第119話
暴力的な表現が今回は濃いので苦手な方はご注意ください。
「イレギュラー……?」
イズミは思わず聞き返してしまいました。
「ああそうだ。多少緩めておいたとは言えこの場に踏み込めたのがいい証拠だ。しかもオマケ付きで踏み込むなど規格外もいいところだ。」
緩めて……?オマケ……?
オマケはモヤ助の事だろうけど。緩めて……って?
「分からない。と言う顔だな。ふふふ。いいだろう。今日は予想外尽くしで私の機嫌も良い、一つ一つ貴様がおかしい点を挙げていってやるとしよう。」
椅子に座っていた魔神の威圧感が大きく増し、その威圧感は物理的な圧力を伴ってイズミもモヤ助も地面に叩きつけられます。
「まず一つ目。この場所についてだが、ここは本来ならば結界によって私の許可した者以外は決して立ち入ることが出来ない領域でな。今回は多少結界を緩めているがそれでも並の魔王程度では勘づく事すらできない場所なのさ。」
並の魔王では……って……えっ?
「そこに貴様は極々自然に気づき、入り込んだ。これがどれだけ異常な事なのかは私の力を知っている貴様ならよく分かるだろう?」
えっ、でもイズミにはそんな力は……
「二つ目。貴様は今回の蛸王との戦争時にその犬の力や周囲の人間の力を多少借りたが、ほぼ単騎で大ダコを仕留めていた。」
魔神がイズミに向けて二本目の指を立てながらそう言います。
「実を言えばあの大ダコは魔王の様な強い力を持つ者か、特殊な技術か、後はそうだな。何十人と死傷者を出すのを前提とした人海戦術が倒すのに必要と考えられている魔性なのさ。なのに貴様はそれを仕留めた。」
それは……大多知さんが頑張ったからじゃないの?
「くくく、死傷者多数のパターンは指揮官が居るのが前提なのさ。つまり二つ目の異常な点はその戦闘能力と言うわけだ。」
魔神は口元に手を当てて笑います。
規格外がどうしてそんなに楽しいんでしょうか。イズミにはよく分かりません。
「楽しいさ。」
「くっ……あっ……」
イズミにかかる圧力が増します。
「さて三つ目だな。貴様は私が真能守シガンとして『霧の傭兵団』に居た時から私に対して警戒の様なものをしていた。」
警戒……?だってシガンからはその力のせいで妙なものしか感じなかったんだから当然でしょ?
「それがおかしいのさ。あの頃私は貴様らに疑われない様に何重もの認識阻害・妨害・その他諸々のスキルを常時展開していた。それに加えて私自身の行動も貴様らに疑われない様に気を使っていたのに貴様は私に疑いを持った。」
そう言えばリョウ姉ちゃんもムギ姉ちゃんもシガンに対して何も警戒していなかった。それはこういう事だったの!?
「つまり貴様には何故か私の得意とする精神干渉系のスキルが通用していないことになる。現に今も貴様の心を読むことはできても、弄る事は出来ていないし、私が魔王化の際についでにやっている世界全体への記憶操作もほとんど効いていないようだしな。」
魔神がイズミの方をまるで爬虫類の様な黄色い目で睨み付けてきます。
「だがここまで規格外が霞むようなイレギュラーを貴様は持っている。」
魔神が椅子から立ち上がってイズミの方に近づいてきます。
イズミは必死に逃げようとしますが、全身にかかる圧力のせいで指一本動かすことが出来ません。
魔神がイズミの右腕を掴み、そして、
ボキッ!
という嫌な音と共に右腕が折られました。
「ーーー……!」
ですがイズミが悲鳴を上げる間もなく、イズミの体はすぐに折れた右腕を再生させて元通りにします。
「まず、このレベルなら一瞬。」
そう言いながら魔神はイズミの腹が上になる様に軽く蹴った後に片足を上げ、
イズミの腹を思いっきり踏みつけました。
「あっ……ぐっ……」
その一撃でお腹の中が何ヶ所も壊れたのが分かりました。血は混じっていませんが口から妙な液体が咳と共に出ます。
でも、少しずつ、確実に、普通の人なら即死しているはずの傷なのに治っていき、数秒で完治します。
「そして、このレベルでも数秒で完治。おまけにだ、」
そう言って魔神はイズミの心臓がある場所に手を当てて一言呟きます。
「≪
その瞬間。イズミの中に『死』が流れ込んできたのかが分かりました。
『死』は瞬く間にイズミの心臓に到達し、イズミの心臓をそれがあるべき姿であるかのように停まってしまいます。
でも、
「これでも死なない。」
「っつ…!はっ…!?」
イズミの体は『死』を否定して心臓の動きは元に戻ります。
「さて、何故貴様は死なないんだろうな?一度死んで蘇った事があるからか?」
蘇った……?そんな事が……
「ふふふふふ。まあ今はそれでいいさ。何にしてもこれはとびっきりのイレギュラーさ。生物と言うのは一定のラインまでは死を否定しても、ある一線以上は死を否定できない。ましてや戻ってくることなぞほぼ不可能だ。だが貴様はそれをしている。ある意味私以上の化け物だな。どうしてそれを出来るのか貴様が理解した時が楽しみだ。では、今日はこれぐらいにしておこうか。」
そう言って魔神が腕を一振りするとイズミとモヤ助はいつの間にか今までいた奇妙な場所から港町近くにある畑の真ん中に飛ばされていました。
そこには既に魔神の影も形もありません。
そして、イズミは抜け切っていないダメージのために気を失いました。
やはりイズミはおかしかった!
ちなみに全てのスキルには発動を望んでから実際に発動するまでの間にほんの僅かなタイムラグが存在しています。尤も小数点以下何桁と言うレベルなので作中ではまだ誰も気づいていませんが。