第112話
まずはクロキリの治める領域です。
「敵襲うううぅぅぅ!!」
閑静な港町に物見の声が大きく響き渡る。
ただ、街の住人達はいつもの様に霧王のモンスターたちの配下かと思い、その動きは鈍い。
だが、物見の放った次の一言でその考えは否定される。
「敵は東、海から来襲!」
街の東。そこは『這い寄る混沌の蛸王』のモンスターが蔓延ると同時にこの港町にとって貴重な収入源である太平洋が広がっている。
今までも沖にまで出た船が襲われたり、釣り上げた魚がモンスターで襲われたりはした。だが、敵襲と呼べるほどのものは今まで無かった。
そして、今回物見はわざわざ敵襲と言った。ならばこの物見の言葉に続くのは……
「数は1000以上!数え切れません!」
絶望の言葉でしかない。
「「「ーーーーーーーーー!?」」」
閑静だったはずの港町が一気に喧騒に沸き、戦う力を持たない住民たちは蜂の巣を突いた様に避難所へ向かって逃げ出し、戦える人間たちはすぐさま準備を整えて駆け出す。
そして、その騒ぎの中二人の男性が使い込まれた装備を身に着けてゆったりと港に近づいていく。二人の動きはそれぞれ方向性こそ違うが一朝一夕で身に付くようなものではなく、熟練の戦士のそれであり、二人が港に近づくと勝手に戦闘準備を進めていた戦士たちの手が止まる。
「あれが敵ですか。多いっすね。」
男の片方。三十路過ぎの男性が水平線の彼方に現れた無数の影を見てそう呟く。
「ふむ。港は放棄して地上に上がったものから順次片付けた方が良さそうだな。」
もう一人の男。外見からすれば五十を超えているであろう男性がその呟きを受けてそう答える。
「今から私が諸君らの指揮を執る!全員でこの戦いに勝利するぞ!」
「「「おおおおおぉぉぉぉお!」」」
年老いた方の男の言葉を受けて戦士たちが一斉に鬨の声を上げた。
二人の男の名は三十路過ぎの男が立壁ツヨシ。五十路過ぎの男は大多知マモルと言い、かつては軍に所属し、鬼王、雪翁の配下と戦い、霧王の配下である霧人達とも関わったことがある二人である。
「防壁の構築、非戦闘員の後退、中央への連絡。他にもやる事は数多くある!戦う前から全ては始まっている!いずれも欠かすなよ!!」
「「「了解!」」」
大多知の指示に従って戦士たちがそれぞれの役目を果たすために動き出す。
ある者はスキルで石の壁を生み出し、ある者は≪視覚強化≫で敵の陣容を調査する。そしてある者は代えの武器をスキルで生み出し、ある者は中央との連絡を取って援軍を求める。中には戦いに備えて攻撃の手順を確認し合い者や、非戦闘員たちの誘導を行う者もいる。
そして戦いが始まった。
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イズミは左腕から柄の長さがイズミの体よりも長い斧、所謂ポールアクスを≪生体武器生成・斧≫で生み出し、その斧を棒高跳びの棒のように使って、一緒に『長距離転移陣』の上に乗っている靄大狼の背中に乗ります。
「準備完了……。」
イズミがそう呟いて右手の斧を掲げると同時にイズミの乗る靄大狼のモヤ助と今回の配下である薄靄狼たちが遠吠えを上げます。
そしてイズミたちは光に包まれていきました。
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「クソッタレ!なんて数だ!」
壁を乗り越えようとした半漁人を両手の甲に発生させた≪小盾障壁≫で弾き飛ばしつつ立壁は思わず悪態を吐く。
「だが、やるしかない。やらなければ全員死ぬだけだ。『射撃部隊!一斉掃射!』」
大多知の≪指揮≫を受けて残り少ない力を振り絞った戦士たちが一斉に射撃系のスキルを放ち、それによって多くのモンスターが防壁から引き剥がされ、断末魔を上げつつ倒れ、生き残った者たちも一点に集められていく。
「続けて『近接部隊!挟撃せよ!』」
そしてモンスターたちが一ヶ所に集められたところで左右から近接攻撃を得意とする者たちが傷ついた体にムチ打ちつつも、突撃系スキルを使える者を先頭に切り込んで敵を蹂躙しつつ反対側に抜けていく。
「ふう。これで第何波でしたっけ?大多知隊長。」
「さあな。だが、もう数えるのも煩わしくなる程度には来たと思う……。」
