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第121話

「潜水術式の開発はどうだ~狐姫。」

 俺は集会場のフォッグに意識を繋げて、狐姫の憑代である小火狐に話しかける。なお、ログイン済みなのは確認してあるので中に居ないのに居ると思って話しかけるような痛い事にはならない。


「そう言う霧王は超長距離転移陣の開発を進めておるのか~」

 狐姫が欠伸のようなものをしながら質問に質問を返す。


「……。ハァ……。」

「……。ハァ……。」

 で、しばし見つめ合った後、互いにため息を吐く。

 どうやら開発開始から一年。互いに煮詰まり始めているらしい。


「とりあえず進捗状況と言う名の愚痴にいっていいか?」

「良いぞ~」

 一応断りを入れてから俺は愚痴り始める。


「まず転移関係の術式で有り得ないのがその複雑さだな。まるで教本も無しに昔この国で作ってたような精密機器を分解している気分だ。

 考えてみれば当然なんだが、転移術式っていうのは現在地点に関する情報だけじゃなくて転移先の把握、選定も必要なんだよ。

 で、魔神形式の場合その座標指定の形が暗号化されている上に重力などの空間に影響を与える諸々の要素が転移の結果に出ない様に何重ものプロテクトが掛けられてあるんだわ。

 今、問題になっているのがその座標指定とプロテクトでなぁ……こいつをそのまま流用すると距離に比例して消費する力の量がありえないスピードで増加していくんだわ。」

「具体的にはどれくらいじゃ?」

「指数関数以上。」

「ああそれは無理じゃな。」

「だろ。」

 俺の答えに納得と言った顔を狐姫はする。


 ちなみに座標指定とプロテクト以外の解析はここ一年で何とか終わらせて再構築したので、燃費を気にしなければ100人ぐらいを『白霧と黒沼の森』からアメリカ大陸の西海岸まで一瞬で移動することも出来る。

 肝心の燃費がどうしようもないんだけどな!


「で、そっちは?」

「そうじゃのう……実を言えばこちらは術式構成そのものは終わっておるんじゃ。術式構成としては結界系スキルと少々特殊なスキルを応用する事で何とかなったからの。」

 狐姫が溜息交じりにそう言う。


「じゃがその先が問題でな。向かう場所が場所である以上、所有者から力の供給が途絶える=効果終了では戦いに集中することも出来んし、少々傷ついた程度で術式が破綻するなど論外じゃ。

 詰まる所、今問題になっているのは術式を刻みこむ素材とその素材をどのように組み合わせて効果時間も含めた実用品レベルにするかと言うものなんじゃよ。

 で、この素材に求められているレベルが問題でな。当初はただ硬くて強度のある物体を用意すればいいと思い、金剛石や玉鋼、それから前にお主から対価として貰ったクエレブレの鱗を鍛えて使ってみたりもしたんじゃが、これらの物質では術式の複雑さに耐え切れずに刻み込んでおる内に壊れてしまうんじゃ。

 かと言って潜水術式を問題なく刻み込めるような素材では今度は本体の強度が足りずに戦闘には使用できん。全く困ったものじゃよ。」

 狐姫がやれやれと言った態度で言う。


「その術式を刻み込んだ素材を固い素材で囲うってのは無しなのか?」

「勿論試したわい。ただそうすると今度は装置の巨大化と燃費の悪さが付き纏ってくるんじゃよ。どうにも術式を刻みこみ辛い素材と言うのは力の通しも悪いようなんじゃ。

 かと言って部分部分に硬い素材を使おうにもそうすると今度は術式が干渉して不具合が発生するんじゃよ。

 となると理想の素材はそれ相応の強度と力の通しと蓄積能力が良く、周囲の物体との干渉を起こしづらい素材という事になる。まあこれは理想論じゃがな。」

「だなぁ。」

 狐姫もそんな素材はありえないと考えているのか夢を語る様に言う。


「霧王よ。」

「何だ?」

 狐姫が少々真剣な目をしながらこちらを見つめてくる。


「イチコに良い素材の心当たりがないか聞いてもらってもよいかのう。」

「ああ、了解。ちょっと待ってくれ。」

 俺は一度リンクを切ってイチコの下に向かった。



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「イチコ。休憩中悪いけどちょっといいか?」

「……んぐっ、何ですか?」

 イチコが俺の声に反応して起き、俺の方を向く。

 さて事情説明だな。


「かくかくしかじか」「まるまるうまうま」


 いやー、高速伝達呪文は便利……


「って、これじゃ伝わらないんでちゃんと説明してください。」

「ですよねー」

 というわけでノリツッコミをしてくれたイチコに狐姫から頼まれた事を話す。


「うーん。そう言う事なら多少は心当たりがあります。」

 おっ、マジでか。


「ケニアのトゥルカナ湖に黄金色のモノリス型のダンジョンがあるのですが、そのダンジョンのモンスターの巨大なロボット……」

「ロボかぁ……」

 思わず俺の目が爛々と煌めく。

 俺の反応にイチコが多少引くが、俺がこういう反応をするのはしょうがないだろう。だってロボだよ。ロボ。俺だって男ですから人並程度になら憧れはありますとも。


「えーと、そのロボなんですけど、装甲板や動力炉などがあって、それが普通のモンスターたちとは大きく違います。なのでもしかしたら、と言うレベルですけど。」

「なるほどなぁ……」

 俺は思わず感心する。

 とりあえずあれだな。狐姫に話して良い感触だったらウチからも何人か出して鹵獲させよう。で、魔改造してウチでも使えないか試してみよう。だってロボだし!ロボだし!



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 その後、狐姫からも物は試しという事で了承が得られ、武者修行も兼ねて四魔王がそれぞれ一人ずつ眷属を出し合って鹵獲しに行くことになった。

 なお、ウチからは最近糖度が上がり過ぎて部下からどうにかしてくれと言う訴えが出始めているチリトを、狐姫からはムギが出てきていて、雪翁からはレベル4の雪人、白船ユキコという女性騎士が、竜君からはレベル3の桜火人、枝垂(しだれ)ハチという女性治療師が出てきている。

 一応チリトが選ばれた理由としては始めて戦う相手でも弱点を看破できる高い解析能力を持つからで、ムギに関しては高い火力と加工技術を有していて現地で加工を試せるからという理由はあるけどな。他の二人は知らん。

 それと、大陸移動後に糖王の方からウネが加わる予定だそうだ。


 とりあえずあれだな。チリトの奴が浮気をするとは思えないがこう言わせてもらおう、


「ハーレム野郎は爆発しろ!」

「アンタが言うな!このエロキリ!」

作者<とりあえず二人とも爆発すればいいと思う。

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