されてしかるべきです。それに普通の霧人として眷属化するように言いましたが放置しておけば結局手を出しそうですし。というか、他の女を求めるくらいなら毎日私を……」

 私はリョウお嬢様の言葉に多少頭に血を登らせて答えます。

 おや、リョウお嬢様が微妙な顔をしながら頭に指を当てています。どうしたんでしょうか?


「イチコ……今の言葉はどう聞いてもただの惚気ですわよ……」

 へ?惚気?どうしてですか?

 別に私はただ自分の本音を言っただけなのですが?


「というか、自分の恋人に手を出す他の女への嫉妬と、自分と言う者が有りながら他の女に対して手を出す男への怒りですわね……。」

 あ……あー、どうしましょうか?顔から火が出そうなぐらい恥ずかしいです。

 思わず口走った事だけに誤魔化しも効きませんし、本当にどうしましょうか。というか、まさかとは思いますが今の台詞をクロキリに聞かれたりしていませんよね!?

 もし聞かれていたら……聞かれていたら、ああああああぁぁぁぁぁ!!


「こ、こうなれば……」

「こうなればどうしたというのですか?」

 こうなればこのどこに向ければいいのか分からない気持ちを……


「これから来る敵で憂さ晴らしします!」


「とりあえずこれから来る敵はご愁傷様ですわね。」

 そしてそう宣言した所で何処かに向かって何故かリョウお嬢様は手を合わせていました。



■■■■■



「ハァハァ……ここは?」

 彼らは傷つき、犠牲者を出しながらも『白霧と黒沼の森』の第二階層を突破していた。

 そして彼らは辿り着く。


 そこは黒色の沼が滝のように周囲へ流れ落ちており、底では落ちた者の命も思いも呑み込みそうな滝壺が形成されている。そして周囲を滝に囲まれたそこは円形の闘技場の様なものが作られており、その上には二人の少女が立っていた。


「お前たちは……?」

 格闘家の男が二人の少女に話しかける。


「一応眷属。『定まらぬ剣の刃姫』」「眷属。『霧の招き手』」

 二人の少女の名乗りに男たちは敵なのだと理解し、傷ついた体にムチ打って武器を構え直す。


「お嬢様。」

「分かっていますわ。私は手を出しませんから好きにしなさい。」

「ありがとうございます。」

 『定まらぬ剣の刃姫』と名乗った方がもう片方の少女を後ろに控えさせて一人前に出てくる。


「一人で出てくるとは俺たちも舐められたものだな。」

「ああそうだな。貴様のような子供がいくら傷を負っているとはいえ私たちに勝てるとは思えない。」

「……。」

 それに対して男たちは少女の外見から大した力を持っていないと考え、笑みを浮かべるが、すぐに油断は禁物と陣形を整える。

 そして男たちが少女に襲い掛かろうとした瞬間。


「舐めているのはそちらですよ。≪首切り≫」

 一瞬にして少女の姿は男たちの視界から掻き消え、次の瞬間には一番後方に居た男の首が刎ね飛ばされ、刎ね飛ばした張本人である少女の手には一目見て業物と分かる刀が握られていた。

 その光景に至った経緯は首を刎ねられた男は勿論、他の男たちも何が起きたのか分からなかった。どうやって少女が自分たちの後ろに移動したのかも、いつの間にその刀を取り出したのかもだ。


「な……」

「くそがあああぁぁぁ!」

 重戦士の男は自分たちと少女の間に有る実力差を理解したために呆然とし、格闘家の男は仲間の仇を取るためにと躊躇わずに少女に襲い掛かる。


「≪魔性創生・下位≫飛刀。突撃。」

「……!?」

 しかし格闘家が殴りかかった瞬間に少女は決して人には出せない脚力を見せつける跳躍をし、空中でどこからともなく五本の短剣を取り出し……否、生み出し、その五本の短剣はまるで意志を持っているかのように空中で何回もその進路を折り曲げながら飛んでいき、重戦士の纏う鎧の隙間に突き刺さり、重戦士は関節部から血を流しつつ地面に倒れる。


「このまま……やられてたまるかぁ!!」

 それを受けて格闘家が自らの人生で一番だと思える跳躍を見せ、未だ空中にいて身動きが取れないであろう少女に殴り掛かる。

 だが、


「怒りで我を見失った時点で終わりですね。」

 少女の姿は再び突然消え、気が付けば地上に少女は移動していた。


「まさか……転移系スキル……」

 その自然法則上ありえない動きに格闘家は少女のスキルの正体の一端を理解した。

 けれどももう遅かった。男は既に空中に居る。そして少女と違い格闘家にはここから逃げるのに使えるようなスキルは持って無い。

 つまり、


「≪形無き王の剣・弱≫貫船刺剣。」

「ぐあああぁぁぁ!!」

 今、格闘家の真下に形成された巨大な杭のような刺突剣から逃れる手段も無かった。



■■■■■



「やっぱり普通の人間じゃ相手にもならないよな……」

 俺は捕獲した女重戦士の眷属化を完了させると自室で滝の中に潜ませておいた沼飛魚の視界を映したモニターを見ながらイチコの戦う様子を戦う前(・・・)から見ていた。

 当然ながら戦いはイチコの圧勝だったが。

 まあ、今のイチコを打倒しようと言うなら最低でも転移する隙も与えないような高速攻撃か、瞬時に転移範囲を埋め尽くせるような範囲攻撃が必要で、そんな攻撃方法を持っている奴が早々いるとは思えないしな。


「とりあえず、帰ってきたら今日一日は構い続けておかないとな……あんなこと言ってたし。」

 思い出すのは戦闘前に言っていたイチコの言葉。

 いやまあ、あんなことを言われたら男としては……ね。


「さて、まずは出迎えてやるか。」

まあ、今のイチコと並の人間ではこうなりますよね。


07/12 誤字修正

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