大方の敵が殲滅され、微かに息が残った連中も再びの遠距離攻撃によって殲滅されたところで二人は一息つく。
だが、戦いはまだ終わらない。
「次来ます!数は……」
それどころか、
「大ダコ含めて200超です!」
まだまだ敵は余力を残している。
「ちっ……さすがにキツいっすね。」
「援軍を期待するのは……愚策だな。『総員戦闘準備!』」
だが、それでも彼らは諦めない。自分たちの街を守るために命を賭けて戦い続ける。
そしてそんな彼らの思いは報われる。
突然、広場に光が満ち溢れた。
その光景に戦士たちは新手の敵が何かをしたのかと身構える。
だが、光の中から現れたのは新手でもなければ敵の攻撃でもなく、靄を纏った狼の群れ。そして群れの中でも一際大きな狼の背には白いポールアクスを持った一人の少女が乗っていた。
「突撃……。」
少女の号令と共に狼たちが一斉に敵に襲い掛かっていく。
戦力としては少女たちの方が明らかに少なかった。だが、狼たちは必ず二匹一組で敵に襲い掛かり確実に敵の勢いを削いでいく。
その中で少女が一度大多知たちの方を見てから騎乗している狼に指示を出して大ダコに向かって駆け出していく。
「ハッ!俺たちも続くぞ!魔王に助けられたとあっては我らの誇りが許さんぞ!行けぇ!」
そしてそれを受けて大多知は動けるものに激を飛ばして自らも駆け出していく。
そこから流れは一気に傾いていく。
狼たちは確実に敵の勢いを削ぎ、勢いが削がれた所に人間たちの攻撃が殺到して敵が打ち倒されていく。
そして大ダコとの戦いは……、
「行くよ……モヤ助。」
「ワン!」
イズミと靄大狼のモヤ助が単独で行っていた。
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大ダコが無数にある足のうちの一本をイズミたちに向かって叩きつけてきます。
「避けて。」
「ガウッ」
イズミはモヤ助に指示を出し、モヤ助は一気に駆けることによって大ダコの攻撃を紙一重で避けます。
「フン!」
「ーーーーー!?」
そして、避けた所でイズミはポールアクスを≪筋力強化≫を施した上で振り下ろし、大ダコの足を切り落とします。
「一本目……二、三、」
続けてモヤ助のスピードを生かして暴れる大ダコの足を回避しつつすれ違いざまにポールアクスをテコのように扱って足を切り飛ばしていきます。
「ーーーーーー!?」
一本足を切り飛ばされる度に大ダコが声にならない叫び声を上げますが、イズミは無視して攻撃を続けます。
と、避けきれないタイミングで大ダコの攻撃がイズミに向かって迫ってきます。
イズミはモヤ助の前に飛び出てポールアクスで攻撃を防ごうとします。
「おっと、守るのは俺の仕事だぜ。≪騎士盾障壁≫≪障壁拡大≫」
しかし、その前に一人の男性がイズミたちの前に出てきて巨大な障壁で大ダコの攻撃を受け止めます。
「『あの大ダコで最後だ!彼女に当てない様に斉射三回!』」
そして、建物の上から偉そうなお爺さんが声を張り上げて≪指揮≫を使い、周りの人たちがその指示に従って攻撃を仕掛けていきます。
一瞬他の敵はどうなったのかが気になってそちらを見ますが、どうやら既に片付いていたようです。
と、視線を戻すと多くの人たちの攻撃によっていくつもの爆発が起こっています。
「行くよ!」
イズミはチャンスだと思いました。なのでイズミはモヤ助の助けを借りて大ダコの体を駆け上がっていきます。
周囲の人たちは何をする気なのかと固唾を飲んでいます。
「≪生体武器生成・斧≫カスタム-『重厚巨骨斧』」
イズミは頭頂部でポールアクスを捨てて右腕から新たな斧を作り上げます。
その斧は通常の骨よりも密度を高めた骨を素材に、通常の斧よりも刃も柄も分厚く、大きくした物で、その重量と大きさはイズミの強化された腕力でも持てない程のものです。
ですが、持つ必要なんてありません。
ただイズミはその重さに任せ、刃が正確に入る様に方向を整えるだけ。
「落ちろ……」
「!?」
イズミの『重厚巨骨斧』が大ダコの頭に食い込んでいくとともに大ダコは悲鳴を上げますが、斧は止まらずにその重さによって大ダコを真っ二つにします。
そして大ダコが倒れると同時に周囲の人間たちから歓声が上がりました。
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