第118話
チリトが第4回日本人魔会議に出席していた頃、『白霧と黒沼の森』では、
「で、結局捕まえたこの半漁人はどうしますの?」
リョウが辛うじて生きているレベルでボコボコにされた上に簀巻き状態の半漁人を指で指し示しつつ俺にその処遇を聞いていた。
うん。確かに捕縛はしている。けれどこんな半死半生の状態にまで追い込むとは思わなかった。どうやら十年間の傭兵生活によって俺も気づかない内にだいぶリョウお嬢様はやさぐれてしまわれたようです。
というか、爪を剥され、鱗を削がれ、骨の何本かと内臓のいくつかが傷つくレベルって普通の人間や眷属なら死んでる状態だと思う。あまりの惨状にイチコもちょっと引いてるし。
でも生きているんだよな。哀れな事に。しかも蛸王のモンスターだから主にとって不利になるようなことは喋りたくても喋れんだろうし。
うん。本当に哀れだ。
「聞いてますの?」
「あーうん。聞いてる聞いてる。処遇だったな。専用の個室を作ったからそこに自殺防止の処置を施した上でとりあえず放り込んでおくわ。」
いかんいかん。今はこれ以上この半漁人がこの世に絶望しない様にしてやるべきだった。
「すぐに蛸王に関する情報を得るのではないのですか?」
「単純に聞いてもお前たちと一緒で主に関する情報は得られないし、記憶を探れるようなスキル持ちは確保してないからな。今は捕獲しておくだけ。」
そう。今は捕獲しておくだけ。
というか、蛸王討伐の為にこの先やる事多すぎるよなぁ…ざっと挙げるだけでもこれぐらいはやるべきことは有ると思うし。
・実用的なレベルの超長距離転移方法の開発
・蛸王のダンジョンは太平洋の海底にあると考えられているので、潜水関連スキルの開発
・捕縛したモンスターから内部情報を探るための読心スキルの開発
で、厄介な事に一番上の転移関係以外は関連スキルも分からないので現状では手の出しようもないと言うね。
これは素直に俺が地道なスキル開発を続けるか、狐姫もしくは雪翁が画期的な策を思いつく。あるいは誰かがそういうスキルを習得してくれるかどうかだよなぁ……
どの方法にしても年単位の時間がかかりそうだけど。
「その表情から察するに蛸王討伐はだいぶ先の事になりそうですわね。」
「というより、先にせざる得ないんですよ。リョウお嬢様。」
俺の表情から先の長さを読み取ったのか二人がそんな事を言う。
とりあえず、人間側の有力者と連絡取って関連スキルの所有者を洗うかぁ……
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そして一方その頃イズミは、
「いやー、あの時のガキんちょがこんな強さになっているとはな。」
「?」
街の復興作業を手伝っていました。
とりあえず立壁と言う人間さんがいつも構ってきて五月蠅いです。
ロリコンなんですか?クロキリお兄ちゃんの同類ですか?だったらイズミは対象外にすべきです。イズミはこう見えてもうすぐ二十歳何ですから。お酒だっていけるんですから。
「立壁!無駄口叩いてる暇があったらお前も仕事しろ!」
「ういっ!すみませんっす!大多知さん!」
ほら大多知オジさんに怒られた。
それにしてもこの港町の防備はしっかりしていますよね。戦闘開始からイズミたちの到着までにだいぶかかったはずなんですけど、被害は他の地域よりも明らかに少ないです。
大多知オジさんの力ですかね?
何にしても一通りの復興が終わったらクロキリお兄ちゃんに報告しないといけないですね。
と、そこまでイズミが考えた所で突然郊外の方からドーーーーーーーーン!という爆発音が聞こえました。
「何があった!」
大多知オジさんが状況把握をしようとする間にイズミはモヤ助を呼んで騎乗。ポールアクスも作り出していつでも戦えるようにしておきます。
「郊外の方で何者かが爆発系スキルを使用したようですが、下手人は既に逃亡したようです!」
男の人が大多知オジさんにそう報告する。
そしてそのまま大多知オジさんも立壁も現場の方に行ってしまいました。
でもここでイズミの第六感は妙な感覚を爆発が起きた方とは別の方から感じて、イズミはその感覚に従ってモヤ助を走らせました。
「居る……」
イズミにはこの感覚に覚えがありました。
忘れもしないアレの気配です。
どうして居るのかも、何をする気なのかも分かりませんがアレを見逃すことはできません。きっとアレを見逃せばまたホウキ姉ちゃんみたいな人を生み出すことになるから。
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どれだけモヤ助を走らせたのか分かりませんが少しずつアレの気配が近づいてきます。
でも、何かがおかしいです。
あの港町の周囲は平原で、今走っているような森の中ではなかったはずです。それに走っている間にどんどん見たことも無いような花が足元で咲き乱れるようになっていきます。
やがて、木々は疎らになり、代わりに足元に咲く花の種類と数は増えていきます。
そしてイズミが森を抜けた先に待っていたフードを被った少女はイズミの姿を見て一言だけ言いました。
「やはり貴様はイレギュラーなようだな。」
と、