第117話
「さて、それでは第4回日本人魔会議を開催させていただきます。」
鴨河さんがいつも通りに会議の開催を宣言する。
「さて、今回の議題を上げる前に先日の『這い寄る混沌の蛸王』の一件では皆様方に大変お世話になりましたので、その礼を最初に述べさせていただきます。」
そして、僕たちに向かって頭を下げる。
やれやれ、仮にも人間のトップなんだから簡単に頭を下げるものじゃないでしょうに、ここは一応フォローしておこうか。
「それは何の話で?霧人達は自分の率いれる手勢を連れて勝手に無礼な連中を葬っただけですよ。」
僕はそう言って他の魔王代理たちの顔を見る。
「そうですね。こちらにしても狐姫様が考案された新兵器を試しただけの話です。」
狐姫の代理であるイナホさんも僕の意図を察してくれたのかそう言う。
「私の所はむしろ地元の方々の協力あっての撃退ですから、むしろ礼を言うべきはこちらかと。」
雪翁の代理であるユウさんもそう言ってくれる。
「その……お恥ずかしながら私たちの所に至っては自力での撃退が出来ていなかったので……頭を下げられましても……」
竜君の代理であるミチルさんに至ってはどこか恥ずかしそうだ。
まあ他と比べて竜君の所は被害が大きかったみたいだからこの反応もしょうがないかな。
「むしろ今の僕たちが考えるべきは今後も続くであろう蛸王の攻撃に対する備えだと思いますよ。」
「そうですな。そしてそれは今回の議題でもあります。」
全員が肯定の意を何かしらの形で示す。
「まずウチと狐姫様の所は敵が今回以上の規模で攻めてこない限りは何度攻められても問題ないでしょう。」
「まっ、そうでしょうね。私たちの所には狐姫様の技術があるし、霧王様の所にはイレギュラーとでも言うべき半魔王『定まらぬ剣の刃姫』に加えて、『霧の傭兵団・団長』の那須リョウを初めとした優秀な眷属が何人もいるわけだし。」
僕の現状説明に対してイナホさんも同意を示してくる。
周りの人たちの表情を見る限りでは全員その辺りの考えは一致しているだろう。
「なので問題なのは残りの二魔王の領域と日本海に面した空白地帯です。」
僕は地図を開いて各魔王の大体の勢力圏を示しながらそう言う。
「そうですね。今回こちらは蛸王だけでなく北極海の魔王も手を出してきましたからね。雪翁様の知略のおかげで問題はありませんでしたが連戦となれば色々と考えなければならないことが出てきますね。」
「私たちの方はもっと深刻です。今回の件で竜君様のレベルが上がったので多少の戦力増強は出来ますが、それでも火力不足は補いきれないと思います。」
ユウさんとミチルさんが深刻な顔をしながらそう言う。
「雪翁様の所に関しては昔あった考え方になりますが入植者の屯田兵化という方法が使えると思います。今でもそちらの二魔王の領域に比べれば安全という事で入植希望者は多いですし、雪翁様ならばこの力が弱い者でも上手く扱えるでしょう。」
鴨河さんが案の一つとしてそう言う。
というか、やっぱり一般民衆からするとクロキリさんって恐怖の対象でしかないのね。まあ狐姫も似た様なものみたいだけど。
「問題は竜君様の所ですな。こちらも入植希望者は多いですが、失礼ながら竜君様に用兵は向かないようですし。」
「そうですね。残念ながら数だけ多くても御しきれないと思います。」
一気にミチルさんの表情が暗くなる。まあ確かに竜君に用兵の才は無さそうだよね。それは模擬戦の内容や、クロキリさんの話を聞いてもそう思う。
「ですが、竜君様もその眷属でもある桜火人も貴重な回復系スキルの所有者です。見捨てる気にはなれません。」
「僕もそれに同意ですね。ただ、距離があるので緊急時に援軍を送るのは少々厳しいですが。」
僕とユウさんがそんな事を言いながらイナホさんの方を見る。
まあ、クロキリさんも雪翁も援軍を送るのが厳しいなら、ねぇ?
「分かっていますわ。援軍の主体は今回がそうであったように私たち狐人がさせてもらいますわ。」
よし、賛同してくれた。けど、
「あ、ありがとうございます!」
「ただ、お二方の所からも多少の常備軍は出してもらいますし、桜火人を各地へ派遣するぐらいの見返りは求めさせてもらいますわよ。」
「それぐらいは当然させていただく。」
「確証は出来ませんけど、その位なら僕の裁量でどうにかできると思いますよ。」
「は、はい。」
これぐらいは当然のように求めてくるよね。
まあ、このぐらいならクロキリさんも認めてくれるだろう。むしろ狐姫の技術や雪翁の策略を学ぶいい機会だと思うかもしれない。
「数は力ですからな。人間でも動かせる者はこちらでも動かさせてもらいます。」
と、ちょっと空気化していた鴨河さんも竜君の領域を守る事には協力をしてくれるみたいだ。
うん。これは良い傾向だね。
「さて、そうなると後、問題なのは空白地帯かな?」
「そこに関しては狐姫様、霧王様、雪翁様の三軍合同で警備をすればいいのでは?」
「そうですね。それでいいでしょう。現に先日の件でも霧王様はわざわざそちらにも兵を出していたようでしたし。というわけで何をしていたのかを喋っていただけますか?」
あっ、狐姫側にはバレてたのか。まあ、隠しておくべきなのはどんな部隊が動いたかであって、何をしたのかは別に隠す必要が無いってクロキリさんも言ってたし問題ないか。
「僕も全てを知らされているわけではありませんが、どうやら日本海から潜入していた蛸王の自立思考が可能なモンスターの捕縛を行ったようです。何故捕縛したのかや、捕縛後にどうしたかなどは知りませんが。」
僕はやれやれという動きをしながらそう語る。
「まあいいでしょう。どうせ霧王様の事ですから特殊なスキル持ちでも確保しているのでしょう。」
「まあ恐らくはそうでしょうね。」
「ですね。『白霧と黒沼の森』に踏み込んだまま中に居続ける桜火人もいるようですし。」
「霧王様の領域では神隠しもよく起きていますしな。」
いや、そこで僕の方を睨まれても困るんだけどね。止めようと思っても止められないし。
「ああうん。そこはほら各魔王の秘匿事項の一端という事で流させてもらってだ。残る問題はこうして協力しようとしていると沸きそうな≪災厄獣の呪い≫への対策じゃない。」
「妹からの報告にもありましたが相当厄介な呪いのようですね。」
「国内での発生報告は未だありませんが、単純にこちらで感知する前に寿命が尽きているだけの可能性もありますからなぁ。」
よし、話題逸らし成功。
でも実際この呪いは厄介なんてものじゃないんだよね。姉さんもこの呪いのせいで死んだんだから。僕はこの呪いも呪いを撒いた奴も絶対に許せない。
「こちらで確認できている前例がチリト殿の姉君の一件しかないのも痛いですね。強さが元になった人物に比例するかどうかによっても対策が大きく変わりますから。」
「一番簡単な対処法は消極的な方法ですけど『出現したらとにかく逃げる』これしか無いですよね。」
「ですな。半魔王でも苦戦するような相手が出てくる可能性があるのですからそれしかないでしょう。」
「本当は呪いを解除できればそれが一番いいんでしょうけどね。」
僕のその一言に、その場にいる全員が思わずため息を吐きながら頷いた。
後始末回でした。