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第113話

狐姫サイドです

 大多知たちが戦端を開いたのと同時刻。

 『百獣纏う狐姫』の治める『戦獣達の狐都』より南の港町にも同じように『這い寄る混沌の蛸王』のモンスターが襲撃を仕掛けていた。


 だが既にこの港町の住人達は全員避難しており、現在残っているのはいずれも戦う力を持っている者たちだけである。そう言った面では大多知たちが戦っている港町よりも状況はいいだろう。


「でも、それを除いてもここに来た連中は運が悪いねぇ。」

 そんな中、一人の狐人…不知火ムギが徐々に地上に上がりつつあるモンスターたちを尻目にそんな事を言う。

 彼女の右手には奇妙な文様が掘られた黒い石の様な物体が握られている。そして周囲にいる狐人と人間も同じような物体を持っている。


 そして、モンスターたちが予め彼女たちが定めたラインまで到達する。


「全員で一斉に行くよ!」

 ムギの掛け声とともにその場に居る全員が一斉にモンスターたちに向かって黒い物体を投げつける。


「ギャハハハハ!なんだこの石ころは。こんな石ころで俺たちが倒せるとでも思っているのか。」

 だが、その攻撃に対して先頭の鰓付き人間型モンスター、所謂半漁人も含めて蛸王のモンスターたちは意にも介さず大笑いをする。


「それならこれでどうだい?≪渦炎≫」

 しかし、ムギはそんなモンスターたちの反応を予想通りと言った表情で見つめつつ≪渦炎≫のスキルをモンスターたちの中心、特に黒い物体が集まっている部分を起点に発動する。

 その瞬間……



轟ッ!!



「「「ーーーーーーーーーーー!?」」」

 爆音と共に通常の≪渦炎≫を遥かに上回る炎の渦が笑っていたモンスターたちの中心に巻き起こる。

 炎の勢いはまるで天を衝くような凄まじい勢いで、属性的な相性もあって少し掠っただけでもモンスターは痛みに悶絶し、炎が僅かでも触れた点から全身に延焼してモンスターたちに断末魔を上げさせつつ焼き尽くしていく。


「総員続きな!」

「了解!!」「よっしゃあ!」「やったらぁ!」

 そしてモンスターたちが炎にもだえ苦しむ中、他の者たちも火属性のスキルを中心に撃ち込んでいき、スキルが撃ち込まれる度に炎の勢いは大きく増していく。

 やがて、炎の勢いが衰えていくとともにモンスターたちの断末魔も止み、後には無数の黒焦げの死体が転がる。


「まずは第一波の駆除完了っと。それにしても新技術は中々の威力だねぇ。」

 ムギはそう呟きつつ懐から黒い物体を取り出して手の中で弄ぶ。

 黒い物体の正体。それは大陸でムギがサンプルとして回収した様々な物体・素材を研究・複製して組み合わせた物である。

 具体的には高い発火能力を持つ油を自らの体積以上に液体を吸うことが出来る木材に吸わせ、それに大陸のとある地域で開発されたスキルを紋章の形にして物体に刻みつける技術を組み合わせることにより火の勢いを爆発的に強める事に成功した物体で、狐人の間では『黒爆材』と呼ばれている。

 なお、『黒爆材』の素材はいずれも別の地域のものであり、一つ一つの技術や素材ならばリョウ達も知っているが、全てを知っているのは≪霧の傭兵団≫副団長として活躍していたムギだけである。


「第二波来ます!総員備えてください!」

 物見の声がムギたちの間に響き渡る。


「ふん!新技術を試す格好の機会だよ!お前たち!」

「「「ハッ!」」」

 ムギの指示を受けて部隊の奥から様々な装飾の様なものが付けられた大砲が数門持ってこられ、大砲の中に幾何学模様が刻みつけられた球体が装填される。

 そうして準備している間にもモンスターたちは迫ってくる。だが、先程の火柱を見たためなのか一定ラインでこちらを警戒して動きを止める。


「へえ、多少は考える頭もあるようだねぇ。でも甘い。」

 だが、それはムギの思う壺であり、ムギは一度笑った後に大砲を構えている者たちに指示を与える。そしてその指示に従って大砲が火を…否、ある大砲は雷を、またある大砲は突風を放ち、中には魔力の塊を直接放つものや、毒の塊を放った大砲もある。


「「「ギャアアアアアアァァァァァ!」」」

 そのまるで法則性のない攻撃は容赦なくモンスターたちを阿鼻叫喚の地獄へと叩き落としていき、その地獄の中で運のいいものは大砲の一撃が直撃して苦しむ間もなく爆散し、運の悪いものは一瞬では死ねないレベルで致命傷を負って倒れていく。


 ムギたちの使った大砲の名は『技能装填砲』。

 弾には先程も紹介されたスキルを刻みこむ技術が使われ、大砲本体には暴発を防いだ上で弾を飛ばすための特殊な指向性封印能力を持った貴重な素材が使われており、着弾と同時に弾に刻まれたスキルが発動するように作られている。


 そして第二波のモンスターたちが殲滅された所に第三波のモンスターたちが襲来する。

 だが、彼らの足は前の二部隊の惨状を目の前にして完全にすくんでおり、もし逃げられるならば今すぐにでも逃げるであろう雰囲気である。


「さて、そっちから来る気が無いならこちらから行かせてもらうよ!」

 勿論、そんな隙を見逃すムギたちではなく、一気呵成に足のすくんだモンスターたちに襲い掛かり、その攻撃によって敢え無く集団は瓦解する。


 戦いはそのまま進んでいき、モンスターたちにとって頼みの大ダコも『黒爆材』と火属性スキルの組み合わせによって為す術なく焼かれてその動きを止められ、結局蛸王の配下たちは何一つ為せずにムギたちの手によって殲滅されることとなった。



■■■■■



「ハハハハハ。中々の戦果じゃ。新技術とは全く持って素晴らしいものよのう。」

 『戦獣達の狐都』の中で狐姫はムギたちからの報告を受け取り、その報告に満面の笑みを浮かべる。


「さて、残りの阿呆共も順次殲滅させてもらうとするかの。」

 そして、狐姫は上がってきた報告を加味しつつ他の港町にも指示を出していった。

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